第4話 悪役令嬢の開始

 私は、朝早く、学院に向かう。学院に到着すると、昨日、買った物と植木職人ボブが作ってくれた鼻をつまむクリップを理事長室横の小部屋に置く。この小部屋は、『お悩み相談室』とお婆さんが名付けてくれた。そして、『お悩み相談室』と書かれた看板も用意してくれ、ドアに取り付けられていた。


 私は、学院内の食堂、図書室、医務室、各階の踊り場等にポスターを張った。

 ポスターは、



  お悩みを聴いてあげるわ           


       アクターS♡

      (理事長推薦)



 と書いたお手製のものだ。

 アクターS♡ だけだと、不信がる人もいるかもしれないと思い、(理事長推薦)を勝手につけた。ロベリアお婆さんが私に依頼したのだから問題ないでしょう。そして、それ以外に、『お悩み相談室』の場所の地図と予約の仕方が書いてある。予約は、1日1名だ。お悩み相談室のドアについているカレンダーに、イニシャルを書くだけだ。イニシャルを書くのは、予約したい日付の下に書くのだ。




 私は、1人教室で、椅子に座っている。周りからは、早速、ポスターの話題があがっている。

「ねぇ、ポスター、見ました? お悩みを聴いてくださるお部屋ができたそうよ」

「えぇ、見ましたわ。でも、聴いてくれる方のお名前がアクターS♡ ってなってたわ。どんな方なのかしら? 大丈夫なのかしら? 」


 わぁ、やっぱり、名前で不信に思う方がいらっしゃったわ。私は、令嬢達の会話に耳を澄ます。


「でも、それは、心配ないんじゃないかしら。だって、理事長推薦って書いてあったわよ」

「「理事長って何ですの? 」」


 あ~ それを心配してたのよ。理事長推薦って書いても理事長を知らない人がいるんじゃないかって。私も知らなかったのですもの・・・・。


「理事長ってこの学院で、一番偉い人よ」


 あっ、知ってる人がいたわ。


「「そうなんですね、なら信用できるわ」」


 理事長推薦の信用力は、すごいわね。

 さすがだわ。ロベリアお婆さん!

 他の場所でも同様にポスターの話題があがっていた。

 うふふ、これなら、お悩み相談室は、大盛況ね!

 あっという間に1か月分の予約は埋まってしまうはずだわ!




 ーーー




 しかし、

 1週間経っても、誰も予約しない。予約がない。

 あ~、アクターS♡ の名前が悪かったかしら。

 怪しく感じたかしら・・・・。悪役令嬢さが強かったかしら・・・・。


 私は、『お悩み相談室』にある椅子に座り、お茶を飲み、ため息をつく。すると、隣の部屋の理事長室からお婆さんが入って来た。この小部屋内と理事長室内には、行き来できるドアがついている。つまり、廊下に出なくてもこの小部屋と理事長室は行き来ができるのだ。


「ロベリアお婆さん、ごめんなさい。私の力不足で、だれもお悩み相談に来られないんです」


 と私は、椅子から立ち上がり、頭を下げる。


「やめて、エミリアさん、頭を上げてちょうだい。ねぇ、私、思ったのよ。もしかしたら、来たくてもこの部屋に来にくいんじゃないかって」

「えっ」

「だってね。この部屋の隣は、理事長室、またその隣は、図書室。図書室は、人の出入りが多いでしょう。だから、この部屋に出入りしているのを見られてしまう可能性があるでしょう。人によっては、お悩みがあることを知られたくない人もいるんじゃないかしら? 」

 さすがだわ。確かに、お婆さんのいう通りだわ。そうね、出入口を人の目につかないところにした方がいいわね。そうだわ!


「ロベリアお婆さん、出入り口を外の小道に面したこちらのドアにするのはどうでしょうか? 」

 私は、お婆さんに言う。

「そうね。それは、いいわね。では、そちらのドアの外には雨除けの屋根をつけるようにしましょう」

 お婆さんは、言い、微笑んだ。

「ありがとうございます」

 と言い、私は頭を下げる。お婆さんは、笑顔で隣の理事長室に戻った。


 この部屋には、ドアが3つある。今、出入り口にしている廊下側にあるドア、理事長室へ出入りするドア、そして、外に出入りするドアだ。私は、出入り口を外に出入りするドアにしようと考えた。お婆さんも今、承諾してくれた。外は、建物裏側になり、小道がある。建物の裏側になるため、人は、ほとんど通らない。こちらのドアであれば、出入りは見られない可能性が高いためだ。


 私は、どうしているかというと、図書室に入り、図書室から理事長室に入り、そしてこの小部屋に来ている。実は、理事長室内と図書室内にも出入りできるドアがある。図書室の書庫の中にあるため、ほぼ誰にも気づかれない。それに、ドアには鍵がかけられている。私は、その鍵をお婆さんから借りている。きっと、私は、毎日、図書室に行っていると周りからは、思われているだろう。


 そうだわ! お悩みがあることを知られたくない人もいるのだから、顔がわからないよう仮面も用意しておきましょう。それに、お悩み内容が、外に漏れないことも知らせておかないといけないわね。


 私は、早速準備を始めた。ポスターの記載に『お悩み相談室』は、建物裏側にある小道から出入りすること。そして、『仮面をつけてのお悩み相談も可能(仮面は用意してあります)』いうことと、『お悩み内容は、外に漏れることはありません』ということを追記した。


 それから、市井で、5つの仮面を買ってきた。私と同じ目の周りと鼻を隠せるもの、顔全体を隠すもの、目の周りだけ隠すもの等だ。これを、入り口に置いておきましょう。



 さぁ、これでどうかしら・・・・。




 次の日、

 すごいわ、予約が3人、入ってるわ。アクターS♡ という名前が原因ではなかったようね。良かったわ。やはり、お悩みがあることを知られたくない人が多いのね。


 さぁ、明日から、悪役令嬢の始まりだわ。


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