その25「カゲトラと初陣」



 ヨーイチとカゲトラは、スライム部屋に移動した。



ヨーイチ

「ここで俺たちのレベルを上げる」


カゲトラ

「みゃふ!」


ヨーイチ

「つっても、スライム狩りは俺がやるから、適当に遊んでて良いぞ」


カゲトラ

「みゃみゃみゃみゃみゃ!」



 カゲトラは、気合のこもった鳴き声を上げた。



ヨーイチ

「お? やる気か?」


カゲトラ

「みゃ!」


ヨーイチ

「それじゃ、手伝ってもらおうかな」


ヨーイチ

「そのへんのスライムを、好きに倒しててくれ」


ヨーイチ

「ただし、仲間に攻撃が当たらないように、適切な距離を取って戦うこと」


カゲトラ

「みゃーみゃみゃ!」


ヨーイチ

「よし。行ってこい」


カゲトラ

「みゃみゃみゃみゃみゃみゃっ!」



 カゲトラは前進し、ヨーイチから離れた。


 行く先に、スライムの群れが有った。


 カゲトラは、群れに飛びかかった。


 カゲトラの前足が、そのうちの1匹に振り下ろされた。


 前足は、ぼよんと弾かれた。


 その勢いで、カゲトラの胴体が、大きく跳ね上がった。



カゲトラ

「みゃううううううううぅぅぅっ!?」



 カゲトラは、地面を転がった。


 ごろごろと転がって、ヨーイチの方へ戻って来た。



カゲトラ

「みゃぁ……」



 カゲトラは、へそ天の状態で、ヨーイチを見上げた。


 その表情は、どこか申し訳なさそうだった。


 カゲトラの無様な状態を見ても、ヨーイチは落胆はしなかった。



ヨーイチ

(レベル1ならこんなもんだよな)


ヨーイチ

(猫の爪の長さだと、スライムのコアまで届かないんだよな)


ヨーイチ

「めげるなよ。カゲトラ」


ヨーイチ

「俺たちは、これから強くなるんだからな」



 ヨーイチは、カゲトラを励ました。


 ヨーイチは今の自分を、最強だとは思っていない。


 レヴィの力を借りなくては、まともに戦うことすら出来ない身だ。


 だが、いずれは最強になると思っている。


 カゲトラは、そんな自分が選んだ猫だ。


 必ず強くなれる。


 そう思っていた。



カゲトラ

「みゃ……」



 主人に励まされ、カゲトラは真剣な顔つきになった。



ヨーイチ

「さて……」



 ヨーイチは、カゲトラが突っ込んだ群れを見た。


 群れ全体が、カゲトラへと向かってきていた。


 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、カゲトラに迫っていた。



カゲトラ

「みゃ……」



 攻撃が通じなかった相手だ。


 カゲトラの体が、縮こまった。



ヨーイチ

「だいぶヘイト買ったな」


ヨーイチ

「こういうときは……」



 ヨーイチは、フレイムブロンズスピアを出現させた。


 そして、スライムの群れへと向かっていった。


 群れの先頭に、槍が届く。


 そんな距離まで来た。


 ヨーイチはそこよりも、さらに深くへと踏み込んだ。



ヨーイチ

(回転斬り)



 ヨーイチを中心として、槍が回った。


 体の側面から、前へ。


 そして後ろへ。


 反時計回りに、ぐるりと1回転。


 パーフェクトモーションが、成立していた。


 ヨーイチの周囲に、爆炎が上がった。


 モーションによる追加効果だった。


 向かってきていたスライムは、全て爆散した。



カゲトラ

「…………!」



 カゲトラにとっての強敵が、一掃された。


 猫は主人に、畏敬のこもった視線を向けた。



ヨーイチ

「最初のうちは、俺がレベルを上げてやる」


ヨーイチ

「レベル2になったら、また挑戦してみろよ」


カゲトラ

「みゃ!」



 ヨーイチはいつものように、スライムを狩っていった。


 20体くらい倒すと、カゲトラが近付いてきた。



カゲトラ

「みゃー」


ヨーイチ

「ん? レベル上がったか?」


カゲトラ

「みゃ!」



 ヨーイチは、腕輪に意識をやった。


 空中に、ステータスウィンドウが出現した。


 パーティ登録によって、飼い猫のステータスも、表示されるようになっている。


 カゲトラのステータスが、表示されていた。



__________________________



カゲトラ


 クラス 見習い猫 レベル2


__________________________




ヨーイチ

「ちゃんとレベル2になってるな」


ヨーイチ

「よし。行ってこい」


カゲトラ

「うみゃー!」



 カゲトラは、気力十分に、スライムに向かっていった。



カゲトラ

「みゃっ!?」



 ぼよんと弾かれた。


 そしてごろごろと、ヨーイチのところへ戻って来た。



カゲトラ

「ふみゃぁぁ……」


ヨーイチ

「しばらくはレベル上げだな」



 ……2時間ほど、スライムを狩った。



ヨーイチ

「それじゃ、今日は帰るか」


カゲトラ

「みゃ」



__________________________



カゲトラ


 クラス 見習い猫 レベル4


__________________________




 ……水曜日になった。


 ヨーイチはいつものように登校し、授業を受けた。


 そして、放課後になった。



ヒカリ

「ねえ、今日もダンジョン行かない? ヒマだし」



 ヒカリがアキラたちに、そう提案した。



アキラ

「俺は良いけど」


ウヅキ

「私も構いませんよ」


チナツ

「ボクはパス」


チナツ

「オーカインくんと、約束が有るからね」


ウヅキ

「モン○ンですか」


チナツ

「ごめんね」


ヒカリ

「ううん。先約が有るならしょうがないよ」


ヒカリ

「じゃあね」


チナツ

「うん。また明日」


ヨーイチ

「またな」


アキラ

「ああ。また明日」



 ヨーイチは、教室を出た。


 チナツもその後に続いた。


 チナツは廊下でヨーイチに並び、話しかけた。



チナツ

「今日も、前と同じドームかな?」


ヨーイチ

「ああ。そうしよう」



 ヨーイチは、ポケットから携帯を取り出した。


 そしてSNSでフサコに連絡した。


 先日、IDを交換したのだった。


 ヨーイチとチナツは、ダンジョンドームへ移動した。


 ヨーイチは、ドーム前で立ち止まった。



チナツ

「行かないのかい?」


ヨーイチ

「ちょっと待ってくれ」



 ヨーイチは、周囲をきょろきょろと見た。



チナツ

「…………?」


フサコ

「ヨーイチさま」


カゲトラ

「みゃー」



 フサコとカゲトラが、ヨーイチたちに近付いてきた。



チナツ

「わっ! 猫? かわいいね」


ヨーイチ

「俺の猫、カゲトラだ」


チナツ

「猫なんて飼ってたんだ?」


ヨーイチ

「このまえ買った」


フサコ

「こんにちは」


チナツ

「アッハイ。こんにちは」


フサコ

「ヨーイチさまのメイド、アキモト=フサコです。よろしくお願いします」


チナツ

「どうも。オーカインくんのクラスメイトの、ミナクニ=チナツです」


フサコ

「どうかヨーイチさまと、仲良くしてあげてくださいね」


ヨーイチ

(保護者かよ)


ヨーイチ

(……まあ、似たようなもんか)


ヨーイチ

(付き合いは、そんなに長くないんだけどな)


フサコ

「それでは、私はこれで」



 ぺこりと頭を下げて、フサコは去った。


 彼女が連れてきたカゲトラが、あとに残された。



ヨーイチ

「行くか」


チナツ

「うん」


カゲトラ

「みゃ」



 ヨーイチたちは、ダンジョンドームに入った。


 ロッカーに手荷物を預け、転移陣で、ダンジョンへ移動した。



チナツ

「ねえオーカインくん」


ヨーイチ

「んー?」


チナツ

「カゲトラちゃんに、乗せてもらっても良いかな?」


ヨーイチ

「カゲトラが、嫌がらないなら良いぞ」


チナツ

「うん……」


チナツ

「良いかな?」



 チナツは今度は、カゲトラに話しかけた。



カゲトラ

「みゃ」



 カゲトラは立ち止まり、姿勢を低くした。



ヨーイチ

「良いみたいだな」


チナツ

「やった!」



 チナツは、カゲトラに跨った。


 チナツの体勢が整うと、カゲトラは歩きはじめた。


 その表情は、どこか得意げだった。



チナツ

「ふふふ。しあわせ」



 チナツは、カゲトラの上からニコニコと、ヨーイチに微笑みかけた。


 サーベル猫に乗れることを、本心から楽しんでいるようだった。



ヨーイチ

「良かったな」


チナツ

「うん」


チナツ

「こんな真っ黒なサーベル猫なんて、珍しいね」


ヨーイチ

「カッコイイだろう?」


チナツ

「うん。カワイイね」


ヨーイチ

「……カッコイイんだ」


チナツ

「そうだね。それで……」


チナツ

「前に教えてくれた裏技の、続きを教えてくれるんだよね?」


ヨーイチ

「ああ」


ヨーイチ

「今日はお前に、楽にモーションブレイクを取る方法を、教えてやるよ」


チナツ

「楽しみだね」


ヨーイチ

「敵は、スケルトン系が良いな」


ヨーイチ

「2層に下りて、スケルトン=フリーランサーを探そう」


チナツ

「りょーかい」



 ヨーイチたちは、2層に移動した。


 チナツはずっと、カゲトラに跨ったままだった。


 ずいぶんと気に入ったらしい。


 2層に到着すると、敵を探した。


 目当てのスケルトンは、すぐに見つかった。


 特にレアな魔獣というわけでもない。


 普通に歩いていれば、ぶつかる相手だった。



スケルトン

「…………」



 曲がり角の先に、スケルトンの姿が有った。


 ボロい衣服を着た、最弱のスケルトンだった。


 手には、みすぼらしい棍棒を所持していた。


 ひとめ見ただけで、大した武器では無いと分かる。



ヨーイチ

「居たな」



 ヨーイチは、カドに隠れながら言った。



チナツ

「うん」


ヨーイチ

「猫から下りて、武器を構えろ」


チナツ

「うん。ボクも何かするの?」


ヨーイチ

「ああ。というか……」


ヨーイチ

「今から教えるやり方は、1人だと難しい」



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