第6話 お悩み内容:好きな人ができたんです M.R
私は、中庭のベンチで1人で、お昼を食べていた。わが家から持ってきたサンドイッチだ。殿下と婚約破棄をしてから、今まで一緒にお昼を食べていた3人のとりまき達は、私から離れていってしまった。そのため、1人で食べている。1人も慣れると、楽でいいわ。周りに気を遣わなくてすむものね。
「ねぇ、あれ、オルキス様よ。かっこいいわよね」
「本当ね。また、女性といるわ。本当、おもてになるわよね」
令嬢達の会話が耳に入る。私は、サンドイッチを頬張りながら、令嬢達が見ている令息を見る。噴水の前で、その令息は令嬢と仲睦げに談笑している。その令息は、背が高く、顔が整っている。確かに、かっこいいわね。そりゃ、もてるでしょうね。
そして、お昼を食べ終わり、教室に向かう廊下で、先ほどのかっこいい令息を見つけた。さっきの噴水の前で談笑していた令嬢とは違う令嬢と歩いていた。
そして、授業が終わり、お悩み相談室へ向かうため、図書室に入ると、図書室の書棚の前にいる、また、かっこいい令息を見つけた。また、違う令嬢を連れて談笑している。
なんか、今日は、よく見るわね。それにしても、かっこよくても、令嬢達をとっかえひっかえ連れて歩いて、なんか誠実さが感じられないわ。浮気性に感じられるわ。まぁ、私には、どうでもいいことだけど・・・・。
私は、図書室から、そっーと、理事長室を経由して、お悩み相談室へ移動した。
さぁ、今日は、どんなお悩みが聴けるのか楽しみだわ。
カレンダーの今日の日付の下には、M.Rと書かれていた。今日は、M.R様が来られるのね。
ドアが開き、ドアにつけてあるベルがチリンチリンと鳴る。M.R様が部屋に入ってくる。M.R様は、目の周りと鼻を隠す仮面をしている。昨日、顔全体を隠す仮面をつけたA.O様の表情が全く分からなかったため、昨日のうちに顔全体を隠す仮面は、処分した。そのため、顔全体を隠す仮面は、もう置いてない。
「どうぞ、お座りください」
私は、座るよう促す。私の机の先にある革張りの1人掛けのソファにM.R様が座る。
「M.R様、私は、アクターS♡ です。今日は、よろしくお願いします。今日は、どういったお悩みで来られたのですか? 」
「はい、よろしくお願いします。あの~、私、好きな人ができたんです。どうしたらいいでしょうか? 」
「M.R様のお悩みは、好きな人ができてしまったということですか? 」
「はい」
うふふ、好きな人ができたのね。でも、私は、あなたの人生の悪役令嬢よ。好きな人ができたなんてことさせないわ。好きになるなんておやめなさい。
私は、『あなたのお悩み解決しません! 』と心で言う。
「お好きな方は、どんな方なんですか?」
「はい、かっこいいんです」
やはり、口元が見えるだけに、気持ちがなんとなくわかるわ。口角が上がってるわ。笑顔なのね。
今日は、好きな人を好きにさせないようにしないといけないのよね。難しいわね。本当は、やりたくないけど、ポジティブな言葉からネガティブな感情にもっていかないといけないわ。どうやりましょう。かっこいいか・・・・。今日、よくお見かけしたかっこいい令息を思い出す。
「まぁ、かっこいいなんて、おもてになるんじゃないんですか? 」
「えっ、はい。すごくもてますね」
「まぁ、すごくもてるんですか。それじゃ、浮気をする確率が高くないですか? 」
私は、身を乗り出して聴く。
「彼は、そんな人ではないです」
「今、かっこよくても、歳をとったら姿見は、変わりますよ。大丈夫ですか? 」
「かっこいいだけでは、ないんです。彼は、社交的なんです」
「どんなところがですか? 」
「えっ・・・と、そうですね。噂話をよく知っています。いろんな人から聞いたようです」
「まぁ、それは、口が軽い方ですね。大丈夫ですか? あなたのこともどこかで話してるかもしれませんよね」
「えっ、確かにそうかもしれないです・・・・。でも、とても優しいんです」
M.R様が、とまどったように言う。一生懸命、彼のいいところを探しているようね。
「どんなところがですか? 」
「えっ・・・・と、以前、食事に一緒に行く機会があったんです。その時、私の好きなお店に連れて行ってくれました」
「まぁ、それは、優柔不断ではないですか? 自分で決められないから、M.R様に決めてもらったのではないのですか? 」
「そうではないと思いたいですが、確かに優柔不断では、あります。学院の食堂のメニューからランチ選ぶのに10分も悩んでましたから・・・・」
M.R様が、また、とまどったように言う。
「まぁ、食堂ってメニューは、ランチA、ランチB、ランチCの3つしかないですわよね。悩みすぎではないかしら・・・・」
「確かにそうですね・・・・でも、頭もいいんです」
M.R様がうんざりしたように言う。その時のことを思い出したのだろう。M.R様の声が小さくなってきた。
いい感じだわ。
「どんなところがですか? 」
「はい。何で学院に行かなきゃいけないのかしらって、なにげなく言ったら、その正論を長々と説明してくれたわ」
「まぁ、正論を長々とですか? 理屈っぽい方なのですね。聞いてどうでしたか? 」
「話が長くて、もう途中から全く聞いてないです・・・・」
M.R様がまた、うんざりしたように言う。その時のことを思い出したのだろう。
「まぁ、大変でしたわね」
ますます、いい感じだわ。私は、続ける。
「つまり、M.R様は、理屈っぽいのに優柔不断で、口が軽く、浮気する可能性が高いお方がお好きなんですね」
「「・・・・・・・・・」」
沈黙が続く。
そして、
「なんか、彼が理屈っぽいのに、優柔不断で、口が軽く、浮気する可能性が高い人に感じてきたわ。なんか、彼がめんどうに感じてきたわ。私、なんで、あんなに彼が、好きだったのかしら。彼は、婚約者がいるんです。本当は、好きになってはいけない人なんです。でも、好きになってしまったから、どうしようか悩んでたんです。でも、よく考えてみたら、婚約者がいるのに、私と食事に行ったりして、これって浮気ですよね。なんか、もう、彼に全然、魅力を感じなくなったわ。もう好きではないわ。なんか、すっきりしたわ。ありがとうございます」
やったわ! 好きな人ができたことを阻止したわ。
「それは、良かったわ」
私は、笑顔で言う。
うふふ、M.R様は、もう好きではないわと言ったわよね。
つまり、好きな人ができたなんてことさせなかったわよね。
M.R様のお悩み、解決できなかったわ。
私、M.R様の
うふふ、これで、私は、あなたの人生の悪役令嬢になれたはずだわ。
おほほほ・・・・・・。
心の中で、悪役令嬢らしく高らかに笑う。
でも、完璧な悪役令嬢にはなりきれず、実は、今日も心の奥底で、ごめんなさいね。と謝っている。
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