第7話 めんどくせえ営業先①
ファーテスの街中の
街中の依頼主、最後の一か所は実のところあまり行きたくないんだよな。
日を改めてと思いさり気なく市外に出る門の方向に歩き出そうとした俺を、エディが止める。
「カワイさん、行かないんですか? 市政庁。いただいた営業先一覧の市街地依頼主のところに載ってますけど」
エディよ、もっと
この時ばかりはそう思った。
エディはあの後、普通に営業先の料理店で笑顔であいさつし、店主の話を興味深そうに聴き、そして次の依頼ももらった。
行く先々で依頼主に受け入れて貰えている。
やっぱり、営業の素質は十分すぎるほどに備えてる。
エディが自分で言った言葉の通り、この仕事を早く覚えようという意欲がある。
「エディ、初日だから疲れただろ? だから市政庁はまた後日にしようかなーって思ったんだよ」
「いえ、私は大丈夫ですよ。せっかくわざわざファーテス市街地まで来たのですから、後日出直す方が手間じゃないですか」
まあ、確かにそうなんだけどさー。
外壁で囲われたファーテス市街地とその周辺の農地からやや離れたところにファーテスの冒険者が集まる通称「冒険者街」が形成されている。
冒険者街からファーテス市街地は徒歩で小一時間くらいかかるから、後日市政庁に来るためだけに出直すというのは確かに手間なんだ。
だけどなー。
「カワイさん、行きたくないんですか? さっき『営業って色々な人に会えて話ができて自分の世界を広げることができるのが楽しい』って言ってたじゃないですか。あの言葉、けっこう私には響いたのに」
……だめだ、あまり気軽に自分の信念をカッコつけて言うもんじゃない。
こうやって自分に跳ね返ってくる。
「……わかったよ。行こうか」
仕方ない。
俺は重い足取りで市政庁に向かった。
市政庁はファーテス市街地の中心にあるファーテス城塞の中にある。
ファーテス城塞と呼ばれてはいるが、規模は砦に毛が生えた程度だ。
城塞の敷地内には市政庁と軍指令所が入る城塞本体の建物と、兵士たちの暮らす兵舎と武器庫、そしてファーテスの代官モックス男爵が暮らす館がある。
代官、つまりファーテスは王家の直轄領なのだ。
そして城内には、俺達のような冒険者は正門からは入れない。
決められた通用門から入らなければならないのだ。
正門の前をぐるっと城壁に沿って回って十数分。
通用門の衛兵に、身分を証明する冒険者証を提示し、入城の許可を得ないといけない。
ワイシャツの下の素肌に首から掛けている鈍い銀色の冒険者証を、ネクタイの下になっているワイシャツのボタンを外して外に出し提示する。
今日警備している衛兵2人はなじみのダニーたちの部隊じゃないようで、1人が俺の提示した冒険者証をジロリと眺めると「冒険者風情が何用だ」と高圧的に尋ねられる。
「冒険者ギルドの営業部長カワイ=ケイスケです。今日は新しい営業部員が入ったので政庁の皆様にご紹介をと思いまして」
「冒険者ギルド営業のエディ=レイクです」
衛兵は俺とエディの顔と冒険者証を交互にジロジロ見回す。
俺がスーツのポケットから1000デイス銀貨を2枚取り出し衛兵一人一人の手に握らせると「通れ」と一言。
だが、この衛兵たち、城門警備に慣れてない。
大事なことを忘れてる。そのせいで後で重大な嫌疑をかけられたらたまらない。
俺は着けていた
エディも俺に
「すみませんが、こちら預かっていただいてよろしいですか?」
俺とエディが
もう一人の衛兵が詰所の中をガサガサ探し回り預かり証を見つけると「ほら、持ってけ!」と俺たちに投げつける。
預かり証をキャッチしてスーツのポケットにしまい笑顔を作った俺は「お役目、ご苦労様です」と衛兵たちにあいさつをして、通用門から敷地内に入った。
エディも俺に続く。
衛兵たちから見えないところまで来ると、エディが小声で聞いて来た。
「毎回あんな調子なんですか?」
「いや、普段ていうか市から定期的に来る依頼の報告の時期はダニーって部隊長の部隊が警備してるから、あんな対応はされないよ。慣れてるから。ワイロだって一人500デイス銀貨で済ませてくれる。
今日は多分、普段門の警備なんかしたことがない部隊だったんだろうな」
「初めて市政庁に来たものですから、驚きました」
「市政庁に来る用事なんてファーテス市街地の市民だって滅多に無いんだから。冒険者だったら尚更だよ」
俺はそう返答し、エディを連れて市政庁に向かった。
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