3話

「確かな筋の情報です」

 ある日オタケがすずめちゃんに耳打ちをした。すずめちゃんは耳が弱いので、普通に喋れや、と思ったが黙っていた。

「ウナ先輩がもうすぐ出てくるそうです」

 すずめちゃんは黙って頷いた。

 それから沖那君を呼びに行かせた。

 飛び出していくオタケを見て、たまり場にされている喫茶店兼バーのママは、天ノ雀集合の気配を感じてため息をついた。

 奥のひとテーブルを占めているうちはまだ良いのだが、チームの人間が集まれば他の客はそそくさと退店し、そしてその日の昼営業にはもう客足を見込めない。かと言って元レディースの総長だったママとして、可愛い後輩たちの居場所を奪う気にもまたなれないのである。

「カレー、どうせ余るから食ってくかい」

 集まった少女たちにそう言ってふるまうこともある。

「ママのカレー最高!」

「ありがとママ!」

「酒無いの?」

「調子乗んじゃないよ!」

 酒焼けした声でたしなめながらも、カレーにはしゃぐ少女たちは年相応に幼く、がっつく姿も微笑ましいと思い、世話を焼いてしまう。

「二杯目からは水だからね!」

 そう牽制しながら、オレンジジュースやミックスジュースを一杯ずつサービスしてやることも少なくなかった。

「ケチくせー」

「あんま舐めたこと言ってたら追い出すからな! いつもジュース一杯で粘りやがって」

「だってこの店のパフェまじいもんな」

「メロンすっぱかったもんな」

 口の悪い少女たちだが、ママにはよく懐いていたし、ママも憎からず思っていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る