第8話 お悩み内容:好かれて困っている  S.P

 私は、1人で、廊下を歩いている。すると自分のクラスの教室の入り口のドアの前で、殿下とベロニカが話をしていた。ベロニカは、私と殿下とクラスが違うのだ。殿下が私を婚約破棄した後、ベロニカは、頻繁に殿下のところに来ている。ベロニカが、

「来月の夜会、どうしますか? 」


 と殿下に言っている声が聞こえた。夜会のエスコートのことだろうか。私は、殿下とベロニカの話している横を通り過ぎ、教室に入った。私は、殿下からの視線を感じたが、無視した。多分、気のせいよね。なんせ、私は、婚約破棄されたのだから。




 ーーー




 さぁ、今日は、どんなお悩みが聴けるのか楽しみだわ。

 私は、お悩み相談室にいる。


 カレンダーの今日の日付の下には、S.Pと書かれていた。今日は、S.P様が来られるのね。


 ドアが開き、ドアにつけてあるベルがチリンチリンと鳴る。S.P様が部屋に入ってくる。男性だ。男性は、初めてだわ。S.P様は、顔全体を隠す仮面をしている。あれ、私、顔全体を隠す仮面は処分して、置いてないのよ。この仮面見たことないわ。もしかして、自前で用意したのかしら。


「どうぞ、お座りください」

 私は、座るよう促す。私の机の先にある革張りの1人掛けのソファにS.P様が座る。



「S.P様、私は、アクターS♡ です。今日は、よろしくお願いします。今日は、どういったお悩みで来られたのですか? 」

「あぁ、よろしく。私は、ある女に好かれて困っているんだ。どうにかしてくれ」

「はい? それは、困ってるから、困らないようになりたいってことですか? 」

「そうだ」

「つまり、S.P様のお悩みは、困らないようになりたいってことですか? 」

「あぁ、そうだ」


 ちょっと、待って。この声聞いたことあるわよ。それにこの偉そうな話し方。それに金髪。殿下じゃないかしら。でも、殿下なら、セネシオ・スターチスだから、イニシャルは、S.Sだわ。あっ、もしかして、セネシオ王子で、S.Pにしたのね。王子はプリンスだからPだわ。やっぱり、殿下だわ。全く、何やってるのよ、殿下。小さくため息をつく。殿下のお悩みなんて、どうでもいいわ・・・・。適当に話を聴いて終わりにしましょう。


 すでに、私は、殿下の人生の悪役令嬢なんですから! あなたが、言ったのよ!


 困らないようになりたいですって、勝手に困ってなさい!


 私は、『あなたのお悩み解決しません! 』と心で言う。




「好かれて困ってるんですか? 」

「あぁ、毎日、毎日、私のところに来て、殿下、殿下って言って、私の後をついてくるんだ」

「まぁ、好かれていて、いいではないですか? 」

 やっぱり、殿下ね。仮面で顔を隠しても、自分で身元をバラしてますわよ。たぶん、本人は、気付いてないでしょうけど。また、小さくため息をつく。


 それに、殿下のところに行ってるのは、ベロニカよね。よく一緒に居るところを見るもの。今日も一緒に居たわね。

「それが、うっとうしいのだ」


「なぜ、うっとうしいのですか? 」

「彼女のことが、好きではないからだ」

 あれ? 殿下ってベロニカのことが好きではないの? うふふ、じゃ、好きにさせてしまおうかしら。


「どうして好きじゃないのですか? 」

「私に嘘をついたからだ。私には、「服を貸して欲しいと言った」と言っていたのに、実は貸したとは言ってなかった。「いいな~ 」と言ってただけだった。それに、人がぶつかって来たと言っていたが、実は、自分からぶつかっていた」

 それ、婚約破棄の時の内容だわ。真実を調べてくれたのかしら・・・・。


「それは、嘘をつくほど、でん・・・、S.P様のことが、お好きなんじゃないんですか? 」

 危ない、殿下って言おうとしてしまったわ。気を付けないといけないわね。きっと、ベロニカは、殿下のことが好きなはずだわ。いつも付きまとっているもの。


「それが、うっとうしいんだ」

「もしかしたら、彼女は、嘘をついてるつもりではなく、彼女自身、本当にそう思ったのかもしれませんよ」

 ベロニカならありえるわ。ベロニカは、天然なところがあるから、嘘をついてるつもりはないかもしれないわ。


「だとしても、うっとうしいんだ」

 うっとうしい、うっとうしいってうるさいわね! あなたたち、仲が良いんじゃないの!


「そうですか。彼女は、どんな方なんですか? 」

「うるさい」

「まぁ、お話が好きなんですね。社交的で、活発な方なんですね」

 私は、殿下のネガティブな言葉を見方を変えて、ポジティブな言葉に言い換えてみる。

「すぐ泣きそうになる」

「まぁ、感受性が豊かなんですね。可愛い方ですね」

「頭が悪い」

「まぁ、これから伸びしろがありそうですわね」

「そんなところだ」


「まぁ、S.P様は、社交的で、感受性が豊かなこれから伸びしろがありそうな可愛い方に慕われてるんですね」


「あぁ、そうだ」

 あれ? 反論しないの? 認めたわよ。


「・・・・で、どう思いますか? 彼女のことは? 」

「別にどうも思わない。好きではない」


 はい、もう、私、お手上げです。


 そもそも、すでに、私は、あなたの人生の悪役令嬢なんです。


 もう、話す必要ないわね。終わりましょう。


「大変申し訳ございません。もう、お時間なので、今日は、ここで終了させていただきます」

「はぁ? 何も解決してないぞ」

「私の力不足です。大変申し訳ございません」

 椅子から立ち上がり、頭を下げる。殿下は、しぶしぶ立ち上がり、帰って行った。



 うふふ、S.P様(殿下)は、何も解決してないと言ったわよね。

 S.P様(殿下)のお悩み、解決できなかったわ。放棄したわよ。

 私、S.P様(殿下)のでしたわよ。


 うふふ、すでに、私は、あなたの人生の悪役令嬢だもの。


 おほほほ・・・・・・。

 心の中で、悪役令嬢らしく高らかに笑う。



 今日は、完璧な悪役令嬢になれたわ。

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