その35「サイクロンとその結末」
ヒカリはそう言うと、盾を下げた。
スケルトンの剣が、上方からヒカリを打った。
ヒカリは倒れ、緊急用のバリアが展開された。
ヒカリ
「……………………」
ヒカリはバリアに包まれ、動けなくなった。
ヨーイチに向けられたヒカリの視線には、信頼が有った。
ヨーイチの闘志が、強く燃え上がった。
ヨーイチ
「やってやるよ……!」
ヨーイチ
「コンボが効くなら、裏ボスだってハメ殺してやる……!」
ヨーイチは再び、スケルトンに斬りかかった。
行動パターンが変化していたスケルトンは、容易く攻撃を受けた。
ヨーイチ
(強スラ、青キャン前ダッシュ、飛翔斬弱、ダイブ強スラ、弱スラ、中スラ)
ヨーイチ
(強スラ、青キャン前ダッシュ、飛翔斬弱、ダイブ強スラ、弱スラ、中スラ)
ヨーイチ
(強スラ、青キャン前ダッシュ、飛翔斬弱、ダイブ強スラ、弱スラ、中スラ)
サイクロンのループが、再開された。
ヨーイチは雑念を捨て、コンボに没頭した。
それは長く長く続いた。
さきほどのループよりも長く続き、スケルトンの余力を削り取っていった。
やがて、スケルトンの顕在魔力が、1パーセントを切った。
だが。
ヨーイチ
(強スラ、青キャン前ダ……)
ヨーイチ
「う……?」
突然に、ヨーイチの体から、力が抜けた。
コンボの途中で、ヨーイチは倒れてしまった。
体が動かなかった。
ヨーイチ
(SP切れか……?)
ヨーイチは、なけなしの力で、視線をレヴィの方へと向けた。
ヨーイチとレヴィの目が合った。
レヴィ
「…………」
レヴィは悲しそうな顔で、首を左右に振った。
ヨーイチの体からは、オーラが湧き上がり続けていた。
レヴィの力が、途切れたわけでは無い。
ヨーイチ
「ごほっ……」
ヨーイチは、吐血した。
ヨーイチの肺に、焼けるような痛みが有った。
ヨーイチ
「そうか……」
ヨーイチ
(SPじゃなくて……体の限界か……)
サイクロンは、加速と減速を繰り返す技だ。
これがゲームであれば、肉体の強度などは、度外視しても良い。
だがこの世界は、ゲームと同じようでいて、違う。
人の体は、負荷を受ければ損傷する。
体を鍛えていない者が、戦闘機のGに耐えられないのと同様に……。
ヨーイチの弱い体が、サイクロンによって破壊されていた。
ヨーイチ
(病み上がりの体に……無茶させすぎたかな……)
ヨーイチ
(あとちょっとだったんだけどな……)
ヨーイチの目算では、あと数度サイクロンをループすれば、敵を倒すことは出来た。
だが、そんな計算は、もはや何の意味も無い。
あとたった1度ですら、ヨーイチは、デスサイズを振ることが出来ないのだから。
スケルトン
「…………」
ヨーイチを見下ろすように、スケルトンが立った。
スケルトンはヨーイチに、剣を振り下ろした。
回避するだけの力は、残っていなかった。
剣は無慈悲に、ヨーイチの体を打った。
ヨーイチの通常バリアが、限界を迎えた。
緊急用バリアが展開され、ヨーイチは動けなくなった。
敗北だった。
スケルトンはヨーイチを殺すために、さらに剣を振ろうとした。
そして……。
チナツ
「やああああっ!」
チナツの杖が、スケルトンを叩いた。
弱スラの、パーフェクトモーションだった。
爆風を受け、スケルトンの体が宙へ浮いた。
さらに、スケルトンが光を放った。
それはヨーイチにとっては、もう何度も見た光だった。
ヨーイチ
(モーションブレイク……!)
チナツはユニークモンスターに対し、モーションブレイクを成功させていた。
彼女の指には、4つの指輪が有った。
カウンターリングだ。
モーションブレイクのダメージを、増幅させてくれる。
致命傷に近いダメージが、スケルトンに与えられたはずだった。
だがスケルトンは、それでも消滅する様子を見せなかった。
ヨーイチ
(まだ足りないか……?)
ヨーイチ
(あと少しなのに……)
カゲトラ
「みゃああああああああっ!」
いつの間にか、カゲトラが宙を舞っていた。
カゲトラの後ろ足が、スケルトンを蹴り飛ばした。
スケルトンは、チナツの方へと向かった。
チナツ
「…………!」
そのときチナツは、即座に判断をした。
チナツ
(この距離は……弱スラじゃダメだ……!)
チナツは右足を、ぐっと前に踏み込ませた。
チナツ
「はああああっ!」
踏み込みと共に、チナツは杖を振った。
パーフェクトモーションの踏み込み強スラが、スケルトンの頭を叩いた。
そして……。
スケルトンは、光を放ちながら、地面へと落下した。
モーションブレイクの光では無い。
魔獣が死亡時に放つ、消滅の光だった。
スケルトンは、アイテムと魔石を残し、消滅していった。
そして、部屋の中央に、帰還用の転移陣が出現した。
ユニークモンスターは、討伐された。
ヨーイチたちの勝利だった。
チナツ
「や……」
チナツ
「やった……」
チナツは放心したように、地面に座りこんでしまった。
ヨーイチの瞳には、チナツたちの活躍の、全てが映っていた。
ヨーイチは内心で、チナツを褒め称えた。
ヨーイチ
(やりやがったな)
ヨーイチ
(高難度技の猫コンボを、ぶっつけ本番で)
ヨーイチ
(凄いけど……)
ヨーイチ
(俺の猫だからな?)
ヨーイチはカゲトラと、猫コンボをしたことが無い。
カゲトラの飼い主として、若干の寂しさを感じていた。
……。
ウヅキ
「ん……」
ウヅキの緊急用バリアが、解除された。
ウヅキは上体を起こした。
ウヅキのそばに、アキラがしゃがみこんでいた。
アキラ
「だいじょうぶか?」
アキラがウヅキに声をかけた。
バリアが解除されたのは、彼のおかげらしい。
ウヅキ
「アキラさん……」
ウヅキ
「ユニークモンスターは……?」
アキラ
「アレは俺たちが……」
アキラ
「いや。ヨーイチが倒した」
ウヅキ
「え……!?」
ウヅキは慌て、首を動かした。
ウヅキの瞳に、ヨーイチの姿が映った。
ウヅキ
「……………………」
ウヅキ
「固まっているようですが?」
ヨーイチは、緊急用バリアで、動けなくなっていた。
それをチナツとヒカリが、魔力を送って回復させていた。
そこに、勝者の威厳は無かった。
アキラ
「ほとんど相討ちみたいな感じだったんだよ」
ウヅキ
「アキラさん」
ウヅキ
「彼が私の連れ合いだからといって、花を持たせなくても良いのですよ?」
アキラ
「……………………」
バリアの解除が完了した。
5人とカゲトラは、転移陣で広間を離脱した。
転移先は、トラップが有ったのとは別の、突き当たりだった。
ヨーイチは、回復ポーションで怪我を治療した。
それでも力が残っていないらしく、カゲトラの背に体を預けていた。
チナツ
「だからあれは、ボクが悪かったんだよ」
チナツがヨーイチに抱きついたことに関し、弁解をしていた。
チナツ
「嬉しくなって、つい飛びついちゃって」
チナツ
「オーカインくんが、ボクに何かしたわけじゃ無いんだ」
ウヅキ
「……そうなのですか?」
ヨーイチ
「ああ」
カゲトラの背でぐったりしながら、ヨーイチは口を開いた。
ウヅキ
「ですが、2人は嘘をついて、ダンジョンに居ました」
ヨーイチ
「ダンジョンに行くって言ったらうるさいだろ。お前」
ウヅキ
「…………」
ウヅキ
「体はだいじょうぶなのですか?」
ヨーイチ
「まあ、ぼちぼちだ」
ウヅキ
「あまりだいじょうぶそうには見えませんが?」
ヨーイチ
「大物相手で疲れてんだよ」
ウヅキ
「…………」
ヨーイチ
「レベル、上がったぞ」
ウヅキ
「そうなのですか?」
ヨーイチ
「ああ」
ウヅキ
「良かったです」
ウヅキ
「……みなさん」
ウヅキは足を止めた。
皆も足を止めて、ウヅキの方を見た。
ウヅキは地面に両膝をついた。
座って、深く頭を下げた。
土下座だった。
ウヅキ
「このたびは、私の浅慮な行いが原因で、みなさんの命を危険に晒してしまいました」
ウヅキ
「本当にもうしわけありませんでした」
アキラ
「ちょ……! 土下座なんて止めてくれよ……!」
チナツ
「そうだよ……! そこまですること無いよ……!」
ウヅキ
「ですが……」
ヨーイチ
「顔を上げろ」
ウヅキ
「はい」
ヨーイチに言われると、ウヅキは素直に従った。
ヒカリ
「良いモノ見られたから良いけど、2度は勘弁してよね」
ヒカリ
「こんな序盤でゲームオーバーなんて、ゴメンなんだから」
ウヅキ
「……はい」
ウヅキ
「次は婚約者に浮気をされても、マップを見るのを忘れないようにしますね」
ヨーイチ
「してねーし」
5人は、学校のダンジョンドームに移動した。
そこで解散することになった。
アキラ
「それじゃ、また明日な」
ヒカリ
「また明日」
ウヅキ
「さようなら」
チナツ
「またね」
ヨーイチ
「じゃあな」
仲間たちは、ドームから去っていった。
ヨーイチは、カゲトラに乗ったままドームから出た。
外に出ると、辺りは既に、暗くなっていた。
ウヅキ
「ヨーイチ」
ドームを出たところで、ウヅキがヨーイチに声をかけた。
ヨーイチ
「ん?」
ウヅキ
「たまには一緒に帰りませんか?」
ヨーイチ
「家反対だろ」
ウヅキ
「送ってくれても良いじゃないですか」
ウヅキ
「婚約者でしょう?」
ヨーイチ
「もう違うだろ」
ヨーイチ
「お前と浪人の俺じゃ、身分が釣り合わねーよ」
ウヅキ
「正式に婚約が解消されたという話は、私は聞いていませんよ」
ヨーイチ
「言わなくても分かるからだろ」
ウヅキ
「言われなくては分かりません」
ウヅキ
「正式に申し付けられるまでは、あなたは私の婚約者です」
ウヅキ
「未来の旦那様です」
ウヅキ
「それに相応しい行いを、心がけて貰わねば、困ります」
ヨーイチ
「そ」
ヨーイチ
「後ろ、乗るか?」
ウヅキ
「良いのですか?」
ヨーイチ
「文句は言わせねーさ」
カゲトラ
「みゃ?」
ウヅキ
「……はい」
ウヅキは、ヨーイチの後ろに跨った。
そして、彼の腰に抱きついた。
ウヅキ
「細いですね。ヨーイチは」
ヨーイチ
「骨は出来てる。肉はこれからだ」
ウヅキ
「ご自愛してくださいね」
ヨーイチ
「ああ」
ウヅキは服の上から、ヨーイチの体を撫でた。
ウヅキ
「この体で、ユニークモンスターを倒しただなんて……」
ウヅキ
「やっぱり信じられません」
ヨーイチ
「信じなくても良いぜ」
ウヅキ
「…………」
ウヅキ
「では、そうさせていただきます」
ヨーイチ
「ああ。そうしろ」
ヨーイチ
「この次は、眼の前で倒してやるよ」
2人を乗せ、夜の町を、猫が走っていった。
……。
その晩、ヨーイチは夢を見た。
ヨーイチ
「ん……?」
ヨーイチが目を開くと、真っ白な空間が広がっていた。
そこは、ボスラッシュの舞台に、良く似ているように思えた。
ヨーイチ
「どうなってる……?」
ヨーイチは、周囲を見回した。
だが、白が広がっているだけで、何の物体も見当たらない。
ルキフェル
「こんばんは」
いつの間にか、眼前にルキフェルの姿が有った。
以前と同様に、空中に浮かんでいた。
ヨーイチ
「どうなってる? これは夢か?」
ルキフェル
「夢よ」
ルキフェル
「あなたのイシが見せる、ただの夢」
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