第12話 悪役令嬢と友達

 次の日の放課後、


 今日は、お悩み相談がお休みの日だ。毎日、お悩み相談を入れようとしたら、ロベリアお婆さんから、「自分の時間や休息を取ることも大切よ」と言われ、月に数回、お悩み相談を受け付けない日を設けているのだ。

 私は、図書室で、今日は、本を読もうと思い、図書室に入ろうとすると、目の前から、令嬢が飛び出てきて、ぶつかりそうになった。

「すみません」

 相手の令嬢が謝る。あれ? この声、聞いたことがあるわ。あっ、P.R様だわ。髪の色も同じ。お悩み相談の時は、仮面をしてたけど、なんとなく雰囲気が同じような気がするわ。彼女が、手に持っていた本を見る。これ、私のお気に入りの本だわ。

「こちらこそ、すみません。お持ちの本、お好きなんですか? 私もその本、お気に入りなんですよ」

 と言った。

「えぇ、好きです。「婚約破棄された魔法少女は、幸せになる」ですよね」

 あれ、彼女、同じクラスのパキラ・ラミウム伯爵令嬢だわ。イニシャルもP.Rであってるわ。それに、いつもクラスで1人だわ。彼女とお友達になりたいわ。彼女とお友達になれれば、大切してもらえそうな気がするわ。この本のように・・・・。この本は、婚約破棄された魔法少女たちの友情や恋愛が書かれている。この本を読むと、信頼しあえる友達が欲しくなるのだ。


「あの、パキラ様ですよね」

 と私が言うと、パキラ様は、顔を上げた。

「あっ、エミリア様」

「あの、もし、良かったら、私とその本について語り合いませんか? 私も大好きな本なので・・・・」

 勇気をふりしぼって、パキラ様に言う。

「本当ですか? 嬉しいです」


 とパキラ様は、笑顔で言った。私は、ほっとした。私は、今まで、自分から誘うことをしたことがなかったため、断られたらどうしようかと不安だったのだ。今までは、殿下の婚約者だったため、黙っていても人が寄ってきていた。本当、殿下の婚約者っていう肩書がなくなると、私には、なにもないのよね。


 私たちは、この「婚約破棄された魔法少女たちは、幸せになる」の本を図書室から借り、学院内にある談話室に移動した。この本は、シリーズ化されており、既に4冊出版されている。私とパキラ様で、本に出てくるキャラクターやストリーについて、話し合った。同じ本が好きなだけあって、価値観が同じだ。話がとても合うのだ。とても充実した時間を過ごせたわ。


 それからは、クラスも同じことから、私は、パキラ様と休憩の時やお昼休みは、一緒に過ごしている。やっと、信頼できる友達ができた。パキラ様の側は、居心地がいいのよね。パキラ様は、やはり気遣いができる方で、私が触れたくなさそうなことは一切、聞いてもこないし、話題にもしない。



 ーーー



 今日は、学院がお休みの日だ。私は、パキラと市井にある人気のカフェでケーキセットを食べることにした。私たちは、お互い名前で呼び合うことにした。私は、イチゴのタルトを注文し、パキラは、チョコレートタルトを注文した。このカフェは、タルトがとても美味しく、人気なのだ。

 タルトが席に届くと、2人でタルトを半分に切り分け、お互いに分け与えた。これで、2種類食べれる。

「とても美味しいですわね」

「えぇ、本当に」

 私たちは、微笑みあった。私は、2年前に領地からこの王都に来た。王太子妃教育のためだ。私は、王太子妃教育で忙しく、市井のカフェで食べるなんてことはできなかった。今回が初めてだった。それも友達と一緒だ。とても嬉しかった。ケーキを食べ終わり、お茶を飲みながら、2人で、他愛もない話をしていると、


「ねぇ、セネシオ殿下の新たな婚約者が決まったらしいわよ」

「えっ、そうなの? 」

「そうよ。ダリア・ルナリア公爵令嬢らしいわよ」

「まぁ、あの、派手なお方ね」

「でも、前の婚約者は、暗くて、冷たそうだったじゃない。それに比べたらいいんじゃない? 」

「そうね。暗いよりかは、派手でも、華がある方がいいわよね」


 私たちの近くの席で、お茶をしていた令嬢達の会話が耳に入ってきた。私が、この場にいることを知らないのだろう。暗くて、冷たいは、私のことね。ダリア・ルナリア公爵令嬢が殿下の婚約者になるのね。ダリア様は、私とは、性格も見た目も真逆だ。地味な私に対して、ダリア様は、目鼻立ちもはっきりしている美人で、夜会で身に付けるドレスや宝石もゴージャスだ。


 もともと、殿下の婚約者は、私かダリア様のどちらかだろうと言われていた。殿下の婚約者には、どこかの国の姫か高位貴族の令嬢がなるのが通例だった。近隣の国で、殿下と歳の近い姫は、いなかった。そのため、同い年の高位貴族筆頭の公爵家の私かダリア様のどちらかだろうと言われていた。それが、なぜかわからないが6歳の時に私に決まったのだ。新しい婚約者が決まれば、もう私が殿下の婚約者に返り咲くことはないわよね。ほっとする。


「ねぇ、エミリア。私ね、もう1軒、お薦めのカフェがあるの。そちらに、移動しない? 」

「えっ」

「そちらのカフェにあるアイスがのったミルクティーがね。とても絶品なのよ」

「アイスがミルクティーにのってるの? 」

「ええ、そうよ。飲んだことある? 」

「ないわ」

「じゃ、行きましょう」


 パキラは、立ち上がり、私の手を引き、店を出た。きっと、パキラは、殿下の新しい婚約者の話題をしている場から、私を遠ざけたかったのね。本当、パキラは優しいわ。いい友達を持ったわ。私の頬は、自然と緩む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る