第5話幕間―正妻戦争―
時は少し遡る。
朱色の髪にサファイアの如き青き瞳の王女フランチェスカ、金髪に白銀鎧の騎士クリスティナ、銀髪と白の衣の聖女ブリカリア、野性味あふれる猫耳と尻尾を生やした猫娘アス、金髪を長く垂らし年齢と不釣り合いな小柄な容姿のエルフの魔女エルフェール。
彼女らイクスに想いを寄せる五人は集まり、話し合いの機会を設けていた。
全員が全員、イクスに好意を抱いていることはここにいる皆は承知の上だ。
それを確認するために集まったワケではない。そんなことはもう分かり切っているのだ。重要なのはそこではない。
重要なのは誰がイクスから一番の寵愛を受けることができるか、だ。
「すなわち、正妻戦争よ!」
フランチェスカが堂々と言い放つ。
王女だけあり、気品に溢れ豪胆な言いぶりであったが、言っていることの意味は他の四人は分からなかった。
「セイサイセンソウ?」
「何ですか、それは」
クリスティナとブリカリアが首を傾げる。
「なんだか知らないけど面白そうだな!」
「ふむ……言葉から察するに熾烈な争いになりそうね。ボク好みだわ」
アスとエルフェールはよく分からないなりにニヤリ、と笑みを見せる。
「ルールは簡単。これからイクスにみんなでアピールしまくって誰がイクスのハートを射止めるのか。それを競うの」
「なるほど。今の私たちの状況にはピッタリの催しですね」
フランチェスカの言葉にブリカリアは頷く。
しかし、それには問題があることにもここにいる五人は気付いていた。
「でも、お兄ちゃんはなんかわたしたちと仲良くならないようにしているみたいだぞ?」
「そうね、アス。ボクもそれは読み取っているわ」
「何か理由があるのでしょうか?」
アス、エルフェール、クリスティナが口々に疑問を発する。
それらを聞きながらもフランチェスカは自信満々に言葉を続ける。
「なんか距離を置かれているのは私も承知よ。でも、そんな壁は私たちの手でぶち壊す。そのくらいの心持ちはあるでしょう?」
挑戦的なフランチェスカの言葉。
無論、とばかりに他の四人も不敵な笑みを浮かべる。
「勿論です」
「騎士として全力勝負は当然のこと」
「獣の血が湧き、肉躍るというものだな」
「ふふふ、まぁ、最後に勝つのはボクだけどね」
五人はイクスという恋愛恐怖症と言っていい性格になっている人間に対し、自らの魅力をアピールにアピールしまくって、勝利をもぎ取るつもりで満々であった。
「そのための争いが正妻戦争よ」
「これは負けられませんね。フランチェスカ王女様。王女様だからって私は遠慮しませんよ」
「望むところよ、クリスティナ。騎士らしく真っ向からかかってきなさい。私が粉砕してあげるわ」
フランチェスカとクリスティナが睨み合い、早くもぶつかり合った視線が火花を散らす。
こうなれば勝負だ。手段は択ばない。イクスの寵愛を得るために五人は己の魅力を最大限いかしたアピールを行う。
「ふふふ……小柄なボクたちもボクたちなりのやり方でいこう、アス」
「そうだな、エルフェール。何事も大きければいいというものでもないしな」
「なんの話題ですか……」
不敵に笑ったエルフェールとアスに対して、豊満な胸を持つクリスティナが苦笑いする。
「ふ、ちびっこが何を言っているのか」
フランチェスカはあくまでも強気だ。
「負けられませんね。聖教会の全てを懸けて挑みます」
聖女ブリカリアはそう言い切る。聖教会の全てを用いるにしては男の心を射止めるためというのはいささかオーバー過ぎる気がするが。
こうして五人の美少女はある意味での
彼女たちが前世の記憶のせいで女性恐怖症に近い症状を抱いているイクスの心を見事射止めることができるのか……。
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