第19話 悪役令嬢のデート

 今日は、学院がお休みで、サフラン様と出かける日だ。

 朝食を食べ終え、自室でシンプルな薄いピンクのシルクのワンピースに着替え、軽く髪をまとめ、迎えを待つ。初めてのデートだ。ドキドキするわ。


 サフラン様が迎えに来ると、サフラン様の侯爵家の馬車で、王都から少し離れた場所にある湖にむかった。

 そこで、2人でボートに乗る。サフラン様が漕いでくれ、私は乗っているだけだ。とてもきれいな湖で湖の中を泳ぐ魚の姿も見える。湖の周りは緑豊かで、色とりどりの花や木々が生えている。小鳥の囀りも聞こえ、心が癒される空間だ。


「とても素敵な場所ですね。なんか心が癒されます」

「喜んでもらえて良かったよ。この場所は、自然が多くて、いいだろう」

「えぇ、とっても」


 周りを見回すと、他にもボートに乗っているカップルが多くいる。この湖は、デートスポットのようだ。そんな中、黒髪に帽子を深く被り、サングラスをかけてボートに座っている男と同じく黒髪に帽子を深く被りサングラスをかけてるボートを漕いでいる男がいる。このボートに乗っている男2人組はこの場に浮いていた。この男2人組のボートは、なぜか私たちの近くにいた。私が、


「サフラン様、あちらの方に行ってみたいです」

 奇妙な2人組のボートを遠ざけようと言う。

「あぁ、いいよ」

 とサフラン様は笑顔で私の言った方へボートを漕いでくれた。


 私は、水に手をつける。冷たくて気持ちいいわ。あっ、奇妙な2人組のボートと離れられたわ。ほっとする。

 ボートを止め、2人で他愛もない話をしていると、いつの間にか奇妙な2人組のボートがまた近くにいる。なぜかサフラン様は笑っている。


「サフラン様、どうかしましたか? 」

「ふっふっふっ、いやなんでもない。気にしないでくれ。ふっふっ」

 と笑いをこらえてるようだ。

「さぁ、戻ろうか。奇妙なボートがいるからな。ふっ、ふっ」


 と笑いながら、ボートを漕ぎはじめた。サフラン様も奇妙な2人組のボートに気付いたようだ。何かあってからでは大変だ。早くボートを降りた方がいいわ。サフラン様はさすがだわ。きっと危険を感じて戻ろうと言ったのね。あの男2人組奇妙だもの。ボートに乗るだけなのに深く帽子を被ってサングラスって怪しいわよね。




 私たちは、湖から王都に戻り、カフェで昼食をとる。

「ここのカフェのビーフシチューは、絶品だよ」

 サフラン様が連れてきてくれたカフェは、高級そうな店だった。周りを見回す。お客は、貴族だけのようだ。そこに、湖で見かけた奇妙な男2人組も座っていた。帽子を深く被り、サングラスをかけている。やはり奇妙だわ。お店の中でも帽子とサングラス掛けてるって・・・・。

 私は、視線をサフラン様に戻し、


「素敵な店ですね。ところで、湖にいた奇妙なボートにのってた人達がいますよ」

 と伝える。すると、

「ふっふっふっ、そうだな。なんか行く場所が気が合うようだな。ふっふっ」

 と笑いながらサフラン様は答える。サフラン様、もしかしてお知り合いなのかしら・・・・。

「あの、サフラン様、あの2人組とはお知り合いですか? 」

「ふっふっ、いや知らない」

 私たちは、ビーフシチューを食べた。さすが、サフラン様がお薦めするだけあって、とても絶品だった。




 その後、サフラン様とウィンドウショッピングを楽しみ、途中で買った飲み物を公園のベンチに座りながら飲んでいた。すると、またあの奇妙な男2人組がいた。私たちの向いにあるベンチに座って飲み物を飲んでいる。また帽子を深く被りサングラスをしている。なんだろう。あの奇妙な男2人組を今日は、よくお見かけするわ。奇妙な2人組を不審に思い、私は急いで飲み物を飲み、サフラン様に


「また奇妙な2人組がいます。やはり、不審ですわ。何かあったら大変です。もう、馬車に戻りませんか? 」

 と言う。サフラン様は笑いながら、

「ふっふっふっ、そうだな」

 と言う。なぜ、笑ってられるの、サフラン様! 危機感もって! 私は心の中で言う。




 私たちが、馬車に戻る途中、お婆さんから財布を奪った男が私に向かって走ってくる。きゃ! と思うと、私の目の前にあの奇妙な2人組の1人が男の足を引っかけ、倒れそうになったところを、胸ぐらをつかみ投げ倒した。男は、倒れ、倒した男の帽子とサングラスが落ちた。黒い髪のかつらもずれ、金髪が少しみえる。


「殿下」

 私は驚き、言う。倒した男は殿下だった。あの奇妙な2人組の1人は、殿下だったのだ。それじゃもうひとりは、殿下の側近だろう。殿下は武術にも長けている。自分の身を自分でも守れるよう王太子教育で叩き込まれている。


「やぁ、エミリアではないか、奇遇だな」

「はぁ? 」

「殿下、私とエミリア嬢とのデートを邪魔しないでいただきたい。ずーっと付いてきていたではないですか? 」

「いや、付いて行ったのではない。たまたま行く場所が同じだっただけだ」

「私とエミリア嬢のデートが羨ましかったのではないですか? 」

「そんなことはない。エミリアとは、今まで何回もデートはしている」

「えっ? 殿下、私、殿下とデートしたことないですよ」

「はぁ? 覚えてないのか? 孤児院にも一緒に行っただろう。王都近くにできた水路も見に行っただろう。他にもあるだろう、沢山・・・・」

「殿下、それは、デートではありません。視察です」

「何が違うんだ」

「視察は、公務です。デートは、プライべートです」

 サフラン様は、私の横で笑っている。サフラン様、今日は本当よく笑ってるわね。


「そうか。じゃ、今度、デートというのをしてみるか? 」

「なんで私が、殿下と? 」

 つい、殿下に意地悪してしまう。お悩み相談で私にかまかけたお返しよ。

「・・・・・・・・」

「さぁ、エミリア嬢、帰ろう。殿下、失礼します」

「殿下、失礼いたします」

 私たちは、殿下に挨拶をし、馬車に乗った。


「殿下は、エミリア嬢が大好きのようだな。ふっふっふっ。なんで、あんな婚約破棄したんだろうな」

 それは、殿下のプライドが傷ついたからだそうです。


「いつも近くにいたエミリア嬢が離れ、離れた場所からエミリア嬢を見たらありがたみがわかったってところだろうな。でも、私もこのチャンスは逃したくない。エミリア嬢にわが家も縁談の申し込みをしていたんだ。でも、どうも縁談の話が進まないんだ。縁談の話が沢山きているのは知っている。でも、それにしてもおかしい。ほったらかしにしてるように感じる。多分、陛下が縁談を止めるよう指示を出してるんだろうなと思い、自分から直接動くことにしたんだ」

 その通りです。


「どうだろう。私の婚約者になってもらえないだろうか? 」

 私は、驚き、目を大きく開ける。えー! どうしましょう! サフラン様の婚約者になれば、もう殿下の婚約者に返り咲くこともないわ! でも・・・・。婚約破棄の真相に殿下の気持ちも知っている。 私、本当に殿下の婚約者に返り咲きたくないのかしら? わからないわ。ここで、即答する勇気はないわね。


 私が下を向き悩んでいると、わが公爵家に馬車が到着し、


「返事はすぐでなくてもいい。考えておいてくれ」

「はい」

 と私は、答えた。



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