第四章 一
ところで、川越学園の仲間とは別の話だが、いきがい大学の東松山学園でのシニア学生の続きを紹介しようと思う。と言うのは、川越学園での授業が二月を過ぎ終盤になってきた時だが、来年度の生徒募集の話が事務局担当者から出た。もうそんな時期かと思いつつ考えてみたところ、あっという間に過ぎたような気がして、なにやら物足りなさを感じていた。
シニアになって味わえた学生気分をこのまま終わらせるのでは、もったいないと思うようになった。そこでいきがい大学のホームページを見ると、各学園の募集要領が掲載されているではないか。勿論、川越学園の募集も入っているが、再度入学することは出来ない。教務担当もそう説明していたし、尤もだと思う。他の学園なら大丈夫とのことなので、それなら通学に便利なことと、一年ではなく二年間学べるところに絞って選んだのが、東松山学園である。この学園で、もう二年間学生気分を楽しんでみる心算だ。そんな欲求を叶えようと心に決めた。
しかして、募集条件はと見れば、川越学園のような簡単なものではなかった。入学申込の動機を示せという厄介な内容を、原稿用紙一枚に認め提出選考がある。これは、作文が難儀だと思ったが、一応作成し申込書に添えて、一班の仲間には内緒で申し込んだ。打ち明けなかった理由は特にない。むしろ自分のことであり、知らせる必要がないと思ったからだし、川越学園を卒業してからも皆と逢えないわけでなく、四月以降も定期的に宴を催して、絆を繋いでいるわけだからと考えてのことである。
それはさておき、作文と共に提出した願書が審査されてか、三月に入り合格通知が手元に届いた。なにが根拠で合格したかは定かでないが、ともかく四月から新たに東松山学園の生徒として、二年間の就学に就けるわけでひと安心した。
時期的には、ちょうど我らが担当した卒業懇談会を無事に終えた後で、卒業式を待つだけであったので、引き続き学べると思うと夢が膨らんだ。当然類推することは、川越学園での学生活動である。班内活動や班単位での行事担当、さらには宿泊研修と、次々に思い起された。それは川越学園ではクラスが一つしかなく、三十五期入学の百二十名の学生が十班に編成されているため、班単位での活動が中心となっていたことである。だからこそ、卒業後の校友会としての活動も、すべてが班単位で参加することが主だった。
そんな行動有体を思い描き、東松山学園の入学式に参加した。当然、当初選択した美術工芸科生としてである。東松山学園は美術工芸科の他に、地域創造科、ふるさと伝承科、福祉・環境科があり、科毎にクラス編成され、その中に各班が存在した。実際に籍を置いてみて、川越学園とは異なり大いに面食らった。学園のイメージを同様に描いていた節があり、同じように班中心の活動となると考えていたせいもある。
それでも、東松山学園には学園の校風があり、それに従って活動すればよいと、己自身に納得させ臨むことにした。四月の全学園合同入学式が終わり、いよいよ学園生活の開始と東松山学園での始業式が行われ、オリエンテーションと二十七期生からの一通りの学園活動についてのレクチャーを受けた。全体朝礼、ホームルームの当番から始まり、昼食を終えての、午後の授業前のクラスホームルームの当番制。それに学園の見取り図、たとえば各教室、クラブ室、それに教務室等の配置など。さらに美術工芸科の授業はかくあるべきとか、課外学習、宿泊研修、学園祭などの行事の説明がなされた。
これらの説明で、川越学園の活動とは違った在り方に一種戸惑いを覚えた。一例を上げてみると。当然自治会活動はあるが、川越学園との違いは、この活動の在り方に根本的な違いがあった。川越学園では、各自治会の活動が各班単位でグループ分けされ、各行事の段取りから開催までをつかさどる。従って、担当行事以外は参加することだけになる。当東松山学園では、クラスや班単位の活動ではなく、行事ごとに四科から選抜され担当が決められてゆく。勿論、その前に自治会の役員人事が決められた。また、各班の班長、副班長それにクラスの級長、副級長が選抜され、自動的に自治会の理事となり、そこで役員が定まるのだ。結局、俺は一班の班長に推挙され決まり引き受けた。さらに各班(五班)の班長が集まり、話し合いの中で級長に推挙され、断る理由もなく引き受けた。その際、自身がき受けたからには、班及びクラス内の絆を深める努力をしようと、心に決めた。
これも川越学園在学の時の班の在り様で、固く結ばれた絆に、今も続く一班の仲間としての活動を、東松山学園でも築けないものかと考え、四月からの学園生活を始めたものの、当初は思い描く姿と現実とがどうもしっくりこず、戸惑うことが幾多あったような気がする。そんな戸惑いの中で学園内での行事があり、またクラス内での親睦飲み会。さらにはクラブ活動をやりと、すでに学園生活も十月半ばとなった。
この美工クラスは、個性集団の集まりのような面々が多いが、六カ月間が過ぎようやくクラスの纏まりが少しずつできているような気がした。これは俺の勝手な推測かもしれないが、少なくともクラスの纏め役として、仲間の顔や行動にそんな気配を感じている。それゆえ、これからも皆と接する時は、明るく元気よく振る舞うように心がけたい。なかには分別なく己の考えを誇示する者や、意味なく突っかかる奴もいるが、これも個性の主張と割り切り、時には主張し合い、なにを意図しているか見定め対処して行こうと思う。
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