なにかの勘違い

7月6日、水曜日、午前7時半。起きてからやっとの思いで玄関のドアを開ける。

空は曇っていて今にも雨が降りそうだ。排気ガスが溜まったような空だった。でも何故か歩きたい気分だった。傘を持って歩く。

神社の参道を通り、曲がり角を曲がると柏木が前を歩いていた。柏木は歩きスマホをしているせいか歩くスピードが遅い。 追いついてしまう。もうめんどくさいので追い越そうと思いスピードを早める。追い越そうとした瞬間、

「ねえ、柳さんだよね」

「え、あ、はい」

冷たい重い声が耳元で響いた。びっくりしてしまった。話しかけられるとは思っていなかった。柏木の目は死んでいなかった。

「私、あなたに興味があるの。もしよかったら仲良くしてくれると嬉しい」

「えっと……はい、私でよければ」

と返事をしていた。自然と2人並んで歩く。何を話せばいいのか分からない。断ればよかった。

「ねえ、東さんとどういう関係なの?」

平手打ちされたような感覚がした。柏木には落ち着きが見えない。

「え、なんで東を知ってるんですか」

「少しお2人を尾行しちゃった。ごめんね」

「尾行!?」

「うん、ごめんね」

「いやなんで同じクラスなのに話しかけてくれなかったんですか」

「だって柳さんいつも目が暗いから怖くて……」

「私が、怖い?」

「あ、ごめんね。正直に話すとそういうこと」

「はあ……」

私は自分がそんな目をしていたことに衝撃を受けたのと、あなたも人に言えないと思った。

「でも柳さん、東さんと喋ってる時は目がキラキラしてたからさ!きっと2人は親友なんだろうなって思ったの」

「親友……」

たった4文字がドリルみたいに鋭く胸に穴を開けて染み込む。第三者から見てただの親友なら東も私を親友扱いしているんだろうな。

「そうだね、東とは仲良いよ」

必死に答えた。だめだ。この人と話してると心が苦しい。話題が悪いのか。

「なんか2人が仲良くなったきっかけってあるの?」

なんでそんなことをこの人は聞いてくるんだろう。

「なんでかなあ、去年同じクラスだったからかなあ。きっかけは特にないよ。分かんないけど」

「ふーん。まあ東さんのことはいいや、私はあなたと仲良くなりたいの」

そう言ってニコッと笑った彼女の歯並びはガタガタだった。それでもなにか守りたくなるような愛くるしい笑顔をこちらに向けてくる。彼女はすらっとしていて綺麗だった。健康的な体型に健康的な肌色。

ボブの茶色の髪の毛がふわふわ揺れている。ふわふわしているのはきっと生まれつき。

今までも男子にモテてきたんだろう。

「人生楽だったんだろうな」

ぼそっと言ってしまった。思わず口を塞ぐ。

「ん?何か言った?」

「あーいや何も」

本当に聞こえたのか聞こえなかったのか分からない表情を柏木はしていた。

「サラー!おはよー!」

「おー!夢じゃん!おはよー」

「あ、確かあの子同じクラスの……」

「そうそう、私の友達、珍しいあの子がちゃんと起きて学校行くなんて」

「私ひとりで行くからあの子と行きなよ。気にしないでいいよ」

「じゃーまた話してくれる?」

彼女の表情が眩しい。こんなのずるい。私に拒否権がない。しょうがなく

「うん、わかった。またね」

と返事してしまった。そう言うと彼女はとても嬉しそうに「ありがとう!」と元気にその友達の元へ走っていった。なんだったんだろう。私と仲良くなりたいとか話す人を間違っている気がする。というより間違えてて欲しい。私のことをあんまり気に停めないで欲しい。私を視野に入れないで。私はあなたのことなんて見えてない。

柏木は学校で私に気にかける様子もなく普通に過ごしていた。窓の外を見ると小降りでも本降りでもない普通の雨が降っていた。

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東山 昭静 @nagisyous

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