その34「ルシファーコキュートス」
ヒカリ
「はあっ!」
ヨーイチ
「おらっ!」
ヒカリとヨーイチが、左右からスケルトンに突きかかった。
スケルトン
「…………」
ヨーイチの槍とヒカリの剣が、空を切った。
攻撃を受ける直前に、スケルトンは転移していた。
ヨーイチたちから離れた位置に、スケルトンが出現した。
ヒカリ
「やっぱりダメか……」
アキラ
「悪い。助かった」
ヨーイチ
「ケンザキ」
ヨーイチ
「あいつの攻撃はマトモに受けるな。ハメ殺されるぞ」
言いながらヨーイチは、手中にSPポーションを出現させた。
そして瓶の蓋を開け、口をつけた。
アキラ
「もうちょっと、早く言って欲しかったが」
ヨーイチ
「悪いな。っと、来るぞ」
アキラ
「…………!」
スケルトンがアキラの眼前に転移した。
ヒカリ
「はっ!」
その瞬間、ヒカリが攻撃をしかけた。
だが……。
スケルトンは瞬間移動し、遠くへと逃れてしまった。
ヨーイチ
「んぐ。やっぱり効かんな」
チナツ
「呪文を試してみようか? っていうか何飲んでるの?」
ヨーイチ
「SPポーションだ。気休めだが」
ヨーイチは空き瓶をポイ捨てし、2本目のポーションを取り出した。
そして蓋を開け、飲みはじめた。
チナツ
「…………?」
チナツ
「オーカインくんのことだから、何か意味が有るんだよね?」
ヨーイチ
「まあな。それと、呪文は止めとけ」
チナツ
「どうして?」
ヨーイチへの質問に、ヒカリが答えた。
ヒカリ
「あいつに魔術を当てる方法は、限られてる」
ヒカリ
「それにあいつは、魔術耐性がかなり高い」
ヒカリ
「正攻法で戦うしか無いと思うよ」
チナツ
「正攻法って何?」
ヒカリ
「敵の攻撃を、こっちのパーフェクトモーションで受ける」
ヒカリ
「それを繰り返すことで、敵に隙が出来る」
ヒカリ
「体勢が崩れて転移が出来なくなったところに、全力攻撃を叩き込む」
スケルトンが、また転移してきた。
まだ作戦会議中だ。
ヨーイチが槍で突き、スケルトンを追い払った。
それを繰り返しながら、ヨーイチたちは、会話を続けた。
ヨーイチ
「俺は反対だ」
ヒカリ
「オーカイン?」
ヨーイチ
「このレベルで正攻法を試しても、勝てる確立は低いと思う」
対スケルトンエンペラーの正攻法は、正攻法と言いつつ、実は運ゲーだ。
トッププレイヤーであっても、魔獣の動きを完全に読むことは出来ない。
つまり、相手の攻撃にパーフェクトモーションで返すのも、100%は難しい。
どうしても、確率の問題になってしまう。
運が悪ければ、ダメージを受けてしまう。
それは、低レベルのプレイヤーにとっては、致命的なダメージだ。
レベルや装備が十分なら、期待値の問題で、高確率で勝利出来る。
だから、正攻法と言われてはいる。
だが、低レベルのプレイヤーにとっては、分の悪いギャンブルでしか無かった。
高レベルプレイヤーの真似をしても、勝率は低い。
ヨーイチ
「それよりも、俺に命を預けてくれねーか?」
チナツ
「どうするの?」
ヨーイチ
「お前らのうちの誰かが、あいつに倒されてくれ」
チナツ
「えっ!?」
ヨーイチ
「あいつは敵を倒した直後は、行動パターンが変わる」
ヨーイチ
「さっきケンザキの攻撃を、ノーガードでくらっただろ?」
ヨーイチ
「あれは、ウヅキを倒して行動パターンが変わってたからだ」
ヨーイチ
「もう1度、隙を作ってくれ」
ヨーイチ
「そこを俺が倒す」
ヒカリ
「君のレベルで、どうやってあいつを倒すっていうの?」
ヨーイチ
「説明してる暇は無い」
ヨーイチ
「あんまりダラダラしてると、アホみたいな全体攻撃が来る」
ユニークモンスターのいくつかには、時間切れが設定されている。
戦闘時間が一定を超えると、攻撃が、理不尽なものに変わる。
そうなる前に、相手を倒す必要が有った。
ヨーイチ
「俺の作戦に乗ってくれ」
アキラ
「分かった」
ヒカリ
「兄さん!?」
ヨーイチ
「良いのか?」
アキラ
「仲間だろ? 俺たち」
ヒカリ
「お人好し……」
アキラ
「わざとやられれば良いんだな?」
ヨーイチ
「ああ。頼む」
アキラ
「……ちょっと怖いな」
アキラ
「頼んだぞ。オーカイン……。いや、ヨーイチ」
ヨーイチ
「ああ。任せとけ」
ヨーイチ
「まあ成功率は2割ってトコだろうが」
アキラ
「えっ?」
スケルトンが、アキラの前に転移してきた。
そして即座に、大剣で斬りかかってきた。
その攻撃を、アキラは避けなかった。
アキラの意志を汲んで、ヒカリも静観した。
スケルトンの剣が、アキラの体を打った。
アキラ
「っ……!」
アキラは吹き飛ばされ、地面に転がった。
その体が、バリアに包まれた。
スケルトンは、とどめをさそうと、アキラに近付いていった。
瞬間移動ではなく、歩いて。
行動パターンが、変化した証だった。
ヨーイチ
(SPさえ有れば、猫騎士でも行けるはずだ……!)
ヨーイチは、SPポーションの空き瓶を、放り投げた。
ヨーイチ
「レヴィ! SPを切らすな!」
レヴィ
「了解です!」
ヨーイチのオーラが、勢いを増した。
ヨーイチは腕輪から、デスサイズを出現させた。
大鎌を手に、スケルトンへと駆けた。
ヨーイチ
「行くぜ」
そして、デスサイズを振った。
ヨーイチ
(強スラ)
デスサイズの大振りが、スケルトンを打った。
ヨーイチとスケルトンに、硬直が発生した。
マジックブレイドのおかげで、スケルトンの位置は、少ししか移動しなかった。
ヨーイチ
(青キャン前ダッシュ、飛翔斬弱)
ヨーイチは、闘気で硬直を解除して、前に出た。
そして、飛翔斬を放った。
攻撃と同時に、ヨーイチは宙へと舞い上がった。
ヨーイチ
(ダイブ強スラ)
闘気の力で、ヨーイチは急降下攻撃をしかけた。
ヨーイチは攻撃をしながら、地上へと着地した。
そしてさらに、デスサイズを振った。
ヨーイチ
(弱スラ、中スラ)
ヨーイチ
(強スラ、青キャン前ダッシュ、飛翔斬弱、ダイブ強スラ、弱スラ、中スラ)
ヒカリ
「繋げた……!?」
ヨーイチ
(強スラ、青キャン前ダッシュ、飛翔斬弱、ダイブ強スラ、弱スラ、中スラ)
ヨーイチ
(強スラ、青キャン前ダッシュ、飛翔斬弱、ダイブ強スラ、弱スラ、中スラ)
ヨーイチ
(強スラ、青キャン前ダッシュ、飛翔斬弱、ダイブ強スラ、弱スラ、中スラ)
ヨーイチは、アクロバティックな連続技を、5回繰り返した。
そしてさらに、攻撃を続けた。
ヒカリ
「5ループ……!」
チナツ
「あれは……?」
ヒカリ
「まさか……ルシファーコキュートスだとでも言うつもり……?」
チナツ
「コキュートス?」
チナツ
「オーカインくんは、いったい何をしているんだい?」
チナツの視線の先で、スケルトンは、完全に停止していた。
まるで、凍り付いてしまったかのように。
ヒカリ
「あれは、オーサコ=サイクロンと呼ばれる技だよ」
チナツ
「つまり?」
ヒカリ
「永パ、無限コンボ、10割コン。言い方は色々有るけど……」
ヒカリ
「つまりは、ハメ技さ」
ヒカリ
「攻撃側がミスしない限り、サイクロンは永遠に続く」
ヒカリ
「1度アレに囚われれば、自力で抜け出すことは出来ない」
1撃入れば、そこで決着がつく。
それまでの試合展開など、何の意味も為さない。
どれだけ精度の高いプレイをしても、読みを通しても、そこでゲームオーバー。
おしまいだ。
デスサイズはまさしく、対戦相手の命を刈り取る、死神の鎌だった。
オーサコは、アリーナという舞台を支配する、絶対の死神だった。
だからこそオーサコは、アリーナの観客たちから嫌われていた。
デスサイズを弱体化しろ。
そんな声も、多く有った。
だが運営はなぜか、観客の声に耳を貸さなかった。
オーサコは勝ち続け、そして嫌われた。
チナツ
「それは凄い……!」
かつてのアリーナの事情など知らないチナツは、素直に称賛の声を上げた。
アリーナの嫌われ者は、彼女にとっては救世主だった。
チナツ
「つまりこれで、オーカインくんの勝ちということだね?」
ヒカリ
「ううん」
チナツ
「どうして?」
ヒカリ
「難しすぎるのさ。あの技は」
ヒカリ
「パーフェクトモーションを成立させながら、最速で技を繋がないといけない」
ヒカリ
「多くのプレイヤーが、あれに挑んで、挫折した」
ヒカリ
「実戦で使えたのは、オーサコただ1人だった」
チナツ
「オーサコ?」
ヒカリ
「昔、そういうチャンピオンが居たんだよ」
ヒカリ
「その圧倒的な強さから、存在自体がバグと認定された男」
ヒカリ
「別名、ルシファーコキュートス」
ヒカリ
「人の身でありながら、7つの大罪に認定された化け物」
ヒカリ
「生けるバランスブレイカー」
ヒカリ
「彼の技術は、誰にも真似が出来ない」
チナツ
「そうなんだ……?」
チナツ
「けど、上手くいっているように見えるけど」
ヒカリ
「今はね」
ヒカリ
「けど、いつかはしくじるはずだ。だって……」
ヒカリ
「あのオーサコですら、サイクロンの成功率は、100%じゃ無かったんだから」
チナツ
「…………!」
チナツ
「…………」
チナツ
「……………………」
サイクロンのループ回数が、50を超えた。
チナツ
「ずいぶん長く続いているけど、いつしくじるのかな?」
ヒカリ
「……そのうち」
2人が見守る中、ヨーイチは、サイクロンを成功させ続けた。
ヒカリ
「…………」
ヒカリ
「……………………」
ヒカリ
「続きすぎだろ。そろそろミスれよ」
チナツ
「何言ってるの!?」
そして……。
ヨーイチ
(飛翔斬弱、ダイブ強スラ……)
ヨーイチ
「っ!」
チナツ
「あっ!」
落下攻撃をしかけるヨーイチの前から、スケルトンの姿が消えた。
スケルトンは、遠方へと転移していた。
ヨーイチがモーションを放つのが、ほんの少し遅れたのだった。
バリア硬直が無くなれば、スケルトンは自由に転移出来る。
ヨーイチのデスサイズが、むなしく空を斬った。
ヨーイチ
(しくじった……!)
スケルトンは、すぐさま攻勢に転じた。
ヨーイチの前へと、瞬間移動してきた。
本来ならばヨーイチは、バックステップしたいタイミングだった。
だが、ダイブ強スラの隙のせいで、ステップは間に合わない。
ヨーイチ
(やられる……!)
ヨーイチは、自身の敗北を予感した。
そのとき……。
ヨーイチ
「ッ!?」
ヨーイチは、突き飛ばされた。
ヨーイチが立っていた所に、ヒカリが立っているのが見えた。
ヒカリは自身の盾で、スケルトンの剣を受けとめていた。
ヨーイチ
「っ……!」
ヨーイチは立ち上がり、ヒカリを助けようとした。
ヒカリ
「来なくて良い」
ヒカリの声が、ヨーイチを止めた。
ヨーイチ
「…………?」
ヒカリはスケルトンの剣を受けながら、言葉を続けた。
ヒカリ
「敵のスペックがゲーム通りなら、ライフは残り6割だ」
ヒカリ
「囮に使える駒は、あと3つ」
ヒカリ
「やれるね? チャンピオン」
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