第17話 お悩み内容:好きな人ができたんです(男性編)  K.F

さぁ、今日は、どんなお悩みが聴けるのか楽しみだわ。



 カレンダーの今日の日付の下には、K.Fと書かれていた。S.Pでなく、今日もほっとする。今日は、K.F様が来られるのね。


 ドアが開き、ドアにつけてあるベルがチリンチリンと鳴る。K.F様が部屋に入ってくる。男性だ。K.F様は、目の周りと鼻を隠す仮面をしている。


「どうぞ、お座りください」

 私は、座るよう促す。私の机の先にある革張りの1人掛けのソファにK.F様が座る。



「K.F様、私は、アクターS♡ です。今日は、よろしくお願いします。今日は、どういったお悩みで来られたのですか? 」

「はい、よろしくお願いします。僕は、初めて好きな人ができたんです。どうしたらいいでしょうか? 」

「K.F様のお悩みは、好きな人ができたということですか? 」

「はい」

 うふふ、好きな人ができたのね。でも、私は、あなたの人生の悪役令嬢よ。好きな人ができたなんてことさせないわ。好きになるなんておやめなさい。


 私は、『あなたのお悩み解決しません! 』と心で言う。



「お好きな方は、どんな方なんですか?」

「はい、とても可愛いいんです。可愛いだけでなく、立ち振る舞いも綺麗だし、上品でスタイルもいい。それに髪も綺麗で、瞳も綺麗な女性なんです」


 まぁ、べた惚れね。声が明るいわ、あぁ、嬉しそうね。今日のお悩みは、好きな人を好きにさせないようにしないといけないのよね。以前、モナルダ様のお悩みの時に経験済みだわ。同じようにやればいいわね。


「まぁ、可愛いなんて、おもてになるんじゃないんですか? 」

「はい。すごくもてます」

「まぁ、すごくもてるんですか。それじゃ、浮気をする確率が高くないですか? 」

 私は、身を乗り出して聴く。


「彼女は、そんな人ではないです。婚約破棄されても他に恋人を作ってる様子はないです。あぁ、でも、夜会の時に、彼女のお兄さんの友人にエスコートされていたな・・・・」

 えっ、それって、私? まさかね。私と同じ境遇の人は他にいてもおかしくわないものね。それに、私、もてないもの。


「今、可愛くっても、歳をとったら姿見は、変わりますよ。大丈夫ですか? 」

「彼女なら問題ないです。それに、彼女は、優しいんです」


「どんなところがですか? 」

「はい。僕が、ハンカチを落としたんです。そしたら、わざわざ届けに来てくれたんです」

「まぁ、それは、八方美人ですね。大丈夫ですか? きっと、他の方にもしてますよ」

「ええ、そうだと思います。彼女は、以前、殿下の婚約者で、王太子妃教育を受けてた方です。ですから、やはり皆に優しいんです」


 えっ、私のことだわ。どうしましょう。K.F様は、私のことを慕ってくださっているの? このまま、好きにさせなくていいのかしら・・・・。私って、もててるの? でも、殿下といい、サフラン様といい、そしてK.F様まで私を慕ってくれて・・・・、もしかして、今、私、もて期?


 私を好きにさせないなんて、ちょっともったいないわよね。でも、だめよ。私は、悪役令嬢よ。このポリシーは変えられないわ。

 あぁ・・・・。さようなら、私を慕ってくださっている方・・・・。私は、あなたに自ら嫌われます・・・・。


「まぁ、王太子妃教育を受けてた方なんですね。そして、婚約破棄されたんですか? 婚約破棄されたなんて何か問題がある方なんではないですか? 」

 あぁ・・・・、自分で聴いてて、悲しいわ。

「そうですね。なんでも従妹をいじめてたとか・・・・」

「まぁ、いじめてたんて、酷いですわね。悪女ですね」

 あぁ・・・・、自分で言ってて、悲しいわ。


「悪女か・・・・」

 K.F様が、とまどったように言う。いい感じだわ。もう少しね。

「ほら、悪女は、見た目は綺麗だけど、中身は意地悪だって、よくおとぎ話で出てきますよね」

 そう、今の私のように・・・・。私、今、悪役令嬢で、皆に意地悪してますから・・・・。見た目は、そんなに綺麗ではないけどね。


「確かにそうですね・・・・。私が、先日、読んだ本は、確か主人公をいじめる悪女は、綺麗で、八方美人だったけど、腹黒い女だったな・・・・」

「そうでしょう」

 悲しい・・・・。でも、ますます、いい感じだわ。私は、続ける。



「つまり、K.F様は、八方美人の腹黒女で、浮気する可能性が高いお方がお好きなんですね」



「「・・・・・・・・・」」


 沈黙が続く。

 そして、

「なんか、彼女が八方美人の腹黒女で、浮気する可能性が高い女に感じてきました。そもそも、殿下が婚約破棄するぐらいの女だ。きっと相当、腹黒い女なのかもしれないな。なんか、彼女が嫌いになってきました。僕、なんで、あんなに彼女が、好きだったんだろう。なんか、もう、彼女に全然、魅力を感じなくなってきました。もう好きではありません。なんか、すっきりしました。ありがとうございます」


 やったわ! 好きな人ができたことを阻止したわ。



「それは、良かったわ」

 私は、苦笑で言う。でも、悲しい・・・・。


 うふふ、K.F様は、もう好きではありませんと言ったわよね。

 つまり、好きな人ができたなんてことさせなかったわよね。

 K.F様のお悩み、解決できなかったわ。

 私、K.F様のでしたわよ。


 うふふ、これで、私は、あなたの人生の悪役令嬢になれたはずだわ。


 おほほほ・・・・・・。

 心の中で、悪役令嬢らしく高らかに笑う。


 でも、完璧な悪役令嬢にはなりきれず、実は、今日も心の奥底で、ごめんなさいね。と謝っている。


 でも、なんか悲しいわ。私、八方美人でも腹黒女でもないわ。まして、浮気なんてしないわよ。あぁ、でも悪役令嬢やってるものね。腹黒ね・・・・。


 K.F様は、私のことを最初女性って言ってたのに最後には女って呼んでたわね。相当、私、嫌われたわよね。

 悲しい・・・・。


 でも、おかしいわね。K.F様は、私がもてると言っていたわ。そんな感じ、全然しないわ。殿下とサフラン様しかお気持ち聞いたことないわよ。




−−−





 ファセリア公爵家にて


 私は、夕飯を食べ終わると、領地から帰って来た父に呼ばれた。

「エミリア、イベリスから聞いた。私に聞きたいことがあるのだろう」

「はい。殿下の婚約者の事です。ダリア様が婚約者になるんですよね? 私は、もう婚約者になることはないですよね」

 念のため、自分が婚約者に返り咲くことはないことを確認する。


「まず、ダリア嬢についてだが、まだ婚約者とは決まっていない。殿下のパートナーを空席にすることはできない。それは、エミリアもわかっているだろう。他国との懇親の場でこの国の将来の安泰を見せるために殿下がパートナーを連れていることは必要なことだ。だから、ダリア嬢が現在そのパートナーをやっているだけだ。殿下は、ダリア嬢との婚約を渋っているし、ダリア嬢は、最初は、喜んでいたが、最近になって、王太子妃になる自信がないとかで渋っているそうだ。そして、エミリアが婚約者になることがあるかということだが、それは、エミリア自身による。エミリアが婚約者に戻りたければ戻れるし、婚約破棄したままにしたければ婚約破棄したままでいられる」


「これを見てくれ。エミリアが婚約破棄された後にきた縁談だ」

 父の机の上には、椅子に座っている父の頭の上まで、封書の山が積み上げられていた。やはり、私、今、もて期だわ。


「こんなに来てるんですか? 殿下に婚約破棄されたのに」

「あぁ、あまり婚約破棄は関係ないんだろう。洗練された女性だ。上品だ。可愛い。知的だ。落ち着き冷静だ。立ち振る舞いが綺麗だ。洗練されたスキップだったとか・・・・。お褒めの言葉が書かれていたぞ。

 これも厳しい王太子妃教育のおかげだろうな」


 本当にこんなに縁談の話がきてたの。よりどりみどりじゃない。知らなかったわ。それにしても洗練されたスキップって何?


「私、知らなかったわ」

「すまない。陛下から縁談を進めるのを止められててな」

「えっ」

「殿下が行った婚約破棄は、許されるものではない。相当、陛下に怒られたそうだ。殿下は、相当、反省しているようだが、なんでも、エミリアが婚約破棄を嬉しそうに受け入れたことに殿下はショックを受けたそうだぞ。はっはっはっ、婚約破棄を許すかどうかはエミリアしだいだ。わが公爵家は、エミリアの選択を優先する」


 なに? まだ婚約破棄はされてないの? 私、また婚約者に返り咲くことがあるってこと? でも、それは、私が決めていいのね。


「今すぐ答えを出さなくていい。殿下もエミリアも若い。今の感情に流されしすぎず、少し2人は離れて、お互いのことを考えてみなさい」


「はい」

 と答え父の部屋を出た。


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