第16話 悪役令嬢の混乱
ファセリア公爵家の庭園にあるテラスにて、
私は、今、兄と兄の婚約者ソニア様と一緒にお茶を飲んでいる。たまたま、庭園を散歩していたら、テラスで、お茶をしていた兄とソニア様に声を掛けられてしまったのだ。私は、ソニア様の相談を聴いてから、兄に申し訳なく、兄を避けるようになってしまっていた。
「エミリア、最近、私を避けてないか? 」
あっ、バレていたのね。さすが、お兄さまだわ。
「どうしたの? エミリア。イベリスが寂しがってたわよ」
「いえ。なんでもないわ」
私は、お茶を飲む。イベリスは、兄の名だ。
「何か相談事でもあるのなら、言ってちょうだいね。私で良ければ、いつでも相談にのるわよ」
ソニア様は、優しい。
「ソニア、ありがとう。エミリア、いずれ、ソニアは、義姉になるんだ。困ったことがあったらいつでも相談したらいい」
兄とソニア様は、私に微笑む。本当、2人は、仲睦まじく、優しいわ。
「相談で思い出したけど、学院にお悩み相談室ができたわよね。あそこ、良かったわよ。何かあったら、あそこに相談に行くのもいいわよ」
ギクッ。私は、ソニア様に苦笑する。
「ソニア、そう言えば、お悩み相談に行ってきたんだろう。どうだったんだ? 」
えっ、お兄さま、ソニア様のお悩み知っていたの?
「良かったわよ。やはり、ジュリアンには、好きな人のことを忘れないでいさせようと思ったわ。それに、気付かせてくれたのよ。アクターS♡ 様が・・・・」
えっ、ジュリアン・・・・。ジュリアンは、ソニア様が飼っている犬だ。ソニア様は、その犬、ジュリアンを溺愛している。ジュリアンは、今、妊娠していて、近いうちに子犬が産まれる。産まれた子犬を私は、譲ってもらう予定でいる。とても楽しみにしている。なんで、ジュリアンがここで、話に出てくるの?
「ジュリアンがどうしたのですか? 」
私は、気になり、聞く。
「あのね、ジュリアンがね。叔父様が連れてきた犬ロミーを好きになってしまったみたいでね。ロミーが帰った後、凄く寂しいそうにしているのよ。ロミーと走り回ったり、遊んだり、じゃれた庭を寂しそうに時々見ているのよ。それに、ジュリアンとロミーがじゃれているところを叔父様が絵にしてくれて、それを部屋に飾っているんだけど、その絵の前で寂しそうに見ているの。ジュリアンが可哀そうで・・・・。ジュリアンには、ダリーという旦那がいるでしょう。きっと、ジュリアンは、ロミーのことを忘れなきゃいけないと思ってると思ってね。お悩み相談室に相談に行ったのよ。
ソニア様は、目から涙を流しながら話した。兄は、そんなソニア様の頭を撫でながら、
「ソニアは優しいな」
と言っている。
「へぇ」
私は、変な声が出る。えっ、待って。ソニア様が相談した内容って、ジュリアンのことなの。ジュリアンの気持ちになって相談してたの。つまり、感情移入!じゃ、相談で言ってた、決まった相手っていうのは、ジュリアンの旦那の犬、ダリーのことよね。それで、忘れたい人というのは、叔父の犬、ロミーのことなのね。なんてことなの!
・・・・そうだったわ。ソニア様は、動物やモノなどに感情移入してしまうことがあるのよ。小さい頃、動物の形をしたクッキーをわが家の料理人がおやつに作ってくれた時だ。私は、犬の形をした可愛い犬のクッキーを食べようとした。このクッキーは、形だけでなく、耳や目や鼻や口もちゃんとお菓子でついていて、本当の犬のように作られていた。私は、これを食べようと口に入れ、噛むと「あっ、痛い」「痛い、痛い・・・・」とソニア様が、犬の形をしたクッキーの気持ちになって言うのだ。私は、食べるに、食べれなかった。ソニア様は、動物の形をしたお菓子は食べない。兄は、側で、ケラケラ笑っていた。そんなソニア様の性格を兄は受け入れ、大切にしている。それから、ソニア様がいる時は、わが家では、動物の形をしたお菓子は出されなくなったのだ。
あぁー、ソニア様の性格忘れてたわ。ソニア様、私は、悩んだのよ! お兄さまに何度も謝ったのよ! ややっこしいことしないで!
・・・・でも、良かったわ。お兄さま以外に好きな人がいなくって・・・・。良かったわね、お兄さま。
私は、微笑ましい兄とソニア様の様子を見ながら、お茶を飲み、2人に微笑んだ。
ーーー
次の日、私は、朝早く、学院に向かう。誰にも見られないよう周りを警戒しながら、
私は、学院内にある『お悩み相談室』のポスター、全てに、吹き出しで『あなたの』という文字を付け加えた。
ポスターは、
お悩みを聴いてあげるわ
アクターS♡
(理事長推薦)
とした。
もう、ややっこしい、動物や他の方などの気持ちになったお悩み相談はお断りよ!
自分の相談をして!
私、混乱してしまうわ!
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