その6の2



アキラ

「くっ……!」



 踏み込み強スラは、ガードさせた相手の方が、早く動ける。


 ヨーイチのターンが来た。 


 アキラの顔に、焦りの表情が見えた。



ヒカリ

(ガードがうますぎる)



 ダンプラにおいては、防御の構えも重要になる。


 受け方が悪いと、相手に隙が出来ても、反撃の機会を逃すことが有る。


 ヨーイチのガードは、完璧だった。



ヒカリ

(あの体勢なら、確定でデスサイズの中スラが入る。けど……)


ヒカリ

(それでも、大したダメージにはならないはずだ)



 ヒカリは兄が置かれた状況を、楽観視していた。



ヨーイチ

(中スラ)


アキラ

「が……!」



 ヨーイチの1撃が、アキラを打った。


 光の刃、マジックブレイドが、アキラのバリアにぶつかった。


 マジックブレイドは、敵を吹き飛ばす力が小さい。


 直撃にも関わらず、アキラの位置は、ほとんど変化しなかった。


 ダメージは当然、武器で受けた時よりも大きい。


 とはいえ、ヨーイチの攻撃力が低すぎるので、致命打にはならない。


 ……これで1区切り。


 ヒカリはそう思っていた。


 だが……。



ヨーイチ

(強スラ)



 ヨーイチは、硬直が解けた瞬間に、強スラをはなった。



ヒカリ

「繋いだ!?」



 ヨーイチの中スラから、連続攻撃、コンボが繋がった。


 デスサイズの刃が、再びアキラを打った。


 アキラは2度の攻撃を、モロに受けることになった。


 その地味なコンボが、最高難度のテクニックであることは、ヒカリにしか分からなかった。


 ヒカリの表情が、驚きに崩れていた。



ウヅキ

「……?」



 ウヅキには、ヒカリがどうして驚いているのか、分からなかった。


 デスサイズのコンボが繋がったからといって、それが何だというのか。


 普通のことではないのか。



ヨーイチ

「…………」



 外野の驚きなど、ヨーイチには知ったことでは無かった。


 彼は、自身の動きに集中していた。


 勝つために。



ヨーイチ

(青キャン前ダッシュ)



 ヨーイチは、強スラの硬直を、闘気の力で強引に中断させた。


 そして、前に出た。


 さらに技をはなった。



ヨーイチ

(飛翔斬、弱)



 ヨーイチは、飛び上がりながら、アキラを斬った。


 特殊モーションである飛翔斬。


 その弱バージョンだった。


 強の飛翔斬と違い、相手を吹き飛ばすような性能は無く、コンボに使える。



ヒカリ

(このコンボルートは……!)


ヒカリ

「サイクロン!?」



 ヨーイチの体は、硬直しながら、宙へと舞い上がった。


 すぐに、飛翔斬の硬直が解けた。



アキラ

(動けない……!)



 飛翔斬弱は、直撃に限り、受けた相手を長時間硬直させる。


 アキラの硬直は、まだ続いていた。


 ヨーイチは大鎌を、上段に構えた。



ヨーイチ

(ダイブ強スラ……)



 ヨーイチは空中から、闘気を用いた落下攻撃をしかけようとした。


 だが……。




ヨーイチ

「ぐっ……!?」




 ヨーイチはとつぜん、空中で体勢をくずした。


 そして、地面に落下した。


 ヨーイチの体から、青いオーラが消えた。



アキラ

「…………?」



 アキラの体は、ヨーイチの連続技から自由になっていた。


 バリアによる硬直は、もう無い。


 だが戸惑いから、固まってしまっていた。


 少しすると、我を取りもどし、ヨーイチに声をかけた。



アキラ

「おい……!」



 アキラは、ヨーイチの傍でしゃがみこみ、肩に触れた。


 少し遅れて、他の仲間たちも駆け寄ってきた。



ウヅキ

「ヨーイチ……」



 ウヅキはヨーイチの名を、小さく口にした。



ヨーイチ

「…………」



 ヨーイチは、何も答えなかった。



アキラ

「だいじょうぶか……!? どうしたんだ……!?」


ヒカリ

「SP……闘気切れだろうね」


ヒカリ

「デスサイズは、大型武器だ」


ヒカリ

「そのコンボを完走するには、大量のSPが必要になる」


ヒカリ

「レベル1の、猫騎士である彼のSPでは、足りなかったってことだよ」


ヨーイチ

「……………………」



 ヨーイチは、両目を閉じていた。


 意識が無い様子だった。



アキラ

「気を失ってる」


アキラ

「だたの闘気切れで、こんなことになるものなのか?」


ヒカリ

「分からないけど……」


ヒカリ

「彼は病弱みたいだから、普通よりも負担が大きかったのかも」


チナツ

「それなら、お医者さんに診てもらった方が、良いんじゃないかい?」


アキラ

「そうだな。救急車を呼ぼう」


アキラ

「……それで良いな? ミカガミ」


ウヅキ

「……分かりました」



 ウヅキはポケットに手を入れ、携帯を取り出した。


 そして、119番を押した。



 ……。




ヨーイチ

「う……」



 ヨーイチは、ベッドの上で目覚めた。


 少しの間、見慣れぬ天井を眺めながら、まばたきをした。


 やがて、上体を起こした。



ヨーイチ

(白いな……)


ヨーイチ

(ここは……病院か……?)



 ヨーイチは、部屋の中を見回した。


 右側には窓。


 左側に、出入り口が見えた。


 ヨーイチが使っている他に、ベッドは見当たらない。


 個室らしい。


 ヨーイチは、窓の方を眺めた。


 外は明るい。


 すでに、夜は明けたようだった。


 窓にうっすらと、自分の顔が映っていた。



ヨーイチ

(こいつは……)


ヨーイチ

「ガリカイン……?」



 ヨーイチは、頬のこけた顔を見て、そう呟いた。



ヨーイチ

「…………?」


ヨーイチ

「ガリカインって何だよ」


ヨーイチ

「俺は……オーカイン=ヨーイチ……」


ヨーイチ

「違う……? オーサコ=ヨーイチ……?」


ヨーイチ

「俺は……アリーナのチャンピオンで……」


ヨーイチ

「違う」


ヨーイチ

「俺は、ミトオーカイン家の長男だ」


ヨーイチ

(けど、だったら……)


ヨーイチ

(この記憶は何なんだよ……?)


ヨーイチ

(どうして俺の中に……俺以外のやつの記憶が有る……?)


ヨーイチ

(どうして……)


ヨーイチ

(どうして俺は自分のことを……)


ヨーイチ

(『ゲームの雑魚ボスだ』なんて、思っちまってるんだ……?)



 ヨーイチの中で、記憶の混乱が起きていた。


 それが収まるよりも早く……。



レヴィ

「おはようございます。あるじ様」



 窓とは反対の方向から、女の声が聞こえた。


 ヨーイチは、声の方を見た。



ヨーイチ

「ッ!?」



 ヨーイチの体が、驚きでびくりと震えた。


 彼の視線の先に、少女が浮かんでいた。



ヨーイチ

「浮いてる……!?」


レヴィ

「えっ? はい。浮いていますね」



 青髪の少女が、のんびりとした口調で答えた。


 ヨーイチにとって、彼女の存在は、異常事態に他ならなかった。


 のんびりなど、していられない。


 ヨーイチと少女の間に、明確な温度差が存在した。



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