第2話、二度の目覚め

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 コロコロリーリー、コロコロリーリー


 コオロギの鳴き声が耳にこだまする。


 昔の人はこの音を「風情がある」「秋の訪れを感じられる」なんて言って、愉しんでいたらしいが、僕はそんなの嘘だと思う。


 夏における蝉もそうだしキリギリスもそうだ


 だって虫の鳴き声が聞こえるってことは、僕のすぐ近くに虫が存在しているってことじゃないか。

  

 そんなの僕は嫌だ。うっかりふんずけたりするのは百歩譲ってまだいいとして、気がついたら、服についていただとか、顔に留まったりなんてしていたら、僕は正気を保っていられる自信がない。


 そんな状況で風情やら季節の訪れやらを感じるというのは、不可能だと思うのだ。


 そんな屁理屈が頭の中に浮かんでくる。  



「・・・由美香、遅いな」



 ぽつり、と待ち人の名前を呟いてみる。



 時刻は今、夜の9時ごろ。僕は1人、神社の石段に座って暇を潰していた。


 常識的に考えると小学生である僕がこんな時間に外を出歩いていると言うのはかなり問題のある行為である。


 実際、家を出るときはかなり肝を冷やしたし、バレたら多分説教じゃ済まないと思う。


 まあこんな非常識なことを考えつく奴と、友達である僕が悪いと言ったらそれまでなのだが・・・・・








「お待たせー京介」



お待ちかねの人物は、何やらそこそこ大きいビニール袋を抱えながらやってきた。



・・・来たか。



 いつも通りの第一声から考えるにコイツ、自分が待ち合わせに遅れたことに対してなんの責任も感じていなさそうだ。


「遅いぞ、由美香。大体、月見しようだなんて言ったのはお前なんだからな。せめて待ち合わせの時間の5分前にはついてるってのがマナーってもんだろ。」


「ごめんごめん、ちょっと遅れちゃった。」


「30分の遅刻は「ちょっと」の範疇に収まるのかについて、お前と少々話し合いたいところではあるが・・・・・なんだよそのビニール袋。」


 全く悪びれる様子さえない由美香の態度について考えるのは一旦置いておき、まずは、目先の疑問を問うてみることにした。


「ああ、これ?やっぱ気になる?」


「約束の時間に遅れてきてまで持ってきた大事なものなんだろ?。そりゃ気になるよ。」


「うう・・・、遅れてきたことに関してはほんとに申し訳ないって思ってるんだから・・・。」


「それで?、ここまで待ったんだ。早く中身を見せてもらおうか。」


「ふふふ、見て驚くなよー。」


「うっせえ、早く見せろ。」


「ブレないなー京介は、まあいいや、それじゃあ行くよ!」




 (くだらないもんだったら、どうしてくれようか)













「ジャーン、お手軽花火セットー!!」













「・・・・・・・・・え、」












「ふふふ、どうだ驚いたか、東間京介。」




違えよ。





驚き通り越して、呆れてんだよ。




「一応、聞いておくぞ。」


「ん?何?京介。」


「今何月か知ってるか?」


「ん?、そんなの知ってるよ。」















「10月でしょ?」










「・・・普通、日本人は10月に花火なんぞしないと思うぞ。」


「それはそれ、これはこれだよ!。だってさーよく考えてみて?、夜に、それも親に内緒で外出して、さあ何しよう!!ってときに、ただ月見るってのはなんか味気なくない?。と、言うわけで、味気なくなくするためのアイテムがこれです。何か質問はありますか?」


「はい、30分も人を待たせておいて、挙句の果てにしょうもないこと口走る奴は、罰せられるべきだと思います。あと、再度言うけど月見したいっていったのお前だからな。」


「う〜、だって、だって、中秋の名月だかなんだか知らないけど、私がただ月みただけで満足して家に帰ると思う??思わないでしょ!。分かったらさっさと花火!!」


 横暴だ。


 ちなみに中秋の名月は9月10日である。「10月に中秋の名月を見に行こう!」なんて言葉を昔の日本人が聞いたらなんて思うだろう。きっと抱腹絶倒するか、「常識知らず」とでも言われ、非難されるに違いない。



「はあ、」


「ため息なんてついたら幸せが逃げて行くよ。」


 どの口が言うか。





 まあそんなこんなで、他にすることもないので、俺たち2人は花火に興じる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はずだったのだが。



「あれー何これ湿気ってる!」


 花火の状態不良により、手持ち花火はほぼ死んでいた。だが、ビニールで保護されていた線香花火のみは無事だった。




と、言うわけで






パチ、パチパチ



「綺麗だねー」


「ソウダネー」


 僕たちは、「月がよく見える夜に神社の境内で2っきりで、線香花火に興じる。」なんて、よくわからないことをする羽目になった。


 本当、自分でも何言ってんのかわかんねえな。






「京介」






そんなムードもへったくれもない雰囲気の中、由美香が唐突に口を開いた。


「何?」


それはいつにもなく真面目な口調で、思わず由美香の言葉に耳を傾けてしまう。


「なんで、京介はさ、いつも私に付き合ってくれてるの?」


急に改まって何を言い出すかと思えば・・・。


「急になんだよ。」


「だってさ・・・普通こんな時間にお月見しようだなんて言ったら、普通の人は断るよ。こんな意味のわからない誘い、受けるのは京介くらいだよ。」








「そんなの僕もお前と同じ位、普通じゃ無いからに決まってるからだろ?」


「え?」


「だってさ、よく考えてみろよ。お前みたいな狂った思考を持った人間と友達やってるような奴が、並大抵の人間だと思ったら大間違いだぞ。」


「狂ってるって・・・。」


「だってこんな時間に家を抜け出して月見しようなんて考えを持てる小学生が狂ってないはずがないだろう。」


「・・・。」




「だからさ、そんな誘いに心惹かれてホイホイついてきた僕は、お前と同類なんだよ。」








我ながらなかなかに臭い台詞を吐いたものだ。










「・・・・ありがと」



先ほどまで僕の言葉を聞き、ずっと押し黙っていた由美香が急にそんなことを言い出す。



「じゃあさ、これから先も・・・・」







あれ?・・・・・





なんだ?・・・・・頭が・・・・ぼやけて・・・・・・





「狂人同士、仲良くしてくれる?」





その言葉に・・・・・俺は、・・・・・・・・なんて・・・答えたんだっけ?





「ああ、・・・・・・・・それは・・・・・・。」









「御免だな、そういうの。」











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「ッ!?」


 なんだ・・・、今の・・・・・・・・・夢、か?



 僕はベッドから半身を起こし、当たりを見回す。見慣れた僕の部屋だ。特に変わったこともない。



「そうか、夢、か。」



夢にしてはやけにリアルだった。しかもあの内容は・・・。



「いや、やめておこう。」



 僕はベッドから出て、机の上にあるスマホで時間を確認しようとした。

時間によっては遅刻もありうる。せめて7時台であれば・・・・


 そう思って僕はスマホを手に取り、電源を入れ・・・・・


「ん?」


そこで僕は異変に気づく。


「なんだ、これ?」


 スマホのディスプレイに表示されているのは、いつもの見慣れた待ち受け画面ではなかった。

 

 そこに表示されていたのは白い背景で、その中心に、

 

[ Player menu]



 と、だけ書かれている、奇妙な画面だった。


 いくらタッチしても、再起動を試みても、その奇妙な画面は変化することはない。


 どうなってんだよ。故障か?


そう困惑していると、自分の胃から情けない音が鳴った。


「そっか、昨日夕飯抜いたんだった。」


 僕はとりあえず、スマホの故障の件は後回しにして、先に朝食を取ろうと考え、階段を降りた。



 





 階段から降りた瞬間、僕はまたしても違和感に気づいた。


 いや、何も部屋が禍々しく変貌している、と言うようなわかりやすい違和感ではない。


 むしろそっちの方がわかりやすくて良かったのかもしれない。



「無音だ。」



 そう、僕が感じている違和感はそれだ。現在、この家は全くの無音なのだ。別に僕がいきなり難聴になっただとかそんな話では無く、生活音が何も聞こえてこない。

 

 現在この家には、僕の父親と母親が存在しているはずなのだ。


 なのに、彼らの生活している痕跡、朝のニュース番組の音、朝ご飯や洗濯といった家事をこなす際に生じる音といったものが何一つ聞こえてこない。


 何か不吉なものを感じた僕は、足早にリビングに通じるドアへ向かった。


 予想通り、そこには誰もいなかった。


 なんだ?、2人でどこか買い物にでも行ったのか?。


 もしそうなら、僕に一言くらい残してから出発して欲しいものだが。






グウ〜グギュルル




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まず、飯だな。



 胃がそろそろ限界かもしれない、早く何かしらぶち込んでやらないと、空腹で死にそうだ。どんな異変よりも人間としてそっちの方が怖い。


 と言う訳で、僕はトーストを空腹の余り3枚ほど平らげた後、両親が車を使って遠出した可能性を考慮し、庭に出て駐車場を確認してみることにした。



 と言うわけで、僕は玄関から外に出てきた訳だが・・・、


「誰もいない・・・。」


 おかしい、普通この時間帯、ここの道は登校中の学生や出勤中の会社員が多く利用しているはずなのに・・・。


 今日は日曜日だったか?と、スマホで曜日を確認しようとすると、


「あ、そうか故障してるんだった。」


 普段自分がどれだけスマホに依存しているかを思い知らされたところで、自分の姿が昨日も着ていた学校の制服のだったことに気づく、


「ああ、昨日着替えずに寝たから・・・。」


 流石に2日連続で同じ服というのは、流石に気持ち悪い。


 家に戻り、替えの制服に着替えてこようと思ったその時。





 




 突如、脳を激しい痛みが襲った。







「痛っ、てえ・・・・。」







だめだ・・・・・・・、耐え、られない・・・・。






そのまま、俺の意識は落ちていった・・・・・・・。














「・・・・・ーい、おーい、おーーい。」

 


なんだ・・・・・・・誰かに・・・・・・・・呼ばれてる・・・・・・・?



「起きるっすよー。」


「起きるでござるよー、東間氏いー」



この、特徴的な喋り方は・・・・・・・。



「ムッキー?、真理雄?」


「おお、やっと気がついたでござるか東間氏。」


「良かったっす。ようやく起きてくれたっす。」



気付けば僕は、地面に仰向けになって倒れていて、何故か周りに真理雄と睦月がいた。



「・・・?」 


なんで、こいつらがいるんだ、もしかしてまた夢か?



確認のため、軽く頬をつねる・・・・うん、普通に痛い



ベタな手法でここが現実であると認識し、状況を把握するため僕は立ち上がった。


 

そして、当たりを見回した。



「ここは・・、学校の、校庭・・・・いや、というか、なんだ・・・・?」



 僕は現在、双葉高校の校庭に立っていた。


 

 周りを見ると、


さっきまでの僕のように横たわっている他の生徒や、


そいつらを心配する素振りを見せる生徒、


 そして今の僕のように状況を飲み込めず、呆然としながらも何人かで固まって、不安げな様子を見せる生徒、


 なんて言うのが見える。


 いずれの生徒もどうやら双葉高校の生徒のようだ。


「どう言う状況だ?、これ」


「そう言われましても、拙者たちも何が何だかわからないのでござるよ・・・。とにかく確かなのは、「双葉高校の生徒がこの校庭に気を失った状態で次々に現れている」、と言うことくらいでござる。」


 

 うん?、なるほど、意味がわからん。



「現れている?、誰かに運ばれて来るんじゃなくてか?」


「いや、なんていうか、「気付けばそこにいる」みたいな感じっす。俺たちも、気づいたらこの場所に倒れてて・・・。」


 ・・・・・・・・・・・・・ふむ、言われてみれば僕もそんな感じだ。確か、服を着替えようとしたところで妙な頭痛に襲われて、そこから先の記憶がない。


「ん?それにしてもなんでみんなここから逃げないんだ。別にここは密室空間って訳でもないんだし、普通に帰れるだろ?」


「さっき、校庭から出ようとした男子生徒がいたんすけど、駄目だったらしいっす。なんだか、「見えない壁に阻まれた」だとかなんとか言ってて・・・。」


 


何それ怖い、ホラゲやん。


 


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、でも急に人が出現したりする様なリアル怪奇現象が起こっている時点であんまり驚くべきことでもないのか。 



  ふむ・・・、密室空間と化した校庭、集められた大勢の生徒・・・か。



 なんだか、これだけ聞くと・・・、



「デスゲーム?」


「拙者たちも先程2人で会話していて、東間氏と同じ発想に至ったのでござるよ」


「何か、冗談抜きでフィクションの世界みたいっすよね・・・。」


 やはりオタク、考えることは同じなようだ。


 

さて、どうしたものか・・・。


 

 そんなことを考えていると・・・・・












 不意に空が赤く染まった。











 突然の出来事にその場にいる全員は驚きを隠せずにいた。



「やだ、何怖い」「どうなってんだよこれ!」「さっさと帰らせろよ!」


そんな声が、そこかしこから聞こえてくる。



 無論僕たちも例外ではなく、「これから何が起ころうとしているのか」という不安から来る恐怖を隠せずにいた。


 








 「おい、なんだよあれ、」








 最初に「ソレ」に気がついたのは、とある男子生徒だった。


 








 次第に他の生徒も「ソレ」を認識し始め、「ソレ」に対しなんとも言い表せぬ異質感を感じ始めたようで、次第に口数が少なくなっていく。





「赤い・・・、玉?」






 




 そう、「赤い玉」だ。



 赤色をした謎の球体が段々と、空から降りてくる。


ついにそれは、僕らでもしっかりと視認できるくらいの高さまで降りてきた。



そして・・・













「どうも皆さん、私は「ノア」このゲームの管理者です。早速ですが皆さんには殺し合いをしていただきます。」









あろうことか人語を話し始めた。














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