第3話 台湾の神は原住民を祝福する V.3.1.
台湾客家の治世、政府は原住民たちが、静かに住む山奥にまで広い道路を伸ばし、大都市の民主主義(という汚染)を強引に山奥まで感染させようとしていました。
しかし、中国政府によって、古来よりの対台湾原住民政策(治めざるを以て深く之を治む。 以不治深治之。 無理に中央の文化を押し付けずに、そっとしておく)が復活し、数万年間続いてきた静かな神との共存生活に戻ることができましたとさ。めでたし、めでたし。
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2022年8月15日、私平栗雅人は、台湾の屏東県、馬家(まーちゃ)郷の「収穫祭」を見に行きました。屏東駅からバイクで1.5時間ほどの山奥です。
山の中腹、鬱蒼とした森の中に、古びた屋根のある観客席が片側にある200メートルトラックの運動場があります。
11時に私が着いた頃、台湾名物の土砂降り(スコール)ほどではありませんが、強い雨が降りしきる中、5人制の相撲の試合(原住民は角力と書きます)が始まりました。
涼山、馬山といった、近隣の7つの原住民集落代表が、上半身裸で、バミューダ・パンツ(ひざまでのズボン)に柔道の帯のようなもの(赤・白)を絞めて、直径3メートルくらいの砂場のなかで、先ず、がっぷり四つに組みます。主審が両者の腰を押さえ、合図の笛を吹きます。
日本の相撲と違い、四つに組んだところから試合が開始され、どちらかの膝が砂についたか倒されることで勝負が決まります。
両側に紅白の旗を持つ副審が椅子に座っています。3本勝負は大学日本拳法と同じです。
私は、日本の相撲とは「デブにも生きる(自己主張できる)場を与える」という、縄文人由来の平等精神の現われだと思っていますが、台湾原住民の収穫祭(運動会)でも、褐色の肌をして、所々に原住民伝統の刺青を入れた太っちょたちが、降りしきる雨の中その存在感を示しているのを見て、縄文人も台湾原住民も同じ大自然的な感性なんだな、と懐かしい思いがしました。
なにしろ、武器を持たない素っ裸の男たちが繰り広げる真剣勝負ですから、野球やラグビーの「ゲーム」と違い、「素の迫力」があります。
何よりも感動したのは、2本取った側が勝って審判がそれを宣言すると、両者礼をしてから両手で手を握り合う(握手)をする場面です。握手の前に礼をするというのは日本人を見ているようで、感動しました。おそらく日本の占領時代に伝わった柔道の影響でしょう。
全試合が終わると、10人の選手全員が土俵に上がり、大学日本拳法と同じく全員で礼をします。
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相撲が終わって1時間すると、今度は3人がかりで米を杵(きね)で臼(うす)を搗(つ)いて脱穀(だっこく)し、もう一人が、大きなざるにあけられた米と籾殻(もみがら)に息を吹きかけて選別する、という競技が始まりました。各集落からおばさんたちが出場して、7番まで順位が決まります。
日本の運動会のように、分刻みでいろいろな競争や演舞が行われるというのではなく、のんびりとスケジュールが流れていきます。私も、相撲が終わって、今度は台湾らしいカンカン照りで、あっという間に芝生が乾いたので、レインコートを広げ、上半身裸で日光浴したまま、小一時間寝てしまいました。
神を感じたのは、脱穀競争のときです。
強い日差しで肌が焼けそうというのに、時おり、山あいから涼しいというか冷たいそよ風が吹いてくる。顔を上げて何本かの大きな木々を見ると、豊かな緑が大波のようにゆっくりと揺れている。私はこのとき「ああ、台湾の神様は原住民たちを祝福しているんだなぁー」と思いました。
相撲のときは雨で涼しく、脱穀競争のときはカンカン照りでありながら涼しい風が吹いて、一生懸命、杵(きね)で臼(うす)を搗(つ)くおばちゃんたちを応援している。
トラックの脇の広場では、10人くらいの中学生以上の男女が、射的の体験をしていました。竹製の大きな本格的な弓で20メートル先の標的を、5本くらい射って、その点数で競争する。
日本の盆踊りや阿波踊りと同じで、自分で身体を動かすことで、何万年もの昔から流れる民族の血を励起させ、楽しみながら・汗をかいて集中して、子供や若者に自分たちのルーツを自覚させてあげる場を提供している、というわけです。
数年前に見たときは1日だけだったようなのですが、今年は3日間かけて、徒競走や、リレー、走り高跳び・幅跳びといった運動競技から、収穫にまつわる様々な競争や演舞で楽しむという、台湾原住民版運動会(収穫祭)です。
去年は見忘れ、今年は13(土)・14(日)・15(月)の内、最後の一日だけ見ることができました。あとの二日も見たかった。
なにしろ、原住民の選手と原住民の観客という、全員これ純真な魂の持ち主ばかりという運動会ですから、まるで森の精霊たちが集まってわいわいやっているようで、心がきれいになる気がするのです。
大人も子供も、皆、彫りの深い味わいのある、歴史と文化を感じさせる顔をしている。昔、アメリカのどこかの博物館で見た、アメリカン・インディアン(ネイティブ・アメリカン)の写真を思い出します。
一般の台湾人や台湾客家というのは、韓国人も同じなんですが、大体が「ほわーっ」とした、取り留めのない顔をしているんですね。きれいとかブスとか、イケメンというのとは違うフェイズなんですが。
もし、大学日本拳法経験者のあなたが、本当の人間を見たいと思ったら、「見世物じゃねえぞ」と怒られるかもしれませんが、日本で最も近い場所で言えば、ここ台湾の原住民でしょう。
韓国人や台湾客家の場合、こういう場に来ても「単に原住民を見る」だけでしかない。しかし、縄文人の血の濃い日本人であれば、そこに遠い昔、私たちが失った何かに対する「懐かしさ」を感じるはずです。
はっきり言って、台湾島そのものには、雄大な大自然・繊細な街並み・そこまで行くほどのうまい食べ物・心が豊かになる文化・貴重な習慣・風俗等はありません(韓国と同じです)。
中国のほうが、大自然にしても町並みにしても文化にしても、そして何よりも、美味い料理において圧倒的に上です。韓国人的な感性から言えば、日本の台湾を紹介するテレビ番組のように「台湾美食」なんてことになるんですが・・・。
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ネットで台湾原住民の収穫祭情報を調べ、3・4日、台湾原住民の集落で過ごす。
彼らが走ったり飛んだり、登ったり角力したり、観客が手をたたいて応援したり笑ったり叫んだりする場に、たとえ言葉がわからなくても一緒にいることで、まるで子供の頃、神社のお祭りや小学校の校庭で盆踊りをした時のような「懐かしさ」が、心のなかに甦ってくるのです。
きわめて個人的な好みかもしれませんが、これが(大学日本拳法経験者・縄文人にとっては)最適な台湾旅行だと思います。
屏東のような大きな駅の前には、レンタルバイク屋があるので、原付でも中型でも借りて行くといいでしょう(国際免許とパスポート要)。原住民の集落は大体が山にありますので、自転車ではちょっときつい。
ヘルメットは貸してくれます。台湾ではサンダルでバイクに乗ってもかまいません。わたしは下駄です。
運動会(収穫祭)の3日間、駅前の安宿に泊まり、昼は原住民集落、夜は駅近辺の夜市で飯を食う(台湾の料理は油が悪いのか、私は食べれませんが)。
かなりマニアックな旅です。
「純真な魂」とか「森の精霊」、挙句の果ては「神」なんていう次元の、変わり者のための旅といえるかもしれません。
「来年のことを言うと鬼が笑う」と言いますが、来年まだ台湾にいるにしても、日本にいたとしても、来年こそは3日間、フルに(よそ者の観客として)参加し、あの「懐かしい雰囲気」にどっぷり浸りたいと思っています。
かつて、阿波踊りで出会ったドイツ人父子も、恐らく同じ思いで、阿波踊りの雰囲気に浸り、帰りに広島へ立ち寄り慰霊する、という旅を(毎年)しているのでしょう。3年前の彼らとの出会いの意味が、今、ようやくわかりました。
ドイツ人にはオクトーバ・フェスト、日本人には阿波踊りがあるじゃないか、と言われるかもしれませんが、「言葉がわからない場で、その雰囲気に浸る」というのがミソ(キー・ポイント)なんです。
台湾原住民の運動会(収穫祭)で、選手や観客・場内アナウンスの声が耳に入って(理解できて)しまってはいけない。言葉がわからないからこそ、頭でなく心で感じ取ろうと、身体が努力する。
今回、8月15日の私の場合、草の上で上半身裸で大の字になり目を瞑り、選手・観客・アナウンス・近くを通り過ぎる人たちの話し声を、耳ではなく身体全体で感じることで、何万年もの昔から続く原住民の感性と、私の中に眠っていた縄文人の心が同期したのだと思います(カンカン照りの暑さとうるさいハエも忘れて、居眠りしてしまったのですが・・・)。
神というのは自分が自分で感じるもので、聖書や経典、仏壇や神殿、教会の中だけにいるものとは思いません。
日本の神社でも寺でも教会でも感じませんでした。数年前、日本で深夜、森の中を自転車で走っている時とか、そして今回、台湾で原住民たちが憩(いこお)っている時に感じました。(お布施とか壷とか、心を縛る神ではなく、心が開放される・清々しくなる・遠い昔の懐かしさを感じさせてくれる「神」です)。
大学日本拳法で、ガツンと殴ったり殴られた瞬間に似ているかもしれません。
つまり、昨日わたしは、原住民たちと大学日本拳法をやってきた、というわけです。
2022年8月16日
V.3.1
平栗雅人
誰が最後に笑ったか V.3.1 @MasatoHiraguri
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