第5話 お悩み内容:婚約破棄をしたいんです  A.O

 さぁ、今日から私のお悩み相談が始まるのね。

 どんなお悩みが聴けるのか楽しみだわ。


 私は、放課後、図書室に向かう。一応、本でも借りてから、お悩み相談室へ向かいましょう。私は、今、お気に入りの本「婚約破棄された魔法少女たちは、幸せになる」を書棚から探す。あったわ! しかし、書棚の上段に置いてあり、背伸びをしても本に手が届かない。すると、体が凄く大きい令息が私の後ろから、手を出し本を取った。えっ、私が先に見つけたのに、取られてしまったわ。と落ち込もうとすると、無言で令息は、本を私に渡してきた。取ってくれたようだ。


「ありがとうございます」

 と私は、頭を下げると、令息は、薄っすら頬を赤くし、微笑み、去って行った。


 すごく、おおらかそうで、優しそうな方だわ。私はそう思いながら、本を持ち、書庫に入った。そして周りを見回す。誰もいないことを確認し、理事長室へ繋がっているドアに鍵を入れた。




 ーーー



 私は、今、お悩み相談室にいる。


 今日の予約を確認するため、この建物の裏にある小道側のドアに掛けてあるカレンダーを見る。今日の日付の下には、A.Oと書かれていた。今日は、A.O様が来られるのね。


 私は、制服の上から大きな黒のマントで体を覆い、ネックレスを着ける。鼻をクリップでつまみ、目の周りと鼻を隠す仮面をし、頭から黒のベールをかける。


 ドアが開き、ドアにつけてあるベルがチリンチリンと鳴る。A.O様が部屋に入ってくる。A.O様は、顔全体を隠す仮面をしている。


「どうぞ、お座りください」

 私は、座るよう促す。私の机の先にある革張りの1人掛けのソファにA.O様が座る。



「A.O様、私は、アクターS♡ です。今日は、よろしくお願いします。今日は、どういったお悩みで来られたのですか? 」

 まずは、自己紹介だ。そして、お悩みを聴く。


「よろしくお願いします。私は、婚約者が嫌いで、婚約破棄をしたいのです。どうしたらいいのでしょうか? 」

「A.O様のお悩みは、婚約破棄したいことなのですか? 」

「はい」


 うふふ、婚約破棄したいのね。でも、私は、あなたの人生の悪役令嬢よ。婚約破棄なんてさせないわ。結婚しなさい。


 私は、『あなたのお悩み解決しません! 』と心で言う。




「婚約者が嫌いなんですか? 」

「はい」

「婚約者のどこが嫌いなんですか? 」

「はい。まず、凄く太ってるんです」

 私は、先ほど、図書室で本を取ってくれた令息を思い出す。あの方は、凄く太ってるとも言える。とても貫禄があっておおらかそうに見えたわ。


「まぁ、凄く太ってるなんて、貫禄があって、おおらかな方なんですね。それから・・・・」

「えっ、無口なんです」

「まぁ、無口なんて、聞き上手な方なんですね。それから、それから・・・・」

 私は、身を乗り出して聴く。


「えっ、私と目を合わせないんです」

「まぁ、目を合わせないなんて、照れ屋さんなんですね。かわいいですわね。それから、それから・・・・」

「えっ、人に合わせてばかり行動するんです。自分の考えがないようなんです」

「まぁ、人に合わせて行動できるなんて、協調性がある方なんですね。それに、自分の考えがないなんて、他人を大切にされている方なんですね。それから、それから・・・・」

 私は、さらに、身を乗り出して聴く。


「えっ、気が弱いところもあります」

「まぁ、気が弱いなんて、とても慎重な方なんですね。それから、それから・・・・」

「えっ、今思いつくのは、これくらいかと・・・・」

「まぁ、貫禄があって、おおらかで、聞き上手、それに照れ屋さんなんですね。うふふ、そして、協調性があって、他人を大切にされていて、慎重派な方が婚約者なんですね。素敵ですね」


 私は、両手を握って、笑顔で言う。笑顔を出しても相手には見えないんだが・・・・。

 A.O様の言うネガティブな言葉を見方を変えて、ポジティブな言葉に言い換えたつもりだけど、どうかしら?


「違います。そんな人ではありません。凄く太ってて、無口で目は合わさない、人に合わせて行動して自分の考えがなく、気が弱い人なんです」


「あら、A.O様の言葉をポジティブに見方を変えてみましたら、私にはこう聴こえましたわ。貫禄があっておおらかで、聞き上手に照れ屋さん!そして、協調性があって、他人を大切にされていて、慎重派な方だと思いましたけど、どうですか? 」


 あぁ、顔全体を隠す仮面をしてるから、A.O様の表情が全く見えないわ。どう思っているのかを顔の表情で伺うことができないわ。顔全体を隠す仮面は失敗ね。


「「・・・・・・・・・」」


 沈黙が続く。

 そして、

「確かに、そうかもしれませんね。彼は、凄く太ってるけど、貫禄があっておおらかに見えるわ」

 A.O様が言う。

「そうでしょう、そうでしょう」

 私は、答える。いい感じだわ。


「無口だけど、私の話を良く聞いてるように感じるわ」

「そうでしょう、そうでしょう」

 ますます、いい感じだわ。


「それに私と目を合わさないのは、照れてしまってるからなのね」

「きっとそうよ」

 そう思いましょう。本当のところはわからないけど・・・・。


「人に合わせてばかりで、自分の考えがないのは、協調性があり、他人を大切にしているからなのね。なんか、とてもいい人に感じてきたわ」

「そうよ。きっといい人なのよ」

 たぶんね・・・・。


「気が弱い人だけど、これは、慎重に行動ができる人なのよね。なんか、彼が、頼もしく、いい人に感じてきたわ。なんで、あんなに嫌いだったのかしら。婚約破棄はやめることにするわ。なんか、すっきりしたわ。ありがとうございます」

 やったわ! 婚約破棄を阻止したわ。


「それは、良かったわ」

 私は、笑顔で言う。



「あの・・・・。大丈夫ですか? 鼻声のようですが、風邪ですか? 」

 あっ、鼻をクリップでつまんでるからね。気遣ってくれるなんて、優しい方ね。


「お気遣いありがとうございます。風邪はひいてません。これが地声なんです」

 ごめんなさい、地声は、嘘です。心の中で謝る。


「そうでしたか。すみませんでした」

「いいえ、ありがとうございます」


 私は、笑顔で言う。正直、クリップで鼻をつまみながら、話すのは、話しにくい。でも、バレないためには、しょうがないわ。王太子妃教育に比べたら、話しにくいのなんて、へっちゃらよ。




 うふふ、さて、A.O様は、婚約破棄は、やめると言ったわよね。

 A.O様のお悩み、解決できなかったわ。

 私、A.O様のでしたわよ。


 うふふ、これで、私は、あなたの人生の悪役令嬢になれたはずだわ。


 おほほほ・・・・・・。

 心の中で、悪役令嬢らしく高らかに笑う。



 でも、完璧な悪役令嬢にはなりきれず、実は、心の奥底で、ごめんなさいね。と謝っている。



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