水6――一家団欒一過

 川辺家の夕食は19時過ぎに始まる。


 長方形の食卓が畳敷きの居間の中央に陣取り、台所側の長い辺に千早と美月が、その正面に美雪と美花が、そして短い辺に大黒柱の伴大ともひろが着く。


 今日も食事中に飛び交う話題は他愛のないものばかりだ。


 伴大は酒を飲みながら上司の薄毛に関して述べ、美雪はパート先で流行りつつある言葉を発表し、美花は算数のテストで満点を取ったことを自慢する。美月が高校で知り合った友人の話をすると、若夫婦は一瞬だけ安堵したような表情を見せたが、話し手の娘は両親の反応に気付いていない。


 千早は笑うだけだ。食卓で今日の出来事というテーマで談笑していいのは仲良しの家族に限られる。仮に学校の話を語るとしたら自分の家族を相手にするべきなのだ。


 無論、問われたら答える。だが問われるまでは笑うだけだ。


 演劇のワンシーンのような団欒の時間はまだ続く。


 誰もが笑う楽しい食事はまだまだ続く。


 笑い声の絶えないリビングの中。今宵も千早はいつもの疎外感を覚えた。

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