第3話 定例会議③





 営業販売部門の報告を俺がする前に、窓口業務主任のジェーンが先に報告する。


「窓口業務から報告するわ。今期、新規に冒険者登録をした者は28名。市街地、農村から直接登録に来た者が10名、大樹海の中の住人が16名と、ファーテス修道院の孤児院を卒院した子が2名ね。その他によその都市で冒険者登録してここファーテスに移って来た冒険者が35名。合計で63名増。けっこう増えたわ」


「お、孤児院出身の2人は有望そうじゃのう」


「そうね、シスター・パトリシアから餞別せんべつで『回復Lv3』と『解呪Lv2』のスペルオブラート聖餅を授かったらしいわね。2人とも回復に適正があるってことなんでしょうね」


「回復系スペルオブラート聖餅は教会がほぼ独占状態だからな。修道士にしないで冒険者に送り出して下さることには感謝だ。死ぬことなく順調に育ってくれるといいが」


「エイジ、同感だけど、ひねくれた言い方は本人たちには絶対しないでよ、どこかで行き会ったとしても。

 あんたは教会が無地オブラート聖餅の製造と販売を独占してるってことが不満だろうけど、それってのは今の人間社会では変えようのないことなんだから。

 絶対にここ定例会議以外では口に出さないで」


「了解だ、窓口業務主任。ところで大樹海の中の住人の内訳は?」 


「近隣農村からの逃散ちょうさん者と放逐ほうちく者で集団生活していた人間ヒューマンが6名。他は私と同じエルフが4名、ドワーフ4名、リザードマン2名よ。人間以外の大樹海の住人は、少しづつ私たちと協調しようとする傾向にあるわね」


「彼等も人間ヒューマンの貨幣経済に飲み込まれていくのかー、何か切ないなあ」

 つい俺がポロっとこぼす。


「他の地方では既に異種族もそこの領民として溶け込んでいるところが殆どだからね。私の出身地辺りでもそう。辺境の大樹海にもその流れが来ているのよ。

 次に、よそから移って来た冒険者はカッパー級の者が半数を占めているわ。この辺りの洞穴ダンジョン探索で稼ぎたいみたいね。ちょっとはファーテスの名も冒険者界隈じゃ有名になってきたってことで有難いわね」


「魔石の収穫も増えるといいのう」


「珍しい食材も多く取って来てくれりゃあな、腕が鳴るってもんだぜ」


「期待するのは結構だけど、人数が増えたからってすぐに結果に結びつくような簡単なものじゃないのはわかってるでしょうに」


「期待する時が一番胸が高鳴るんじゃあ。ジェーンの胸よりも高く、柔らかく、丸みを帯びてのう」


 ゲイルの言にビュコックが大きく頷く。


「まあ期待するのは構わないけどね、エロじじい。

 現時点でファーテス支部に登録されている冒険者は893名よ。窓口業務の事務については、各冒険者の依頼報酬と戦利品報酬の中から冒険者ギルド組合費の徴収と教会税、領主への人頭税の徴収はバッチリよ。会計部門長、一応数字と現金が合ってるか確認しといてね」


「ああ、わかってる。窓口担当者全員がきっちりおこなってくれてるのは把握している」


「ならいいけど。納期ギリギリに納めて代替わりした領主を怒らせるようなことはしないでね。せっかく代納入を認めさせたんだし。

 ところで、私も支部長決裁を仰ぎたいことがあるんだけど」


 何だって~! ジェーンまで!


「窓口の専従職員を増員したいのか?」


「窓口専従職員はいくらでも欲しいけど、違うわ。裏の方」


「……治安維持組織ギルドナイトの方か。誰か良さそうな者が?」


「ええ。『特能とくのう』で使えそうなものを持ってそうなカッパー級よ。ケイスケやエイジと同じ異世界転移者よ」


「異世界転移者は確かに『特能』を持っているからな」


「本人にアプローチして承諾貰ったら名前を報告するわ」


「ジェーンの『第6感』が教えてくれたのか?」


「ええ、私の第6感特能がね。そいつが使える『特能』を持っていそうってことと、ちょっと急がないと命が危なそうってピーンときたのよ。だから何としても今日決裁受けたいのよ」


「わかったが、そう急ぐなよジェーン。会議の最後に支部長決裁だ」


 エイジはそう言ってウイラード支部長の方をちらっと見る。

 ウイラード支部長は太い腕を組み、椅子の背にもたれつつ目を閉じている。

 しっかり集中して議事を聞いている……訳ではない。

 口の端が少し緩んで、たらーりとよだれが、控え目ながらお出ましになっている。

 まあ、誰がどう見ても居眠りしている。

 だがこれもいつものことだ。

 しかしビュコックとジェーンも支部長決裁を仰ぐとは……やばいぞ、全ては通らないかも知れない。それはカンベンしてくれ。


 エイジがメガネを何度も指でずり上げながら俺に振った。


「では、最後に営業販売部門! ケイスケ、報告しろ」

 クールニナレヨ、エイジ。イツモノコッタロウヨ。支部長への苛立ちをこっちに向けられるのは、とばっちりもいいとこだ。


「営業販売部門です。えーっと、ファーテスの冒険者の3分の2を占めるリード級の駆け出し冒険者たちが何とか冒険者として生活できるようにってことで、とにかく多くの依頼を取って来るように営業回りしています。

 大口の定期依頼としては、教会への「魔石」の輸送であったり、領主依頼のファーテス中心街の排水路の掃除などがありますが、それ以外に個人の農家であったり、木工ギルドや大工ギルドの下請けなど、ある程度危険のない依頼というのを開拓し成果を挙げています。

 ことに数軒の自作農家からは定期的に依頼をいただけるようになっていて、養蜂農家の周辺警戒依頼などは討伐依頼の登竜門としての役割も兼ねています」


「ここにきてファーテスの冒険者数が増加傾向だが、リード級やブロンズ青銅級向けの新たな大口案件は取れてないよな。現状維持で何とかなるのか? ちょっと気が抜けてないか、営業販売部長」


 ぐぬぬ、だから、八つ当たりはやめろって。


 

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