第14話 お悩み内容:婚約破棄を後悔している S.P
さぁ、今日は、どんなお悩みが聴けるのか楽しみだわ。
カレンダーの今日の日付の下には、S.Pと書かれていた。今日は、S.P様が来られるのね。
ドアが開き、ドアにつけてあるベルがチリンチリンと鳴る。S.P様が部屋に入ってくる。S.P様は、顔全体を隠す仮面をしている。あぁ、あの仮面、また殿下だわ。私は、小さくため息をつく。もう、ベロニカは、殿下のところへ行かなくなったのに何しに来たのよ。
「どうぞ、お座りください」
私は、座るよう促す。私の机の先にある革張りの1人掛けのソファにS.P様が座る。
「S.P様、私は、アクターS♡ です。今日は、よろしくお願いします。今日は、どういったお悩みで来られたのですか? 」
「あぁ、よろしく。まずは、礼を言う。前回、相談に来た2日後あたりから、今まで私に付きまとっていた女が、ぱったり来なくなった。感謝している」
「そうですか。それは、良かったです」
ベロニカが、婚約者になりたくなくなったからね。それに、殿下、ベロニカは、どうも殿下のことを好いては、いなかったようよ。ただ、王太子妃になりたかっただけよ。と心の中で言う。
殿下のお悩みも解決しなかったというか放棄したのに、やはり感謝されてしまったわ。私、やはり、悪役令嬢、失格ね。
「それで、今回の相談だが、私は、婚約破棄をしてしまったことを後悔しているんだ。どうしたらいいのだろうか? 」
えっ、殿下が、婚約破棄を後悔? なんで? もう新しい婚約者のダリア様がいるでしょう。
「はい? あぁ、それでは、S.P様のお悩みは、婚約破棄を後悔しているってことですか? 」
「そうだ」
まぁ、本当に殿下が婚約破棄を後悔してるの! 傲慢な殿下が反省できるようになったのは、少し嬉しいわ。でも、私は、すでにあなたの人生の悪役令嬢よ。後悔なんてさせないわ。婚約破棄バンザイよ。
私は、『あなたのお悩み解決しません! 』と心で言う。
「なぜ、婚約破棄を後悔しているんですか? 」
「婚約破棄した後、気付いたんだ。やはり、私は、彼女を愛してるようなんだ」
えー! 殿下が私を愛してる? そんなはずないわ。婚約破棄した後、一度も声を掛けてこないし、そんな素振り見せてこないわよ。でも、よく目は合うし、視線は感じていたわ。
どうしましょう! でも、これは、私を愛してはダメね。・・・・でも、私のことだけに、ちょっと興味があるわ。
「彼女のどんなところをあ、あ・・・愛してるんですか? 」
自分で聴いてて、恥ずかしいわ・・・・。落ち着いて、私。
「落ち着いていて、冷静なところだ」
「まぁ、暗くて、冷たい方なんですね。それから・・・・」
私を愛さなくなるように、殿下のポジティブな言葉を見方を変えて、ネガティブな言葉に言い換えてみる。
「しっかりしている」
「まぁ、出しゃばりな方なんですね。それから、それから・・・・」
「そんなところだ」
「まぁ、S.P様は、暗くて、冷たくて、出しゃばりな方を愛してるんですね」
あれ? これ、殿下が婚約破棄の時、私に言った言葉ではないかしら。
「あぁ、そうともとれるな」
仮面で顔は、見えないけれど、声が笑っている。きっと笑顔なんだろう。
「それだけではないな。謙虚だ」
「まぁ、自分に自信のない方なんですね」
やはり、私を愛さないようにポジティブな言葉を見方を変えて、ネガティブな言葉に言い換えて見る。
「あぁ、そうともとれるな。彼女は、自分に非がなくても、反発するわけでもなく、自分が配慮がなかったと受け止めてしまう謙虚な女性だ」
えっ、殿下、それは、褒め過ぎですわ。私は、顔が赤くなる。まぁ、赤くなってもベールで見えないんですけどね。ベロニカが、私に言ったいじめのことを言っているのかしら。私は、いじめの身に覚えがなくても、配慮がなかったと謝ったから・・・・。それを殿下は、謙虚だと思ったのね。ありがとう。でも、あの時は、婚約破棄したかったから、いじめにしておく方が都合が良かったのよ。
「あぁ、それと、優しさもあるな。そして、可愛い。ストロベリーブロンドの髪に、エメラルドの綺麗な瞳をもつ女性なんだ」
あぁ、殿下、私、優しくないです。悪役令嬢になり、今、皆に意地悪してますから・・・・。それから、私が、可愛いですか・・・・。家族からはよく言われるわ。でも、殿下からは、今まで言われたことないわよ! 髪は、よく褒められる。艶のある綺麗なストロベリーブロンドだって。でも、殿下からは、今まで言われたことないわよ! エメラルドのような綺麗な瞳だとよく言われるわ。でも、殿下からは、今まで言われたことないわよ!
10年間、婚約者してたけど、私、殿下から褒められたことないわよ。それもいつもの偉そうな声でなく、優しそうな声で言って・・・・。さらに、顔が赤くなる。
どうしましょう。なんて言えばいいのかしら。私が、戸惑っていると、
「どうしたんだ? 」
と殿下が聞いてきた。
何か言わなければ・・・・。
あぁ、何か、殿下が私を褒めるなんて・・・・。今までなかったわ。
殿下が殿下らしくない。やりにくいわ。
えい! 面倒だわ。終わらせてしまいましょう。
「大変申し訳ございません。もう、お時間なので、今日は、ここで終了させていただきます」
「はぁ? またか? 何も解決してないぞ」
「私の力不足です。大変申し訳ございません」
椅子から立ち上がり、頭を下げる。
「しっかり、勉強して、力をつけてくれ! 」
「はい」
殿下は、しぶしぶ立ち上がり、ぶつぶつ言いながら帰って行った。
心がドキドキしてるわ。
でも、S.P様(殿下)は、何も解決してないと言ったわよね。
S.P様(殿下)のお悩み、解決できなかったわ。また、放棄したわ。
私、S.P様(殿下)の
すでに、私は、あなたの人生の悪役令嬢だもの。
おほほほ・・・・・・。
心の中で、悪役令嬢らしく高らかに笑っているつもり・・・・。
今日は、完璧な悪役令嬢になれたはずよね・・・・。
でも、なぜだろう。まだ、心がドキドキしてるわ。
殿下が、私を愛してる・・・・。って気持ちを聴いてしまったからかしら。
私のこと、あんな風に思っていてくれてたなんて知らなかったわ。
なぜだろう。すごい罪悪感がわいてるわ。
殿下の気持ちを聴いてしまったことと、またお悩み相談を放棄してしまったことからかしら。
黒のベール、仮面、鼻をつまむクリップをはずし、天井を見ながら大きなため息をつく。
私、すごく、動揺しているわ。
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