第18話 お悩み内容:よりを戻したいんだ S.S
次の日の朝、学院に着き、馬車を降りると、
「エミリア嬢」
サフラン様から声を掛けられた。
「サフラン様」
「エミリア嬢、今度の学院の休みの日、もし良かったら、一緒に出掛けないか? 」
「えっ」
サフラン様は、少し顔を赤らめて照れくさそうに言う。
これって、デートのお誘い? サフラン様からのお誘いに断る理由はないわ。
「どうだろうか? 」
「ぜひ、よろしくお願いします」
私は、微笑み、言う。サフラン様は、「ありがとう」と言い、一緒に校舎に向かった。
教室に入ると、パキラが私のところに来て言う。
「エミリア、見てたわよ。サフラン様と一緒だったわよね」
「えぇ。今度の休みに一緒に出掛けないか誘われたのよ」
「えー。それって、デートのお誘いじゃない?」
「やっぱりそうかしら」
「そうよ。いいわね。サフラン様は、素敵だし、エミリアと並んでる姿もお似合いで絵になってたわ」
うっとりとした様子でパキラは言う。
そんな私とパキラが話している横を殿下が通り過ぎていった。
ーーー
さぁ、今日は、どんなお悩みが聴けるのか楽しみだわ。
カレンダーの今日の日付の下には、S.Sと書かれていた。S.Pでなく、今日もほっとする。今日は、S.S様が来られるのね。
ドアが開き、ドアにつけてあるベルがチリンチリンと鳴る。S.S様が部屋に入ってくる。男性だ。S.S様は、顔全体を隠す仮面をしている。S.S様の仮面は、見たことないわ。殿下のように、自前で用意したのかしら。
「どうぞ、お座りください」
私は、座るよう促す。私の机の先にある革張りの1人掛けのソファにS.S様が座る。
「S.S様、私は、アクターS♡です。今日は、よろしくお願いします。今日は、どういったお悩みで来られたのですか? 」
「あぁ、よろしく頼む。私は、婚約破棄した女性とよりを戻したいんだ」
S.S様、声が鼻声ね。風邪かしら?なんか、雰囲気が殿下に似ているわ。まさかね。今日の男性は、髪は黒ですものね。まぁ、世の中には、3人は似ている人がいるって言うものね。気のせいよね。
「それでは、S.S様のお悩みは、婚約破棄をした女性とよりを戻したいってことですか? 」
「そうだな」
うふふ、よりを戻したいのね。でも、私は、あなたの人生の悪役令嬢よ。よりを戻すことはさせませんよ。婚約破棄してなさい。
私は、『あなたのお悩み解決しません! 』と心で言う。
「なぜ、よりを戻したいのですか? 」
「彼女を愛してるんだ。しかし、彼女と婚約破棄をしてしまった」
「なぜ、婚約破棄をしてしまったのですか? 」
「夜会の時、数人での歓談中に婚約者の私を立てることもせず、会話の中心になったんだ。そのため、私の立場は、なくなり、悔しくなった。客人は、帰りに「君はパートナーの尻に敷かれてるのか?」って笑われて、私のプライドは傷ついた。その上、学院で彼女の悪いうわさも聞き、それを利用して、婚約破棄を言ってしまった。意地悪しようと思って・・・・。まさか、本当に婚約破棄を受け入れるとは、思わなかったんだ。それも、嬉しそうに・・・・スキップまでして・・・・」
S.S様は、頭を下に下げて言う。寂しかったのだろう。あれ? スキップ? もしかして私? いやいや違うわよね。今日は殿下ではないものね。
「まぁ、婚約者なのに、S.S様を立てることをされなかったのですね」
「そうだ」
「その上、悪いうわさのある方だったのですね」
「そうだ」
「まぁ、婚約者を立てることもせず、悪いうわさがあるなんて、悪女なんですね。意地悪して当然ですわ」
婚約者のことを悪女と言ったわよ。さぁ、よりを戻すことを考え直しなさい。
「それが・・・・。私の間違いだったんだ」
「間違いとは? 」
「私を立てることをしてないと思っていたんだが、それは、私をフォローしてくれてたようなんだ。それに、悪いうわさは、嘘だったんだ」
「フォローですか? 」
「あぁ、私が執務に忙しく、歓談相手の国の最近の状況について調べる時間がなく、会話の内容がよくわからなかったんだ。多分、それを相手に悟られないように自分が中心になって話してたんだと思うんだ。私に恥をかかせないように・・・・、相手を不愉快にさせないように・・・・」
あれ? この内容心当たりがあるんだけど・・・・。殿下が婚約破棄を言う前に、ちょうど隣国の王子が来て、夜会で一緒に殿下と隣国の王子と歓談をしたわ。殿下、隣国の王子が来たのに全く隣国の現状のこと知らなそうだったから、最近の隣国のいいところを褒めて会話を弾ませたのよね。そうそう、隣国の王子が来る数日前にこの国の北にある領地に大雨が降って、作物に被害が出て、その対応で殿下忙しそうだったのよね。
やっぱり、S.S様は、殿下ね。今日は、本名のセネシオ・スターチスのイニシャルにしたのね。S.Sであってるわ。まったく、もう、何やってるのよ。・・・・ってことは何? 私とよりを戻したいってこと・・・・。
それで何? 隣国の王子は、帰りに殿下に「パートナーの尻に敷かれてるのか」って言ったのね。これは殿下のプライドを傷付ける言葉ね。あの隣国の王子なら言いそうな言葉ね。なんせ、自国自慢がすごく、偉そうだったから。もう少し、殿下に話を振ってあげても良かったのかしら・・・・。
傷ついてたんですね、殿下。ごめんなさい。私が出しゃばり過ぎたわね。心の中で謝る。
今回の婚約破棄は、私にも非があるってことね。
この殿下のプライドが傷ついたことが婚約破棄の原因だったのね。それにベロニカの発言を鵜呑みにし、婚約破棄をしたってことね。
でも、私は、悪役令嬢よ。よりを戻すわけにはいきませんわ。
「そうですか。でも、それはフォローになってませんよね。S.S様は、プライドを傷つけられたのですよね」
さぁ、どうだ?
「そうだな。でも、今はプライドよりもエミリアを失うことの方が辛い」
「はぁ? 」
「エミリア以外、私のパートナーは務まらないんだ」
「へぇ? 何でですか? 他にもご令嬢は沢山いますよ? 」
「エミリアには、王太子妃になる資質がある。私が、6歳の時のガーデンパーティでエミリアを見初めたのと厳しい王太子妃教育をこなせたことだ」
「へぇ? 」
殿下が私を見初めたの? それで、私が婚約者になったてこと?
「エミリア、悪かった。もとに戻ってくれ」
殿下が私に向かって言う。えっ。これって、私だってバレている? なんてことなの! バレてるのよね。私がエミリアだってことで話してるわよね。
「殿下、いつから私だって気付いてたんですか? 」
「やっぱりエミリアか」
「えっ」
バレてなかった・・・・。あぁ、だまされてしまったわ・・・・。はぁ、でも、バレたらしょうがないわ。
「エミリアではないかと思い、かまかけてみた。エミリアでないかと思ったのは、前回のお悩み相談をした後だ。その鼻声、聞いたことがある声だなとは思っていた。10年、エミリアの婚約者をしていたんだ。エミリアが風邪ひいた時は、私はお見舞いに行ってただろう」
えぇ、来てくれてましたね。「また風邪ひいたのか、はっはっはっ。ここまで見舞いに来るのは遠いからもう風邪ひかないでくれ」と文句を言って花を置いて帰って行ってたわね。私がいた領地は、王都から半日かかる場所だったのだ。
「それと、皆がアクターS♡ 様にお悩み相談するとスッキリすると聞いていたが、私がお悩み相談すると解決せず、もやもやした状態になる。途中で終わってしまう。おかしいだろう? 」
えぇ、そうですね。殿下のお悩みは、放棄してましたからね。
殿下は、仮面を取り、かつらもとり、鼻をつまむクリップもはずした。殿下も鼻をクリップでつまんでたのね。どうりで鼻声だと思ったわ。しょうがない。私も黒のベール、仮面、鼻をつまむクリップをはずした。
「私が、アクターS♡ だってことは、内緒にしててくださいね」
「あぁ、もちろんだ。多分、私しか気付いていないだろう」
「エミリア、婚約破棄の件すまなかった。もう一度、婚約者に戻ってくれないだろうか? 」
殿下が私を見て言う。殿下が私に謝罪するなんて始めてだ。
どうしよう・・・・。心はドキドキする。けれど、即答できない。下を向いて悩んでると、
「今すぐ答えを出さなくていい。考えておいてくれ」
「はい」
殿下は、お悩み相談室を出て行った。
殿下の婚約破棄の真相がわかった。殿下がよりを戻したいこともわかった。
私は、どうしたらいいのだろう。私は、どうしたいんだろう。よくわからないわ。
う~ん、私がお悩み相談を受けたいぐらいだわ!
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