最終話:約束

『晴人君の敵です。』

その時のみんなの反応は今でも忘れられない。

「別にどうでも良いが面倒なことをするなよ。」

先生の一言で止まっていた時間が動き出す。

「伊東は山形の隣に座れ。」

そう先生が指示をする。

「わかりました。」

僕の方に向かってくる途中陽菜は鋭くあいつを睨んだように見えた。

「ねぇ、ちょっと目立ちすぎじゃない?」

僕と陽菜は転校早々悪目立ちしてしまった。

ホームルームが終わると案の定みんな僕のところにやってくる。

「なぁ、一体どうゆうこと?」

名前も知らない人達が訪ねてくる。

「何も難しいことはないよ!こうすけ君は変わろうと思って頑張って変わった。私はこうすけ君の彼女。

それだけだよ?」

陽菜が端的に説明した。

「伊東さんは赤城さんのこと敵って言ってたけどそれは?」

また質問された。

今日は質問責めになりそうだ。

「それに関しては気にしないほうがいいと思うよ。

もうすぐ果たされる事だし。」

今度は僕が答えた。

「そうなんだ。なんか変わったな。山形って。」

みんなにそう言われた。確かに僕は変わった。

「おい!そいつの事はほっといてもうすぐ授業始まるぜ?そろそろ席に座んないとまずいんじゃないか?」

そう因縁の相手、赤城晴人が言った。

「それもそうだな。ごめん山形。時間取らせた。」

そうみんなが謝った。

人は見た目が変わるとこんなにも態度が変わるんだな。

そう思った。

その日の授業は久しぶりもあってか全く頭に入ってこなかった。

でもよくわからないところは陽菜が詳しく教えてくれた。

今まで妄想の中にいたのに何故こんなにもわかるんだろう。

そう疑問に思った。

その日の放課後、陽菜はあいつに呼ばれた。

何故敵か知りたいそうだ。

でも僕はわかる。また奪うつもりだ。

僕の大切な陽菜を。

「じゃあ行ってくるね。」

「だめだ。」

「なんで?話してくるだけだよ?」

「それがだめなんだよ。またこのままだと陽菜が取られる。」

「もう、僕は失いたくない。」

「そっか。じゃあ一緒に行こう。それなら安心でしょ?」

「うん。」

「行こう。」

僕は彼女と手を繋いであいつの元に行った。

「お前は呼んでないぞ。キモ男。いや、こうすけ。」

初めて僕の名前を呼んでもらった。

でも今は全く嬉しくない。

「お前に名前を呼ぶ筋合いはない。

それに僕が来ないとまたお前は奪ってく。

そうだろ?ここで僕が来てなかったらまた奪われるところだった。安心しろ。今度こそお前には奪わせない。」

僕はあいつに言ってやった。

「ふーん?でも彼女はどっちを選ぶかな?」

「ブッサイクなお前とイケメンの俺。」

「その差は歴然だろ。」

「なぁ、陽菜っだったっけな?お前さ、こいつなんかより俺と付き合わね?こんなブサイクよりもよぉ」

僕は殴りそうになった。

すると彼女は僕の手を強く握って笑いかけてくれた。

やっぱ僕は陽菜が居ないと無理だ。

そう思った。

すると陽菜は僕の手を離し、優しく微笑んだ。

そしてあいつの方に向かっていった。

「陽菜?」

僕は陽菜に問いかけた。

陽菜は歩みを止めない。

奪われてしまうのか?

妄想の中にいた彼女まで?

いつもは陽菜の考えてる事は大体わかっていたけど今回は何をするのか全くわからない。

「陽菜?嘘だろ?」

僕は変な汗を流しながら陽菜の手を掴んだ。

でも陽菜は僕に優しく微笑むだけで何も言わない。

そして手を振り払う。

まただ。

また奪われるのか。

あいつは勝ち誇った顔をして陽菜がこっちにくるのを手を広げて待っている。

やっぱりあいつには勝てないのか。

あの光景が蘇る。

陽菜もあのようになるのだろうか?

もう面倒臭くなってきた。

どうでも良くなってきた。

やっぱりこの世界は僕を許してくれない。

ズタズタにメンタルを破壊してくる。

そう思い、僕は彼女を見続けた。

また奪われるという確証が持てなかったから。

すると僕の予想通りに彼女は手を握って、あいつの方に走っていく。

もうだめだ。

涙が溢れてきた。

僕はそれに伴って下を向く。

すると

「ドカッ!」

そう殴った様な音がした。

僕はその音を聞き顔を上げた。

陽菜はあいつに抱きつきに行った訳じゃない。

あいつを殴りに行ったんだ。

「こうすけ君!復讐を果たす時だよ!」

そう陽菜が僕に向かって言った。

陽菜。ありがとう。

僕はあいつに向かって走っていった。

どうすれば良い?

僕は考えるよりも先に行動していた。

陽菜があいつに抱き込まれる。

「キャッ」

陽菜が悲鳴をあげる。

「俺の彼女に何すんだ!!」

その時に僕は昔にもこんなことがあった気がした。

それは小学校の時のことだった。

その頃は今みたいな奪われ方じゃなかったけど

陰口を言って僕から沢山なことを奪っていった。

彼女まで奪われそうな時。

僕は大きな声を出しながら相手を思いっきり殴った。

その後のことはよく覚えていない。

時々僕は記憶を無くすくらいあつくなる事がある。

それを妄想で止めていたんだ。

全て思い出した。

この性格を作り出した出来事を。

そして小学生から虐めていた犯人を。

「ドカッ!」

僕はあいつを殴った。

あいつのイケメンな顔を。

その瞬間あいつの顔から血が吹き出た。

僕は2発目に行こうとした時、陽菜に止められた。

「もう大丈夫だよ。復讐は果たしたんじゃない?」

僕はその言葉でまた冷静になれた。

彼は鼻血を出しながら倒れている。

「そうだな。もう復讐は済んだ。止血をしよう。」

こうして僕の復讐は完了した。


「ねぇ、こうすけ君!」

「ん?どうしたの?陽菜?」

「大好き!!」

「僕も大好きだよ陽菜。」

僕も彼女に思いを告げた瞬間、唐突に眠気がきた。

「こうすけ君!?こうすけ君!?」

陽菜が僕の名前を連呼している姿を見ながら深い眠りについた。





「うぅん」

目が覚めたら僕は自室のベットで寝ていた。

「夢だったのか?」

そう思ったがすぐに夢ではないことに気がついた。

なぜなら僕の身体は確かに変わっていたんだ。

「ピンポーン」

インターホンが鳴った。

友達が呼んでる。

「遅いよ!こうすけ!」

「ごめんごめん。」

僕は制服に急いで着替えて外に出た。

あんなことがあってから僕は妄想の中に行くことは無くなった。

僕はもう一人で生きていける。

生きていける意志がある。

「ありがと。陽菜。」

風が吹いた。

返事をしてくれたのだろう。

いつも通りの時間を過ごしていると、ある日のホームルーム。

「急だがうちのクラスに転校生が来た。」

「入ってこい。」

その声と共に教室のドアが開いた。

どこか見覚えのある女子が姿を現した。

「伊東ひなです。以後よろしくお願いします。」

黒板に書かれた文字を見ながら僕は不思議な感覚に陥った。

「伊東は山形の隣に座れ。」

そう先生が言い彼女は僕の隣に座る。

「宜しくね。山形こうすけ君。」

「よ、よろしく。」

「ねぇ、ひなさん。僕たちどこかで会ったっけ?」

「覚えてるんだ」ボソッ

「何か言った?」

「いや、何にも言ってないよ!」


ひなさんと付き合うのはまた別のお話。


〜END〜



そういえばあいつこと赤城晴人はあれ以来誰にでも優しくなった外見も内面もイケメンな僕の友達になったとさ。



〜本当のEND〜

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妄想の非リア ばらぃろ @BaRaIRo

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