第3話 途中経過と絶体絶命

「現場に、」


 わたしの言葉にエルフとドワーフの目が向いた。

 じっと見つめられ、観察されている……、おかしな行動を見せればすぐにでも飛びかかってきそうな緊張感……。ここからは、言葉を選ばなければ――。


「手がかりなど、あったりしませんか……? ドワーフ領、だったんですよね。

 ……疑って悪いですけど、第一発見者はその場で証拠品を始末することができます……、発見者が手がかりを消した、とか……」


「大岩と、下敷きになった勇者だけが、現場に残されていたな。地形は荒れてしまって足跡もない……、恐らく消えてしまっただろう。

 手がかりも、あったとしても紛失している可能性が高い……。気になるなら現場を見せようか? あんたの翼なら数分で現場までいけるだろう?」


「い、いや、大丈夫です。……勇者はどうして避けられなかったんですか?」


 単純な疑問だった。

 勇者は魔王を封印するために選ばれた人間だ。戦闘力はかなり高い。

 人間離れした身体能力、エルフ以上の魔法を使うことができる。そんな勇者がただの事故で、大岩の下敷きになるとは考えにくい。

 たとえ昼寝中、作業中を狙ったとしても――持ち前の頑丈さで堪えられる気もするんだけど……、打ちどころが悪かった?


 それに……魔法。


 ドワーフは苦手なので使えないが、エルフは得意だ……、エルフ領から距離があるドワーフ領に魔法を放つことも、あらかじめかけることもできるはず――加えて。


 勇者にあらかじめ魔法をかけておき、時間差で効果を発揮する毒だったりしたら……、大岩を避けられなかった理由にもなる。

 ただ、これを指摘してしまうと、わたしたち天使も同じだ……。エルフを追い詰めようとして自分たちの首を絞めていたら、新しい火種を作ってしまいそうだ。


「魔法を使えば可能だ、という顔ですね、天使さん」

「ぎく」


 すぐさまエルフが指摘してくる……、同時に、エルフへ向けた攻撃はわたしへの攻撃にもなっている。

 ドワーフ領にいるドワーフは当然のこと疑われ、隣国が領地であるわたしたち天使とエルフは、広範囲の魔法でドワーフ領に攻撃を仕掛けることもできる……、それを利用し、事故に見せかけ、勇者を殺害することもできる――と言われてしまえば、いつまでも容疑者のままだ。


 否定できない力を持ってしまっているのだから。


「魔法ならあたしも使えるのに」


「不法滞在の悪魔の娘――あんたが使えばドワーフ領に響くだろう……、すぐにあんたが使ったと分かるさ。だが事故前後、魔法の使用は感じられなかった――不法滞在していたあんたがなにもしていないことは、儂らが証明できるさ」


「ちぇー」

「もうそいつが犯人でよくない?」


 わたしは勝負を仕掛けてみる。本当の犯人探しが過熱する前に、表向きの犯人を立ててしまい、有耶無耶にする……。犠牲となった悪魔は元々、自分がやったと主張しているのだ、これを利用すれば丸く収まるはず……。

 それに、悪魔はこれを手土産にして、魔王に近づこうとしているのだから、お互いに利があることだろう……だが。


「勇者という抑止力を失った上に、悪魔と再び手を組めば、さらに抑えられなくなるぞ。わざわざ魔王の戦力を強化するわけにはいかん。

 魔王との休戦状態が解除されるこの時代、魔王でも悪魔でもない裏切り者は、ここで見つけておかなければ、儂らが一致団結することは不可能になる」


 犯人を探し出すことが過程の一つになっている……ここが目的ではない。

 つまりここを有耶無耶にして、なかったことにはできないのだ。


 ……本格的にまずいことになってきた。そう言えばわたしでしたーっ、と名乗り出て、笑って済ませられるかな? いや無理でしょ、天使全体の信用に関わる事態になってきている……。

 ここまで隠し通したなら、最後まで隠し通さないとわたしだけじゃなく、今後の天使の立場や扱いに直結する。

 魔王対魔王以外の種族になった時、同盟を結んだ異種族側が真っ先に切り捨てる先に天使があったらと思うと――ここで挙手はできなかった。


 どうする、どうすれば――別の犯人をでっち上げるしかないよね!?


 悪魔じゃない、ドワーフかエルフ、どちらかを、犯人にしないと――。

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