その27「戦果と乱入者」
ヨーイチたちは、スケルトン狩りを続行した。
ヨーイチが敵の攻撃を誘い、チナツがモーションブレイクを狙う。
その方針で、スケルトンと戦った。
スケルトン
「…………!」
ヨーイチ
「…………」
ヨーイチが、スケルトンの棍棒を受けた。
次の瞬間、チナツは杖を振った。
チナツ
「やあっ!」
チナツの杖が、スケルトンの肩を打った。
スケルトンの体が、光に包まれた。
モーションブレイクの光だった。
モーションブレイクの追加ダメージを受け、スケルトンは絶命した。
チナツ
「やった……!」
チナツ
「オーカインくん。成功したよ。オーカインくん」
チナツは喜びに満ちた顔を、ヨーイチに向けてきた。
ヨーイチは、チナツに笑みを返した。
ヨーイチ
「やったな」
チナツ
「ふふふ」
ヨーイチ
「後はこれを応用すれば、それなりの数の魔獣が、同じ理屈で狩れる」
ヨーイチ
「モーションの都合で、狩るのがキツい敵も居るけどな」
ヨーイチ
「お前が欲しいのって、何のドロップアイテムだっけ?」
チナツ
「スケルトンナイトだね」
ヨーイチ
「スケルトン系か。丁度良いな」
さっきまで相手にしていた魔獣も、スケルトン系だ。
動きには、多少の共通点が有る。
経験が生きやすい相手だと言えた。
ヨーイチ
「それじゃ、さっそく狩りに行くか」
チナツ
「えっ?」
チナツ
「スケルトンナイトが居るのは8層だけど?」
今、ヨーイチたちが居るのは、第2層だ。
8層まで行くとなると、一気に6層を下りることになる。
ヨーイチの強さなどを考えても、無茶が有るのではないか。
チナツは、そう危惧しているようだった。
ヨーイチ
「まあなんとかなるだろ。3人居るし」
チナツ
「1人は猫なんだけど」
カゲトラ
「みゃごふ」
ヨーイチ
「見ろ。カゲトラはやる気だ」
チナツ
「…………」
チナツ
「オーカインくんのレベルは?」
ヨーイチ
「もりもり上がったぞ」
チナツ
「具体的には?」
ヨーイチ
「最初の3倍になった」
チナツ
「2上がっただけですよね? それ」
ヨーイチ
「どうせやられても、レスキューの世話になるだけだ。行こうぜ」
チナツ
「レスキュー料金はどうするのさ?」
ダンジョンレスキューは、ボランティアでは無い。
ちゃんと代金の支払いが発生する。
強制加入の保険が7割は負担してくれるが、3割は本人負担だ。
レスキュー代は、階層が深くなるほどに、料金を増す。
8層のレスキューであれば、それほど高額にはならない。
だがそれでも、学生のチナツには、重い出費だと言えた。
何より、無駄な出費が生じれば、妹のリリカが怖い。
ヨーイチ
「万が一やられたら、俺が出してやる。行こうぜ」
ヨーイチにとって、上層のレスキュー料金など、ほんの小銭だ。
出費のうちにも入らなかった。
チナツ
「そういうわけには……」
ヨーイチ
「なんとかなるって」
ヨーイチは歩きだした。
チナツとの問答を、時間の無駄だと思ったようだ。
チナツ
「あっ……」
ヨーイチは、どんどん先へ進んでしまう。
それを無理に止めることも出来ない。
チナツは仕方なく、ヨーイチの後を追った。
チナツが隣に並んだのを見ると、ヨーイチは口を開いた。
ヨーイチ
「敵が2体までなら、俺がなんとかする」
ヨーイチ
「2人はダメージを受けないように、防御に徹してくれ」
ヨーイチ
「もし3体出たら、範囲魔術で素早く敵を減らしてくれ」
チナツ
「はいはい」
チナツ
「……まったく、強引なんだから」
カゲトラ
「みゃんみゃん」
カゲトラですら、ヨーイチの強引な態度に、呆れた様子を見せた。
……。
ヨーイチたちは、あっさり8層に到着した。
チナツ
「来られるものだね。意外と」
ヨーイチ
「立ち回りが正しけりゃ、レベルが低くてもなんとかなるもんさ」
チナツ
「そのようだ」
ヨーイチ
「それじゃ、スケルトンナイトを探そう」
チナツ
「うん」
カゲトラ
「みゃん」
ヨーイチたちは、スケルトンナイトを捜索した。
当然だが、8層の敵は、2層よりも強い。
2層の時よりも慎重に、ヨーイチは迷宮を歩いた。
やがてヨーイチたちは、スケルトンナイトを発見した。
ヨーイチ
「居たな」
ヨーイチは通路から、小部屋を覗き込んでいた。
小部屋の中では、1体のスケルトンナイトがうろついていた。
ナイトはフリーランサーと違い、鎧を着て、剣を持っていた。
チナツ
「…………」
ヨーイチ
「俺がタンクをやるから、お前が攻撃しろ」
チナツ
「えっ? ボクがかい?」
ヨーイチ
「要領は、フリーランサーの時と変わらない」
ヨーイチ
「フリーランサーよりライフが多いから、最初に俺の攻撃で削る」
ヨーイチ
「後の流れは同じだ」
ヨーイチ
「俺が初撃を受けたら、高確率で2撃目が来る」
ヨーイチ
「そこをブレイクしろ」
チナツ
「けど……」
2層と8層では、敵の強さもプレッシャーも違う。
チナツは尻込みしたようだ。
ヨーイチ
「妹へのプレゼントにするんだろ?」
ヨーイチ
「自分の手でドロップさせた方が、嬉しいと思うぜ」
チナツ
「……そうかな?」
ヨーイチ
「そういうわけだ。行くぞ」
チナツ
「あっ」
有無を言わせず、ヨーイチは小部屋に駆け込んだ。
槍を手に、ヨーイチはスケルトンに向かった。
ヨーイチ
(踏み込み強突き)
ヨーイチの槍が、スケルトンを吹き飛ばした。
致命傷では無かった。
スケルトンは立ち上がり、ヨーイチに向かってきた。
間合いに入ると、スケルトンはヨーイチに斬りかかった。
そのモーションは、フリーランサーに似ていた。
ヨーイチはスケルトンの剣を、難無く防御した。
スケルトンは、2撃目のモーションに移行した。
そこをチナツが、スケルトンに攻撃した。
爆風を受け、スケルトンは吹き飛ばされた。
モーションブレイクの光は、発生しなかった。
チナツ
「あれ……?」
ヨーイチ
「ちょっと遅かったな」
ヨーイチ
「モーションがある程度まで進むと、ブレイクは発生しない」
スケルトンが起き上がった。
そして、空っぽの眼窩を、チナツの方へと向けた。
チナツ
「えっと……ヘイトが来たみたいだけど……」
ヨーイチは、腕輪を操作して、カウンターリングを装備した。
ヨーイチ
「俺がブレイクする。お前が攻撃を受けろ」
チナツ
「うん……。ちょっと怖いけど……」
スケルトンが、チナツに近付いた。
そして、剣を振り下ろした。
チナツは杖で、スケルトンの剣を受け止めた。
ヨーイチが、スケルトンを突いた。
タイミングは合っていた。
だが、連続攻撃をしてこなかったので、ブレイクは発生しなかった。
ヨーイチ
(ダメか)
ヨーイチは、再度スケルトンを突き、トドメを刺した。
スケルトンは消滅し、後には魔石が残った。
ヨーイチ
「ハズレだ。次に行くぞ」
チナツ
「うん」
2人はひたすらに、スケルトン狩った。
そして……。
チナツ
「やあっ!」
17体目のスケルトンナイトを、チナツの杖が打った。
スケルトンは、モーションブレイクの輝きを放ち、絶命した。
スケルトンが消滅した、そのあとには……。
チナツ
「あっ……!」
ドロップアイテムが、地面に落ちているのが見えた。
脚用の装備である、スケルトングリーブだ。
チナツ
「凄い……! たった1日で、装備品をドロップするなんて……!」
チナツは、スケルトングリーブに駆け寄った。
そして、拾い上げた。
ヨーイチ
「良かったな」
チナツ
「うん。ありがとう。オーカインくん」
そのとき、ヨーイチのポケットで、携帯が鳴った。
ヨーイチ
(電話か。ん……?)
ヨーイチが、ポケットに手を入れようとしたそのとき……。
ヨーイチ
「……おい、後ろ」
チナツ
「えっ?」
チナツの手中から、グリーブが消えた。
ノリヒロ
「やあ。オーカイン。その青いのは何だ?」
ヒロタケ
「…………」
タロベエ
「…………」
ジロベエ
「…………」
マツマエ=ノリヒロが、チナツからグリーブを、奪い取っていた。
彼の視線は、ヨーイチのオーラへと向けられていた。
ヨーイチ
「これか? 強者のオーラさ」
ノリヒロ
「妙なアイテムでも使ったのか? それで……」
ノリヒロ
「装備品がドロップするとは、随分と運が良いな?」
ヨーイチ
「良くねえよ」
ヨーイチ
「鬱陶しいのと出会っちまったところだ」
チナツ
「……返してもらえないかな?」
ノリヒロ
「どうするかな?」
ノリヒロはそう言って、手中のグリーブに視線を落とした。
ヨーイチ
「マツマエの家は、コソドロの家系だったらしいな」
ヒロタケ
「貴様……!」
ノリヒロ
「良い。下がれ」
ヒロタケ
「はっ……」
ノリヒロ
「口の減らん奴だな。オーカイン」
ヨーイチ
「素直にそれを返すんなら、黙ってやっても良いぜ」
ノリヒロ
「返してやっても構わんが……」
ノリヒロ
「その前に、俺と勝負をしてもらおうか」
ヨーイチ
「またかよ……」
ノリヒロ
「この装備が、どうなっても良いのか?」
ヨーイチ
「脅迫罪だぜ。それは」
ノリヒロ
「それを証明出来ればな」
ヨーイチ
「……はぁ」
ヨーイチ
「次に潜る前に、ダンジョンレコーダーを買っておくかな」
ノリヒロ
「そうしろ」
ヨーイチ
「…………」
ヨーイチ
「はっきり言って、俺にとっては、そんな装備はどうでも良い」
チナツ
「…………!」
ヨーイチ
「ネットオークションで、ボタン1つで手に入る」
ヨーイチ
「その程度のモンだ」
ヨーイチ
「……けどな」
ヨーイチ
「ミナクニにとっては、妹のための、大事な贈り物なんだよ」
ヨーイチ
「返してもらうぜ。マツマエ=ノリヒロ」
ノリヒロ
「ようやくやる気になったか」
ノリヒロ
「俺が勝てば、お前はミカガミから離れる。良いな?」
チナツ
「えっ……!?」
ヨーイチ
「お前もな」
ヨーイチ
「俺が勝てば、2度とウヅキを口説こうなんて、考えるんじゃねえぞ」
ノリヒロ
「良いだろう」
チナツ
「ダメだよそんな条件!」
チナツ
「こんな勝負、受ける必要無い……!」
ヨーイチ
「ミナクニ……」
ノリヒロ
「黙らせろ」
ヒロタケ
「はい」
ヒロタケは、指を使って印を結んだ。
ヨーイチ
「見るな!」
ヨーイチが怒鳴った。
だがチナツの視線は、ヒロタケの手に、吸い寄せられていた。
チナツ
「えっ……?」
チナツ
「う……」
ヒロタケが印を結び終わった時、チナツの体勢が崩れた。
ヒロタケ
「…………」
崩れ落ちるチナツの体を、ヒロタケが支えた。
ヒロタケ
「ニンポー、誘い揺り籠」
ニンポーとは、ニンジャだけが使用可能な、恐るべき魔術だ。
チナツはヒロタケの術中に、落ちたようだった。
ヨーイチ
「何のつもりだ……!」
女子をニンポーで眠らせるなど、冗談で済む話ではない。
明白な傷害であり、悪質な犯罪だ。
ヨーイチは、ヒロタケに殺気を向けた。
ノリヒロ
「さて、どうしたものかな」
ノリヒロは、チナツに近付いた。
そして、彼女の桃色の髪に、軽く触れた。
ノリヒロ
「このまま嬲ってやっても、構わんがな」
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