(146)対岸の火事

 最近のニュースを騒がせている福島の処理水放流問題で、国民の間でも賛否が分かれているらしい。


 放流に肯定的な人は「処理水の放射線量はALPS処理されて、安全基準に適合しており、IAEAのお墨付きもあるから大丈夫」という事らしく、放流に否定的な人は「安全基準が都合良く変えられており、処理水の安全性を保証するエビデンスが示されていない」という主張の様だ。


 化学的なエビデンスは東京電力が提示しており、政府もそれを認可したというので安全性の担保が確保された事は確かではあるが、処理水が本当に安全なものであるならば、各行政が協力をして、日本中の海に放流すればいいのにと僕が思うのはおかしな考え方だろうか。


「福島の水産物を食べて応援しよう」


 というキャンペーンがある様だが、福島の水産物は中国の輸入禁止を受けて大損害を受けたそうだ。


「そんなの国内に流通すればいいじゃないか」


 という声もあるのだが、水産業者に言わせると、「国内流通する為には加工して流通しなければならない。中国は加工前の状態で買い取りしてくれていたものを、国内用に加工する人材も設備も足りない」という事だそうな。


 で、その補償を政府がするかと言えば、実は大した補償は無いというのが実情らしく、つまりは中国に輸出出来なかった海産物を国内流通に切り替える事は容易では無いという訳だな。


 という事は、福島の処理水放流を行なうのは時期尚早だったという事だと思う訳だ。


 東京都民は「福島の処理水放流は妥当だ」と考えている人は多いが、「じゃ、東京湾に処理水を放流させてくれる?」と言われたら何と答えるのだろうか。


「処理水は安全だから、じゃんじゃん東京に持って来ていいよ!」


 と答える都民はどれくらい居るのだろうか。


 恐らくは都民は大反対するのでは無いだろうか。


 そう考えると、処理水放流を福島に押し付けて「処理水は安全だ」と声を上げるのは少し無責任な気がするんだよな。


 本当に処理水が安全ならば、福島の廃炉を1日でも早く実現し、住民が故郷に戻れる様に、処理水を全国の自治体で協力して受け入れるのが効率的な筈だ。


 その方が福島に早く人が戻り、産業が復活し、一番の福島への支援になるのでは無いのだろうか。


 しかし現実はそうなってはおらず、どこの地方自治体も「処理水の受け入れに反対している」訳だ。


 東京電力の恩恵を最も受けている筈の東京でさえそんな具合だ。


 小池都知事が「東京で処理水を受け入れる」なんて話をしているのは聞いた事が無い。


 この状況を見ていると「処理水放流に賛成」という人の意見に、僕はどうにも共感出来ないんだよな。


 難しい問題ではあるが、だからこそ今の日本政府のゴリ押しには疑問を感じざるを得ない訳で。


 中国に輸入禁止をさせる要因を与えたのは日本政府の決定が原因だ。


 中国にグウの声も出ないだけの準備をしていない政府による、外交の失敗と言わざるを得ないな。


 物価は上がり続け、生活は苦しくなる一方の日本において、福島の問題は、決して「対岸の火事」では無いだろう。


 僕は個人的にそんな事を考えているのだが、皆さんはどうお考えだろうか。


 ともあれ都民であり東京電力の電気を利用している僕は、福島の皆さんには頭の下がる思いしか湧かないのですよ。

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