その26「スケルトンとモーションブレイク」




チナツ

「ふーん?」



 チナツは猫から下り、ブロンズロッドを出現させた。



チナツ

「ボクは何をすれば良いのかな?」


ヨーイチ

「タンクを頼む」


ヨーイチ

「スケルトンの攻撃を、ひたすらに防御してくれ」


チナツ

「えっ……」


チナツ

「ボク、魔術師なんだけど?」



 普段チナツは、仲間の前衛に守られている。


 魔獣と接近戦を演じるのは、専門外だった。



ヨーイチ

「レベル15は有るんだろうが」


ヨーイチ

「スケルトン=フリーランサー程度にビビるな」


チナツ

「そりゃ、ステータスは問題ないんだろうけど……」


チナツ

「普段タンクとかやらないから、怖いよ」


ヨーイチ

「後衛職だろうが、ある程度の接近戦は出来なきゃ……」


チナツ

「アリーナでは通用しない?」


ヨーイチ

「む……」



 セリフを先回りされ、ヨーイチの表情が固まった。


 チナツはそれを見て、してやったりの笑みをこぼした。



チナツ

「ふふふ」


ヨーイチ

「良いから、やるのかやらんのか」


チナツ

「やるけど、危なくなったら助けてよね」


ヨーイチ

「ああ」


チナツ

「もう行って良い?」


ヨーイチ

「良いぞ」



 チナツは杖を手に、曲がり角の向こうへと歩いた。


 そして、スケルトンに近付いていった。



スケルトン

「…………!」



 スケルトンは、チナツに気付いたようだ。


 体を彼女の方へと向けた。



チナツ

「っ……」



 スケルトンは、スライムなんかとは、見た目の迫力が違う。


 格下とは分かっていても、チナツの体は強張った。


 スケルトンは、チナツとの距離を詰めてきた。


 そして、チナツを間合いに収めると、棍棒を振り上げた。


 粗末な棍棒が、チナツに向かって振り下ろされた。



チナツ

「っ! やあっ!」



 スケルトンの攻撃より前に、チナツはステップしていた。


 横へ。


 スケルトンの棍棒が、空を切った。


 チナツは回避と同時に、ブロンズロッドを振っていた。


 弱スラのモーションだ。


 杖がスケルトンの頭部を打った。


 パーフェクトモーションが、成立した。


 追加効果で、爆炎が発生した。


 爆炎は、スケルトンを吹き飛ばした。


 スケルトンは絶命し、消滅した。


 魔石が落ちた。



チナツ

「やった! パーフェクトモーションだ!」



 スケルトンを倒し、チナツは喜んでみせた。


 そこへヨーイチが、冷静にツッコミを入れた。



ヨーイチ

「倒しちゃダメだろ」



 先ほどの戦いは、モーションブレイクの狙い方を、教えるためのものだ。


 誰もスケルトンを倒せとは、言っていなかった。


 チナツは実戦の緊張で、それを忘れてしまったらしい。



チナツ

「あっ……」


チナツ

「ごめんなさい」



 失策に気付いたチナツが、謝罪をした。



ヨーイチ

「まあ、最初から上手くいくとは思ってねーけど」


ヨーイチ

「それと、敵の攻撃を回避したけど、避けずに受け止めてくれ」


チナツ

「えっ? 避けちゃダメなの?」


ヨーイチ

「ダメです」


チナツ

「怖いなあ」


ヨーイチ

「けど、やってもらわんと、話が進まんから」


チナツ

「うん……。そうだよね」


ヨーイチ

「まあ、どうしても無理だってんなら、攻撃を受けるのはカゲトラにやってもらうが」


チナツ

「ダメだよ!?」


カゲトラ

「みゃっふ」



 カゲトラは、いつもより気合が入った顔で、短く鳴いた。


 スライム狩りの時は、良いところが無かった。


 活躍の場に、飢えているようだった。



ヨーイチ

「見ろよ。カゲトラはやる気だぞ」


チナツ

「ダメだからね? そんな危ないことをしたら」


ヨーイチ

「冒険猫に、何を言ってるんだ……」


チナツ

「とにかくダメです」



 チナツはカゲトラに対し、過保護だった。



ヨーイチ

「まあ良いけど」


カゲトラ

「みゃ?」



 気合を挫かれ、カゲトラの表情が崩れた。



ヨーイチ

(ダンジョンの魔獣くらい、猫無しでも倒せないとな)


ヨーイチ

「それじゃ、次のスケルトンを捜すぞ」


チナツ

「うん」



 ヨーイチたちは、スケルトンの捜索を再開した。


 次のスケルトンは、簡単に見つかった。



チナツ

「行くよ」



 遠方のスケルトンを見ながら、チナツがそう言った。



ヨーイチ

「ああ」



 ヨーイチの許可が出た。


 チナツは小走りに、スケルトンとの距離を詰めていった。


 スケルトンも、すぐにチナツに気付いた。


 チナツへと向き直り、棍棒を構えた。


 棍棒の間合いに入ると、チナツは杖を構えた。



スケルトン

「…………!」



 スケルトンは、棍棒を振り下ろした。


 先ほど戦った時と、ほぼ同じモーションだった。


 チナツは腹に力を入れ、スケルトンの棍棒を待ち構えた。


 棍棒が、ブロンズロッドとぶつかった。



チナツ

「っ……!」



 魔力干渉が起きた。


 チナツの体が硬直した。


 同様に、スケルトンの方にも、硬直が起きていた。


 スライムとは違い、スケルトンはバリアを持っている。


 硬直は、ほぼ同時に解けた。


 次の瞬間……。



ヨーイチ

(中突き)



 ヨーイチの突きが、スケルトンの胸骨を突いた。


 スケルトンは、吹き飛ばされて倒れた。


 ヨーイチは、距離を詰めて追撃し、弱突きでスケルトンを仕留めた。



チナツ

「えっと……?」


ヨーイチ

「失敗だ。次のスケルトンを捜すぞ」


チナツ

「……? うん」



 また、次のスケルトンを探した。



チナツ

「行くよ」


ヨーイチ

「ああ」



 発見するなり、戦闘をしかけた。


 先ほどと同様に、チナツは棍棒を受け止めた。


 その後の隙を、ヨーイチが突いた。


 そして吹き飛ばされたスケルトンに、ヨーイチがとどめをさした。



ヨーイチ

「また失敗だ」


チナツ

「うん」



 チナツには、何が起きているのかは分からなかった。


 だが、ヨーイチなりに考えが有るというのは分かる。


 なので、テンポを崩さず、次のスケルトンを捜しはじめた。


 やがて、4体目のスケルトンが見つかった。



チナツ

「…………」



 チナツは今度は、無言でスケルトンに向かっていった。


 そして、今までと同様に、棍棒を受け止めた。


 ヨーイチの槍が、スケルトンを突いた。


 すると……。



チナツ

「あっ……!」



 スケルトンの体が輝き、ビクビクと震えた。


 それはモーションブレイクの輝きだった。


 モーションブレイクのダメージが、スケルトンを絶命させた。


 スケルトンは消滅し、魔石が落ちた。



ヨーイチ

「モーションブレイク成功だ」


チナツ

「どういう理屈なのかな?」


ヨーイチ

「魔獣の動きは一見複雑だが、行動パターンが、単純化される瞬間が有る」


ヨーイチ

「その1つが、相手に攻撃をガードさせた瞬間だ」


ヨーイチ

「スケルトンは、攻撃をガードさせた直後は、4割くらいの確率で、追撃をしかけてくる」


ヨーイチ

「つまり、初撃の直後に攻撃すれば、3回に1回は、カウンターを取れるってことだ」


チナツ

「なるほど……」


チナツ

「これは7つの大罪ってやつじゃ無いんだよね?」



 以前ヨーイチが言ったことを、チナツは覚えていた。



ヨーイチ

「ああ。ただの基礎だ」


チナツ

「これで基礎だなんて、ダンジョンというのは奥が深いね」


ヨーイチ

「かもな」


ヨーイチ

「理屈は分かっただろ? 次はお前がブレイクしてみろよ」


チナツ

「えっ? 出来るかな?」


ヨーイチ

「最初はみんなヘタクソだ」


ヨーイチ

「ビビってないでやれよ」


チナツ

「分かった」


ヨーイチ

「それじゃ、コレ」



 ヨーイチは、腕輪に意識を移した。


 そして手のひらの上に、指輪を4つ出現させた。


 カウンターリングだった。



チナツ

「えっ? どんだけスライム倒したの?」


ヨーイチ

「土日にかなり」


ヨーイチ

「やるよ」


チナツ

「えっ? そんなのダメだよ」


ヨーイチ

「どうせ余るし」


チナツ

「あのね、オーカインくん」


チナツ

「レアアイテムというのは、ホイホイと人にあげるモノではありません」


ヨーイチ

「そうか? それじゃ、貸しとくってことで」


チナツ

「……分かった。後で返すからね」


ヨーイチ

(別に良いんだがな)



 ヨーイチは、チナツに指輪を渡した。


 チナツは、それぞれの手に2つずつ、指輪を装備した。


 そして、両手を高く上げ、4つの指輪を眺めた。



チナツ

「指がリッチになってしまった……」


ヨーイチ

「おおげさな。行くぞ」


チナツ

「うん」



 ヨーイチたちは、移動を開始した。


 そして、次のスケルトンを発見した。


 今度はヨーイチが、槍を構えて前に出た。



スケルトン

「…………!」


ヨーイチ

「…………」



 スケルトンの棍棒が、ヨーイチを襲った。


 ヨーイチは、冷静に攻撃を受け止めた。


 チナツの援護は無かった。


 すぐに、スケルトンの2撃目が来た。


 ヨーイチは、それを防御し、3撃目を回避した。


 スケルトンから距離を取り、チナツに顔を向けた。



ヨーイチ

「どうしたミナクニ」


チナツ

「タイミングが難しいよ……」


ヨーイチ

「慣れだ。とにかく攻撃してみろ」


チナツ

「うん……」



 ヨーイチは、再びスケルトンの前に立った。


 そして、棍棒をガードした。


 そのとき。



チナツ

「やあっ!」



 チナツの杖が、スケルトンの頭部を打った。


 パーフェクトモーションの追加効果で、スケルトンは爆散した。


 モーションブレイクは、発生しなかった。



チナツ

「……どうだった?」


ヨーイチ

「早すぎたな」


ヨーイチ

「まだ敵が、2撃目のモーションに入って無かった」


ヨーイチ

「それと、敵を1撃で倒しちまうのは良くない」


ヨーイチ

「モーションブレイクの追加ダメージで倒さないと、ドロップ率は上がらねーかんな」


ヨーイチ

「わざと急所を外して、肩とかを攻撃するようにしてみろ」


チナツ

「注文が増えた……」


ヨーイチ

「慣れろ」




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