第4話 定例会議④
エイジの奴、ウイラード支部長が居眠りしてるからって苛立ちを俺にぶつけてるのか言葉にトゲを感じる。
「……ファーテスは辺境ですから、どうしても依頼主になり得る者というのが限られるので。一度依頼していただいた依頼主には、再度依頼いただけるようにアフターフォローを厚くする方向で営業させてもらってます」
「それはいいが、急ぎ新規大口案件をどうにかしてほしい」
「大口案件はどうしてもファーテスの外まで営業に行く必要あるんで。あんまり出張すると会計部門部長に苦い顔されるので、なかなか」
「くだらない出費まで経費計上しようとするからだ!」
「そうよ、娼館一晩の代金とかふざけすぎよ」
「仕方ないだろ! こっちが相手を接待しないといけないんだから」
「せめて
「一晩中ナニしてんだか」
「ナニが好きな依頼主候補もいるの! 別に俺が行きたい訳じゃないって!」
「どうだか。『黄金の夜明け亭』に入って行くの見たわよ」
「あれは、あそこのキャストに各都市のそういった接待スポットを教えて貰うために……」
「いやーん、ケイスケったらフケツよ~」
ジェーンめ、芝居がかった
「……とにかく、適正な経費なら文句は言わん。早急に更なる大口案件を取って来てくれ」
「しかも、なるべく継続依頼が見込める案件、かい?」
「そうだ。さもないと身を立てられない
「まあね。窓口で観察していると、ちょっと内に何か溜め込んでる表情の冒険者が目立つようになってるからね」
「まあ、元々『冒険者』っちゅうのは浮浪児や孤児、放逐された人々、都市部の貧民らをどうにか統治するために作られた身分じゃからの、食えなくなれば悪さに走るのも致し方ないのう」
「ゲイルは経験してるだけに重みが違うねぇ。ま、ひとつボタンを掛け違えれば俺達だってそうなってたかも知れねえ訳だしな。それに、そいつら討伐する
ああ、それは俺もわかってる。
クラスが上れば他の身分に転職することも一応可能になるし、ある程度名が売れれば領主に仕官の道も開ける。
ただ、そこに至るまで、
そこを支援するために冒険者ギルドは存在する。
細々と依頼報酬から組合費を徴収しているのも、同職同士の互助組織だからだ。
「営業の俺の肩に、ファーテスの新米冒険者たちの未来がかかっているのはよくわかってるよ、みんな。
俺もさっきはエイジがイラついてたから、ついアテられてああ言ったけど、低ランク向けの新規大口案件は取って来たいと思ってたんだ。
そこで、一つ支部長決裁を仰ぎたい。
専従の営業職員を一人雇用したいんだ」
「わざわざ報告を最後に回したのは、やっぱりそうか。アテはあるのか」
「エディ=レイクだ。
「エディならいいんじゃない? 『底なし沼』とも上手くやれそうだし。少なくとも悪い事にはならないと思うわ」
特能「第6感」を持つジェーンがそう言ってくれるのは、心強い。
でも、ジェーンの支部長決裁だけ通ったりしたら、俺はショックで寝込むかも知れない。
「ケイスケ、営業専従職員採用の支部長決裁の前にまだ報告あるだろう」
「あー……」
「販売部門の報告と『底なし沼』の様子を教えてくれ」
そこ見逃してはくれないか、やっぱり。そりゃそうか。
「販売部門は……売り上げは横這いだ。
「『底なし沼』の様子は?」
「『底なし沼』こと製品開発主任のパメラは、今期は幸いなことに情熱をかける発想が思いつかなかったようで、大人しかったよ。スペルセッターの仕事はそれなりにやってくれてたけどね。
変な思い付きで異常な開発費を泥沼にぶち込むようなことは今期はそれ程なかった。だから俺も営業専従職員増員のお伺いを口に出せるんだ」
「そうか。貴重な運営費を際限無くつぎ込むようなことが無くて本当に良かった。それとケイスケ、『
「わかってるよ」
とは言っても『
そして見せられたその金額の大きさに気を失ってしまいたくなる。
「さて、支部長」
エイジがウイラード支部長に目をやると、支部長は変わらず腕組み目
「ユキノくん、頼む」
「了解ですぅ」
エイジが書記のナリミヤ=ユキノくんにそう告げると、ユキノくんは状態異常・眠りの
「うおっ、何だ、辛っ! デビルペッパーより辛っ!」
普通、回復魔法全般には味覚付与の効果なんて無いんだが、変な所に情熱を燃やすうちの『
回復魔法オブラート自体にも付与する味付けが施されているという
術者が最初に苦しむことを除けば『
目の前に出されたまま手つかずだったコップの水を一気に飲み干しゴホゴホとムセ込む支部長に、エイジが冷静に告げる。
「支部長、今回の定例会議で支部長決裁を仰ぎたい案件は3件です。ユキノくん、読み上げて」
「飲食宿泊部門ビュコック=ドワイト部長より、冒険者長屋の修理と女性冒険者用長屋の増築。
窓口業務担当ジェーン=マッケンジー主任、いえ
営業販売カワイ=ケイスケ部長より営業専従職員の増員。
以上の3件ですぅ」
「ゴホッ、エイジ、資金的にはどうゴホッ、どうだ? ゴホッ」
ムセ込みを
「……正直、全案件は難しいところですが」
「ふむ……ゴホッ、ビュコック、既存の長屋の修理についてはゴホッ、修理が必要な長屋の状況を洗い出して、次の定例会議でもう一度提案しろ。ゴホッ、女性冒険者専用の長屋増築は許可する、取り掛かれ。なるべくなら全部
ジェーン、
ケイスケ、営業専従職員の候補者は誰だ」
「エディ=レイクです」
「エディならいいだろう。ただしエディ本人が
「了解しました、ありがとうございます」
「では、以上で今回の定例会議を終わりとする。エイジ、それぞれの案件の資金は頼んだぞ。では解散! ゴホッ、それぞれの仕事に戻ってくれゴホッ」
俺は、営業専従職員の増員が叶い、ホッと胸を撫で下ろした。
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