水14――プロット発表会

 暗記は得意だ。小学生の時にコツを教わっている。


 重要なのは必要な情報を記憶として脳に刻まないこと。知識として脳に刷り込むことこそ肝要。頭の中にメモ帳を作りなさい、と恩師は言っていた。


 ――二人はいつ頃にどうやって知り合ったの?


「切っ掛けはネットのゲームね。初心者で困ってた圭介に私が基礎知識をレクチャーしたの。私がまだ関東にいた頃の話だから出会ったのは一昨年の夏かな」


 ――ゲームで遊んでる内に仲良くなったんだ?


「そうでもないわ。私は引っ越しのタイミングでゲームを休止したの。圭介との接点はチャットツールが主で、しかも月に多くて二回程度だったのよ。だから惚れられているとは思っていなかったわ」


 ――だけど今は親密なんでしょ?


「圭介が方言を使ったお陰でね。もしかしたら近所かもって言ったら通ってる高校を教えてくれたの。それが一昨日の晩だったのだけれども、チャットでは平然とした感じだったし、次の日に告白された時は凄く驚いたわ」


 ――水谷さんも油野くんが好きだったの?


「好意はあったかな。圭介とのチャットは楽しかったし、関心がなかったと言えば嘘になるわね。でも意識し始めたのは同学年の男子だと分かってからよ」


 ――二人が誰とも付き合わなかったのは好きな人がいたから?


「だーかーらー。私が圭介を意識したのは一昨日からなの。告白した側の圭介はともかく、私はそこまでじゃなかったのよ。気になってたのは事実だけれどね」


 ――水谷さんは川辺さんと付き合ってたんじゃないの?


「そんなわけないでしょうに。美月とは幼馴染みたいなものよ。それで距離感がちょっとおかしいだけ。まあ、特別な感情はないけれど特別な友達ではあるわね」


 ――油野くんがゲイという噂は嘘だったのかな?


「嘘も嘘。大嘘よ。あの男を同性愛者だと宣う人の気が知れないわ。何かと女子の胸をチラ見するし、平気でサイズを尋ねてくる奴なの。あり得ないの一言ね」


 一限後と二限後の休憩中。千早はクラスメイトから質問攻めに遭った。


 少しだけ私怨混じりの回答もしたが、これも圭介のためだし、一概に嘘とも言い切れないから問題ない。


 千早が迅速な対応をしたこともあってか、交際に関する質疑応答は三限が始まるまでに終了した。


 しかし千早に暇はない。昼休みまでに美月の友人を買収する必要がある。


 千早は三限の終了と同時に教室を飛び出した。間もなくスマホが小刻みに震える。


 ――お昼休みに委員会の招集があるみたい。お昼は別々になりそう。


 それほど悲しげに見えないが、号泣した顔文字の付いたメッセージが届いた。全米が泣いた! というスタンプから察するに、美月の涙腺は雀の涙ほども体液を分泌していないと思われる。


 拍子抜けだ。千早は自分の席に戻り、座った状態で振り返る。華凛も美月と同じく緑化委員のはずだ。読書中に悪いと思いながらも、裏付けのために尋ねてみる。


「委員会の招集があったの?」


 華凛は流行のラノベから目を離さず、


「お昼休みに集合だって。みっきーから聞いたの?」


 美月の愛称はツを小さくしたのみの素朴なものだ。名付け親は華凛である。二人の仲は随分と良く、現状、美月が千早以外の生徒を遊びに誘うとしたら華凛くらいだ。


「LINEが着たの。美月のお弁当を預かってくれると助かるわ」


「いいよ。お昼は一緒に食べようと思ってたし、みっきーに伝えとくね」


 華凛がスマホの操作を始めた。目は変わらず文面を見ているのだから驚かされる。


「水谷さん。ちょっといいかな?」


 また交際に関する質問か、と思ったのは一瞬だ。千早は一目で別件だと察知した。


 堂本どうもと真治しんじ。華凛と同じく中三の時に級友だった男子だ。


 高校でのクラスは違うものの、中学時代に級長を一緒に務めたせいか、こうして今でも相談を持ち掛けてくることがある。


 弱小校とはいえ一年生にして野球部のレギュラーを獲得したスポーツマンだが、短く刈った黒髪よりも優しげな瞳が目立ち、一見、体格も平凡だから体育会系の男子にしては弱々しい印象だ。


「いいわよ。場所を変えた方がいいかしら?」


 千早が配慮したのには訳があった。真治は間違いなく移動を求める。


「そうしてくれると助かるね。階段の踊り場でどうかな?」


 酒臭い友人は千早の予想をやはり裏切らなかった。


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