(127)かわいい野菜

 欲望に素直になってみよう。


 そう思った僕は、スーパーで夕食の買い出しに行って、欲望の赴くままに食材を手に取ってみる事にした。


 何となく野菜を中心に食材を手にしたあたり、きっと僕の身体が野菜を欲しているのだろう。


 そして、なすびのコーナーで色々なナスを手にしたあたりで、どうやら「なすび」に並々ならぬ好意を持っている自分に気付く事になった訳だ。


 おかしいな。


 僕は昔からトマトが好きだった筈なのに、何故に今日の僕はなすびばかりが気になるのだろう。


 そう思いながらも買い物から帰り、冷蔵庫に食材を入れて行くときに、またなすびを手にしてまじまじと見つめている自分が居た。


 で、気付いた訳だ。


 なすびが可愛い事に。


 あの、ぷるんとした形に少年アシベの様なヘアスタイル。そしてツヤツヤとした紫の肌に、程よい弾力のボディ。


 下膨れしたあのぽっちゃりした面持ちが、何と言うか、とても可愛い。


 スーパーには他にも色々な種類のなすびが居た。


 まん丸な球体の様なのもいれば、色白なのも居る。


 巨大なやつも居れば、ブドウの中に紛れたら見分けがつかないくらいの小さいのも居る。


 色んな種類のなすびを並べると、それはもう「なすびの学校」の様に見えて来る訳で。


 そもそも、「なすび」という名前さえ可愛く思えて来るから不思議だ。


「なす」というひらがなにはどちらもくるっと円が形成され、なすびの丸みを見事に表現しているではないか?


 さらに「び」を語尾につける事で、畑で風になびくなすびの姿を想像する事も出来るではないか。


 なすびを英語にすると「エッグプラント」になるのだが、「卵の様な植物」という、なんとも安直な表現だ。


 それに引き換え、日本語では「なすび」という名称で親しまれる感じがとても愛おしいでは無いか。


 僕の精神状態がどういう状態なのかは分からないが、とにかく「なすび」の可愛さに気付いてしまった僕は、欲望の赴くままに、なすびを調理していこうと思うのです。


 かわいい野菜を愛でる様に調理して食す事で、僕の中に「可愛げ」というものを醸成する事が出来るのかもしれないな。


 かわいいってのは正義だ。


 よって「なすび」も正義だ。


 なすびに頬ずりさえしかねない今日の僕は、きっと何か異常な状態なのだとは思うのだが、かわいい野菜の姿に癒されている事もまた事実。


 きっとこれも神様の思し召しなのだろう。


 お盆も近いし、ちょいとなすびをまつってみてもいいのかも知れないな。


 そんな異常な今日の僕だが、仕事はいい感じに捗っているので、やっぱなすびは正義なのだ。


 これからもかわいい野菜にリスペクトを抱いて行こう。


 そんなことを豊穣の神に祈りたい気分の、今日の僕なのでありました。

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