第13話 悪役令嬢と夜会

今日は、学院主催の夜会だ。


 私は、イブニングドレスを着ている。私の瞳の色、エメラルド色のドレスだ。


 私は、サフラン様にエスコートをしてもらい、学院内にある大きなホールに入場する。一瞬、ザワッとし、周りからの視線を感じた。きっと、殿下に婚約破棄された私が、令嬢に人気のあるサフラン様と一緒にいるからだろう。その後、殿下が、噂のダリア・ルナリア公爵令嬢をエスコートし、入場した。また周囲がざわつく。殿下が、エスコートしてるってことは、婚約者にダリア・ルナリア公爵令嬢が決まったのだろう。

 私は、ほっとしたが、周りが、私を哀れみの目で見ているように感じる。そんな目で見ないでよ。私は、望んでた婚約破棄なのよ! 婚約破棄された後、スキップしてる姿見てなかったの! と心の中で抗議の声をあげる。


 隣にいたサフラン様が気付いたようで、私を気遣いダンスに誘う。

「エミリア嬢、ダンスを踊ろう」

 と笑顔で言い、手を出してきた。私は手を添え、サフラン様とダンスを踊る。


 殿下以外の男性と踊るのは初めてだった。サフラン様は、ダンスが上手で、踊りやすい。さすがだわ。

 踊っていると、どこからか視線を感じる。踊りながらきょろきょろする。殿下だわ。殿下は、ダリア様と一緒に踊っている。私と目が合う。私は、すぐに視線を逸らす。

「殿下は、エミリア嬢と婚約破棄したことを後悔しているのではないかな? 」

 サフラン様も殿下の視線を感じたようだ。微笑みながら言う。

「そんなことは、ないと思います」

「いいや。エミリア嬢は、可愛い。とても魅力的だよ。立ち振る舞いも綺麗で、淑女の鏡だよ」

きっと、それは、王太子妃教育の特訓のおかげだわ。

「ありがとうございます。でもそんなことはないと思います。婚約破棄されましたから」

 私は、踊りながら、苦笑する。

「ごめんね、エミリア嬢。私は、エミリア嬢が婚約破棄されて、とても嬉しかったんだよ」

「えっ」

「エミリア嬢と公爵家で初めて会った時、なんて可愛い子なんだろうと思ったんだよ。でも、その時は、既に殿下の婚約者だったんだ。聞いた時は、ショックだったな。でも、今は、婚約者はいないだろう? 私にもチャンスはあるだろうか? 」

「えっ」


 これって・・・・。サフラン様は、もしかして私を慕ってくださってる? いいえ、違うわよね。婚約破棄された私を哀れんで、元気づけようと思い、言ってくださってるのよね。でも、サフラン様、私は、望んでた婚約破棄なのよ! と心の中で言う。


 タイミングよく? ダンスの音楽が終わり、私たちは、お互い礼をして、皆が談笑している場に戻った。殿下もダリア様と踊り終わったようだ。

「気になる? 殿下は、ダリア嬢との婚約を渋ってるみたいだよ」

 サフラン様が、私の耳元で小さな声で聞く。私が、殿下とダリア様を見たからだろう。見たというか、目の前を通り過ぎたから、嫌でも目に入る。今日もダリア様、派手なドレスね。真っ赤だわ。

「いいえ、全く」

 私は、サフラン様の顔を見て答える。全く、気になりませんわ!

「良かった。じゃ、さっきの件、考えておいてね」

「さっきの件っていうのは? 」

「私が、エミリア嬢の婚約者になるチャンスがあるかってことだよ」

「えっ」

 本気なの? 私の顔は、真っ赤になる。両手で、顔の頬を触る。サフラン様も少し顔は赤いが、笑顔だ。私は、完全に動揺している。こんなこと言われたことないんですもの。どうしたらいいのかしら・・・・。


 すると、ちょうどタイミングよくパキラが私のところに来た。サフラン様のところにも、友人らしき人が来た。私は、サフラン様にエスコートのお礼をし、パキラと一緒にその場を去った。サフラン様にどう対応すればいいか困っていたので、パキラのタイミングの良さに感謝した。


「今回の夜会は、エミリアがいるから楽しいわ。前回は、ずーっとひとりだったから、食べて飲んでるだけだったわ」

「うふふ、そうだったのね」

「サフラン様とのダンス、素敵だったわよ。さすがね。一枚の絵のようだったわ」

「そう? ありがとう」

 私は、パキラと談笑していた。


 すると、先ほどまで殿下と一緒に居たダリア様が私のところへ来た。私が殿下と婚約者だった時の3人のとりまき達も一緒だ。今度は、ダリア様と一緒に居るようだ。


「エミリア様、私が、あなたの後を引き継ぐことになりそうだわ」

 これは、殿下の婚約者になる予定ということだろうか。

「そうなんですね。では、後は、よろしくお願い致します」

 なんでだろう。あんなに婚約破棄を望み、喜んでたのに、なんか寂しい気持ちになるわ。そうよね。辛いながらも2年間も王太子妃教育をうけてたんだものね。

「えぇ、任せてちょうだい」

 とダリア様は、勝ち誇ったかのように微笑む。


「エミリア、あっちに美味そうなケーキがあったわ。行きましょう」

 とパキラが私の手を引っ張る。すると、とりまき達が、

「ダリア様の方が、エミリア様より王太子妃にむいてらっしゃるわ。とても、美しくて華やかさがあるわ」

「「えぇ、そうだわ」」

 ダリア様ととりまき達が扇子で口元を隠し、笑う。それを聞いて、パキラが、言う。

「そんなことないわ。エミリアは、王太子妃にはもったいないわ。とても洗練された女性よ。エミリアには、政略結婚ではなく、愛する方と幸せになってほしいから、ダリア様が殿下の婚約者になってくれればちょうどいいわ。さぁ、行きましょう。エミリア」

パキラ、言うようになったわね。話すの苦手だったのに・・・・。

「まぁ、私がエミリア様に劣っているとでも? 」


「そうよ。エミリアだから、王太子妃教育を傷なく、こなせたのよ。あなたなら無理ね。傷だらけね」

 ベロニカが乱入してきた。ベロニカとダリア様は、同じクラスだ。あまり仲が良くないと聞いている。

「どういうこと? 」

「知らないの? 王太子妃教育って厳しいのよ? 」

「知ってるわ」

「そう。毎日、スクワットと腹筋を100回の筋トレは必須よ。できないと、鞭で叩かれるのよ。あと、3か国語は、最低でもマスターしなきゃいけないのよ。マスターできないとできるまで監禁されてしまうのよ。まぁ、がんばってね。そうよね。エミリア」

「えぇ、まぁ・・・・。でも、ダリア様なら問題ないかと・・・・」

 私、ここまで酷く言ったかしら。筋トレは20回よ。だいぶ、お悩み相談の時に話した内容に尾ひれがついてるわ。まぁ、ベロニカらしいわね。


「「エミリアだから、問題なかったのよ」」

 パキラとベロニカが口をそろえて言う。

 ベロニカ、あまり余計なことを言わないで。ダリア様が婚約を辞退してしまうかもしれないでしょう。


 ダリア様は、固まってしまい、顔は、真っ青だ。


 私とパキラとベロニカは、そーっとその場を去った。


 私は、周りを見回す。婚約破棄をしたいと相談に来たアザレア様の姿を見つけた。隣に体が凄く大きい令息がいる。あの方がアザレア様の婚約者ね。あっ、あの婚約者、私が図書室で本が上段にあって届かなかった時に、取ってくださった令息だわ。あの方は、おおらかで優しそうな方だったわよね。あの方なら婚約者として間違いないわ、アザレア様。まぁ、私の勘ですけどね。


 あっ、あそこには、好きな人ができたと相談に来たモナルダ様がいるわ。隣にいる令息と談笑している。きっと隣の方が、新たにできた好きな方なのかしら。頑張ってくださいね、モナルダ様。私は心の中で言う。


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