第15話 お悩み内容:好きになってしまった人を忘れたいんです  S.N

殿下が、私を愛してるって気持ちを聴いてしまったせいか、心がドキドキしたまま帰宅した。ダリア様が、殿下の婚約者になるのよね。なんで、殿下は、あんなこと言ってるのよ。私の父と母、兄は、私を気遣ってか、殿下の婚約者についての話は一切しない。そのため、殿下の婚約者について全くわからない。


 玄関ホールに入ると、お兄さまがいた。

「エミリア、お帰り」

「あっ、お兄さま。ただいま帰りました」

 あっ、お兄さまに聞いてみよう。

「お兄さま、殿下の婚約者は、ダリア様に決まったんでしょうか? 夜会でエスコートされていたので・・・・」

「えっ、すまない。私もよくわからない。ただ、殿下がダリア嬢との婚約を渋っているというのは聞いた。だから、まだ婚約者には決まっていないだろう。夜会でのエスコートも渋々としたと聞いている。気になるなら、来週、父上が領地から帰った時に詳しく聞くといい」

 と兄は笑顔で言った。父は、今、領地に行っている。そうね、お父さまが領地から帰ってきたら、現状を確認しましょう。



 ---



 次の日、

 さぁ、今日は、どんなお悩みが聴けるのか楽しみだわ。


 放課後、私は、いつも通り、図書室に行き、そこから、理事長室に入る。すると、理事長室に居たロベリアお婆さんから呼び止められた。


「エミリアさん、お悩み相談室は、順調のようね。生徒たちから、好評のようよ。私の見立てはあってたわね」

「ありがとうございます」

 好評? やはり、おかしいわね。私は、悪役令嬢になって意地悪しているのに・・・・。


 ロベリアお婆さんは、

「生徒から預かったわ。さすが、理事長が推薦するだけのお方ですね。感謝していますって言われたわよ、うふふ」

 と微笑み言い、私に手紙を差し出した。私は、手紙を受け取り、お悩み相談室へ入った。




 お悩み相談室で手紙を開ける。



 アクータS♡ 様


 先日は、お悩みを聴いていただきありがとうございました。

 私は、ついに友達が出来ました。

 友達は、私にはもったいないくらいの知的で洗練された女性です。

 私が、以前から憧れていた女性です。

 彼女と学院で過ごす日々がとても楽しいです。

 ですから、学院は、やめません。彼女と一緒に卒業したいです。

 私に自信をつけてくださり、本当にありがとうございました。


  パキラ・ラミウムより




 まぁ、パキラからだわ。友達って私のことよね。嬉しいわ。私が、知的で洗練された女性? パキラ、褒め過ぎよ! うふふ、私もパキラと過ごす日々は楽しいわ。一緒に卒業しましょうね!


 パキラのお悩みも解決しなかったけど、やはりお礼をされているわね。

 あぁ、やはり、悪役令嬢、失格ね。でも、今回は、パキラという友達ができたから、良しとしましょう。





 私の頬は自然と緩む。そして、手紙の封を閉じ、カレンダーの今日の日付の下を見た。S.Nと書かれていた。今日は、S.N様が来られるのね。よかったわ。S.Pでなくて。どうしても警戒してしまう。多分、また殿下はお悩み相談に来そうな気がする。勉強して力をつけてくれ! と言ってたもの・・・・。



 ドアが開き、ドアにつけてあるベルがチリンチリンと鳴る。S.N様が部屋に入ってくる。S.N様は、目の周りと鼻を隠す仮面をしている。


「どうぞ、お座りください」

 私は、座るよう促す。私の机の先にある革張りの1人掛けのソファにS.N様が座る。



「S.N様、私は、アクターS♡ です。今日は、よろしくお願いします。今日は、どういったお悩みで来られたのですか? 」

「あの、実は、もう、決まった相手がいるのに、他の人を好きになってしまったんです。ですから、その人のことを忘れたいんです」

「えっ」


 この声に、赤い髪の毛、また、身近な人だわ。それも兄の婚約者、ソニア・ネモフィラ侯爵令嬢よ。イニシャルもS.Nであってるわ。どうしましょう。聴いていいのかしら。決まった相手って、お兄さまのことよね。他の人を好きになってしまったってどういうことよ! お兄さまが可哀そうよ! 2人共、仲良さそうに見えるのに・・・・。

 私は、動揺する。私は、動揺していることが、バレないように大きく深呼吸をする。


「S.N様のお悩みは、好きになってしまった人を忘れたいことなのですか? 」

「はい」


 えっ本当に? どうしましょう。お兄さまは、知っているのかしら。

 好きな人を忘れたいのよね。これは、お兄さまをきちんと受け入れるってことで、いいことだわ。

 でも、今、私は、あなたの人生の悪役令嬢よ。このポリシーは、変えられないわ。

 だから、忘れるなんてさせないわ。忘れないでいなさい! そして、お兄さま、ごめんなさい!


 私は、『あなたのお悩み解決しません! 』と心で言う。




「なぜ、忘れたいんですか? 」

「だって、決まった相手がいるんです。その相手に失礼でしょう? 」


 さすがだわ、ソニア様。お兄さまのことをきちんと思ってくれているのね。私は、ほっとする。でも、私は、忘れさせないようにしなきゃいけないのよね。辛いわ。ごめんなさい、お兄さま。


「すばらしいですわ。決まった相手の方を大事に思われてるんですね」

「えぇ、もちろんだわ」

 良かったわね、お兄さま。


「好きになった方は、どんな方だったのですか? 」

「えぇ、とても笑顔が素敵で、活発で、私を引っ張っててくれるような頼りになる人でした」

「まぁ、笑顔が素敵で、活発で、頼りになる方だったんですね」

「えぇ、一緒にお庭を走り回ったり、遊んだり、じゃれたりしたわ。一緒に隣で食事をして、沢山話したわ」


 あっ、これは、子供の頃の話ね。相談しに来るってことは、最近、再会でもしたのかしら。そして、ソニア様を見ると、ソニア様の仮面の下から涙が流れているのが見えた。どうしましょう。私は、慌てる。


「一緒に遊んだり、食事をしたり、沢山、お話をされたんですね。素敵な思い出ですね」

 ソニア様の涙が滝のように出てきてる。鼻もすすっている。そんなに好きだったの・・・・。ソニア様は、非常に感受性が豊かなのだ。それは、私もお兄さまの婚約者でよく知っている。喜怒哀楽がはっきりしている人なのだ。


「やっぱり、忘れることができません」

 おや? 今、忘れることができないと言ったわよね。

「いいのではないですか? 無理に忘れなくても・・・・。素敵な思い出として忘れないでいたらどうでしょう? 」

 お兄さま、ごめんなさい!

「そうよね。そうするわ。ありがとうございます。大事な思い出として、忘れないでいるわ」


 やったわ! 忘れることを阻止したわ。


 あれ? でも、私、何もしてないわよね。ただ、ソニア様が言った言葉を繰り返しただけよ。でも、まぁ、いいわよね。


「えぇ、そうしてください」

 私は、笑顔で言う。そして、お兄さま、ごめんなさい。と心の中で謝る。



 うふふ、S.N様(ソニア様)は、忘れないと言ったわよね。

 S.N様(ソニア様)のお悩み、解決できなかったわ。

 私、S.N様(ソニア様)のでしたわよ。


 うふふ、これで、私は、あなたの人生の悪役令嬢になれたはずだわ。


 おほほほ・・・・・・。

 心の中で、悪役令嬢らしく高らかに笑う。



 でも、完璧な悪役令嬢にはなりきれず、実は、心の奥底で、ごめんなさいね。と謝っている。


 そして、お兄さまごめんなさい!

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