第11話 お悩み内容:学院をやめたいんです  P.R

 さぁ、今日は、どんなお悩みが聴けるのか楽しみだわ。


 私は、カレンダーの今日の日付の下に書かれているイニシャルを見ようと、ドアを開けると、手紙が、床に落ちた。ドアに挟まっていたようだ。ついに、意地悪したクレームがきたかしら。私は、手紙の封を開ける。



  親愛なる アクータS♡ 様


 先日は、お悩みを聴いていただきありがとうございました。

 私は、婚約者と婚約を解消しました。

 解消したら、元婚約者が慌てて謝りに来たんですよ!

 でも、もう私は、新しい恋を見つけました!

 新しい彼は、婚約者もいなかったので、私と婚約することになりました。

 彼は、とても誠実な方で信用できます。

 彼と幸せになります。


  感謝を込めて・・・・。


    悪役令嬢にならなかった

フリージア・シネラリアより




 フリージア・シネラリア様のイニシャルは、F.Sね。F.S様も本名を教えてくれたわ。

 おかしいわね。F.S様のお悩みも解決しなかったのに、またまた感謝されてしまったわ。

 私、やはり、悪役令嬢、失格ね。




 

 私は、ため息をつく。そして、手紙の封を閉じ、カレンダーの今日の日付の下を見た。P.Rと書かれていた。今日は、P.R様が来られるのね。





 ドアが開き、ドアにつけてあるベルがチリンチリンと鳴る。P.R様が部屋に入ってくる。P.R様は、目の周りと鼻を隠す仮面をしている。


「どうぞ、お座りください」

 私は、座るよう促す。私の机の先にある革張りの1人掛けのソファにP.R様が座る。



「P.R様、私は、アクターS♡ です。今日は、よろしくお願いします。今日は、どういったお悩みで来られたのですか? 」

「はい、よろしくお願いします。私、学院をやめたいんです」

「えっ、学院をやめたいんですか? 」

 私は、確認する。

「はい、やめたいです」

「では、P.R様のお悩みは、学院をやめたいっていうことですか? 」

「はい」

 うふふ、学院をやめたいのね。でも、私は、あなたの人生の悪役令嬢よ。学院をやめるなんてことさせないわ。学院を卒業しなさい。


 私は、『あなたのお悩み解決しません! 』と心で言う。




「なぜ、学院をやめたいんですか? 」

「私、友達がいなくて、みじめなんです。周りは、皆友達がいて楽しそうなのに・・・・。だから、私は、学院をやめたいんです」

「友達がいないとみじめなんですか? 」

「はい」

「友達は、いないといけないんですか? 」

「えっ」

「友達がいなければ、自分の時間をたくさん取れるわよ。自分を大切にできるわよ」

「そっ、そうですね」


 私も友達は、いないわ。今まで、私の側にいた3人は、私が、殿下の婚約者だったから、あたかも友達のように側に居たわ。でも、殿下と婚約破棄した途端、私の側から、離れて行ったわ。私に利がないと思ったのでしょう。私も友達がいないのよね。P.R様と一緒だわ。でも、私は、友達がいなくても大丈夫よ。友達がいない分、お悩み相談の時間がとれて、悪役令嬢ができてるわ。


「学院やめてどうするんですか? 」

「私、1人で静かに過ごすのが好きなんです。1人で、本を読んだり、絵を描いたりするのが好きなんです。ですから、やめたら、その時間にあてます。学院は、賑やかすぎます。学院で1人でいても、みじめなだけですし・・・・」

「まぁ、P,R様は、1人の時間を大切にされているんですね。素晴らしいわ」

「そんな、素晴らしくないです。私、この通り、暗くて、社交が苦手なんですよ。だから、友達ができないんです」


「素晴らしいわよ。暗くはないは、とても落ち着いているわ。それに、社交が苦手なんて、それは、周りに気遣いができる方なんですよね」

 P.R様のネガティブな表現を見方を変えてポジティブな表現に言い換えてみる。どうかしら?


「P.R様は、落ち着いていて、周りに気遣いができ、1人の時間を大切にされている方なんですね」

「そんなことはないです。社交が苦手なんて、貴族として失格でしょう? 」

 なかなか認めないわね。手強いわ。


「なぜ、社交が苦手だと、貴族が失格なのですか? 」

「なぜって、貴族は、社交の場にでないといけないでしょう? 」

「ええ、そうですね。でも、P.R様は、周りに気遣いができる方なのですよ。何か問題でもありますか? 」

「私、人と話すの苦手なのよ! 」

「えぇ、周りに気遣いができる方なのですよね。」

 人と話すのが苦手を周りに気遣いができる方と言い換えてみる。

「えっ」

「人と話すのが苦手ってことは、見方を変えれば、人と話す時に相手を気遣っていているからともとれますよね。相手の気持ちを考え、相手を傷つけないよう配慮しながら言葉を選んだりしてるんではないのかしら」

「・・・・・・・・。違うんです。気遣ってなんていないです。いつも、何を話そう。・・・・いつも、何を話せばいいのかわからないのです」

 やはり、手強いわ。なかなか、自信をつけてくださらないわ。


「ほら、相手のことを思っているから、何を話そうか考えてしまってるのではないかしら。ですから、相手を気遣うばかり、何を話していいかわからないんですよね。気遣ってるではありませんか? P.R様も夜会に出席されたことありまよね? 人と話してばかりの人もいますが、そうでなく、周りを気遣って、多くはしゃべらず、話に相槌を打つだけの人もいますよね? 私は、周りに気遣いができる方って素敵だと思いますよ」

「あぁ、ありがとうございます」


 顔を下に向け、少し照れているように見える。少し、前向きに考えてもらえたかしら・・・・。あと、もう少しかしら・・・・。


「P.R様は、社交が苦手なのではなく、周りに気遣いができる方なのですね。そして、落ち着いていて、1人の時間を大切にできる方なのですね」

「ありがとうございます」

 自信を持って! 私も友達いないわよ! 1人が好きよ! と心の中で叫ぶ。


「P.R様は、気遣いができる方ですから、きっと、お友達もできるようになるのではないかしら? 」

「そうですか? ありがとうございます。少し、自分に自信を持てました」

 少しか・・・・。でも、自分に自信を持てました。と言ったわよね。


「どうですか? 学院は? 」

「う~ん、もう少し頑張ってみようと思います」

「それは、学院をやめないってことですか? 」

「はい、まだ、学院をやめません」

 まだか~。しょうがないわ。でも、少し自分に自信を持てたと言っていたから、これからの学院生活で、変わってくるかもしれないしれないものね。卒業までいましょうね!


「そうですか」

 私は、笑顔で言う。



 うふふ、P.R様は、学院をやめませんと言ったわよね。

 まだは、聴かなかったことにしましょう。

 つまり、学院をやめるなんてことさせなかったってことよね。

 P.R様のお悩み、解決できなかったわ。

 私、P.R様のでしたわよ。


 うふふ、これで、私は、あなたの人生の悪役令嬢になれたはずだわ。


 おほほほ・・・・・・。

 心の中で、悪役令嬢らしく高らかに笑う。



 でも、完璧な悪役令嬢にはなりきれず、実は、今日も心の奥底で、ごめんなさいね。と謝っている。



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