第3話 悪役令嬢の準備
私は、学院からファセリア公爵家へ馬車で帰っている。私は、今日、殿下に婚約破棄された。本来は、落ち込むところだろう。それが、今の私の心は、ロベリアお婆さんから依頼されたお悩み相談のことで、ワクワクしていた。
ファセリア公爵家に着き、私が、玄関ホールに入ると、
「エミリア、派手に婚約破棄されたな。はっ、はっ、はっ」
と言う笑い声が聞こえた。兄だ。私には、2つ年上の兄がいる。今、同じ学院に通っている。貴族学院は、3年制だ。私は、現在1年生。兄は、3年生。今年、兄は、学院を卒業する。
「お兄さまも見ていたんですか? 」
「あぁ、スキップしてるところもな! エミリアらしいな。良かったではないか。もう、厳しい王太子妃教育を受けなくて済んでな。婚約破棄の嬉しさが、スキップから伝わって来たぞ」
と笑顔で言う。
「お父さまに怒られてしまうかしら? 」
「怒られないだろう。逆に喜ぶんではないか? エミリアが毎日、辛そうに王太子妃教育を受けに行ってるのを見ていて、心配していたからな。エミリアに笑顔がなくなってしまったと・・・・」
お兄さまが、苦笑する。そして、「私も心配していた」と言ってくれた。
「ありがとうございます」
「安心しろ。父上と私で、エミリアの面倒は見る。何かあっても守るからな。公爵家のことも心配はいらない」
兄は、私の頭の上に手を置き撫でると、私の顔を見ながら、笑顔で言った。
すると、兄の優しさに私の目からは、涙が出てきてしまった。
「うっ、ありがとうございます」
わが家の父と母、兄は、とても優しいのだ。
兄は、「あぁ」と言い、馬車で、市井に行ってしまった。
私と殿下は、6歳の時に父と陛下によって婚約がされた。親同士が決めた婚約者だった。私は、2年前の14歳から、王太子妃教育を受けている。私の父と母は、王太子妃教育は、厳しいと聞き、14歳になるまでは、自由に過ごさせてやろうと考えた。そのため、私は、領地で、伸び伸びとお転婆に過ごしてしまった。多分、それが悪かったのだろう。王太子妃教育では、礼儀作法、姿勢、歩き方、教養、語学など沢山叩き込まれるのだ。いずれ、この国の国母になるのだ。厳しいのはわかる。それが、今までの領地での過ごし方とギャップがありすぎて、辛かったのだ。婚約破棄したかったのだ。
でも、その辛さも、もう終わりだ。自由よ。婚約破棄バンザイ! よ。
私は、涙を拭いて、笑顔で、自室に向かった。
ーーー
ファセリア公爵家の自室にて、
ソファに座り、お茶を飲みながら考える。
さて、今から悪役令嬢になる準備をするわ。まず、お悩みを聞くときの服装ね。自分だとバレないようにしないとね。やはり、悪役令嬢だから、色は、黒よね。そうね・・・・。制服だと生徒だとバレるから、黒のマントで体を覆いましょう。
そして、顔が見えないよう仮面をしましょう。そして、念のため、頭から黒のベールを掛け、完全に顔を隠しましょう。うん、これで、顔はバレないわ。大丈夫ね。
あとは、・・・・声よね。声でバレてしまうかもしれないわ。声は、どうしましょう・・・・。そう言えば、お母さまが、私が小さい時、私の鼻が高くなるように、私の鼻をつまんで
「鼻よ。高くな~れ、鼻高くな~れ」
と言ってたわ。その時、鼻をつままれてる状態で、私が声を出したら、声が変わったわよね。
そうだわ。鼻をつまんで、話せばいいのよ。私は、指で、鼻をつまむ。
「私は、悪役令嬢よ」
と言ってみる。やはり、声が変わったわ。ちょっと鼻声みたいになるのが気になるけど、良しとしましょう。これで声の問題は、解決ね。でも、指で鼻をつまみながら話すのは変だし、大変だわ。
私は、腕を組み、考える。
あっそうだ。鼻をつまむクリップを用意すればいいのよ。痛いのは嫌だわ。わが家の植木職人のボブは、器用でものづくりが好きだわ。ボブに痛くない鼻をつまむクリップを作ってもらいましょう。
うふふ、これで、見た目、声は大丈夫ね。
あと、やはり名前が必要よね。私だとわからない名前がいいわね。それに、悪役っぽい名前。でも悪役すぎたら、お悩み相談に誰も来ないわよね。どうしましょう。
私は、腕を組み、考える。
そうね。お悩みを聴くのよね。本当は、心を癒してあげるのよ。つまり、心を癒すお医者様。つまり、心を癒すドクター。でも私は、悪役令嬢よ。意地悪するのよ。だから、ドクターをもじって、
私は、腕を組み、考える。
アクターSにしましょう。Sは、この国ステータス国のSよ。悪役令嬢らしい名前ね。でも、これだと悪役令嬢過ぎるかしら。そうね、♡ をつけましょう。そうすれば、なんか優しそうな感じがするわ。お悩み相談に来てくれそうよね。心は、ハートだものね。決まりね。
私の名前は、
アクターS♡
よ。うふふ、悪役令嬢らしさもあり、優しさもある名前だわ。素敵ね。
うふふ、楽しみだわ。
さぁ、明日は、市井に買い物に行くわよ。
ーーー
次の日、
市井にある大きな雑貨屋に私はいる。この雑貨屋は、雑貨以外にも布製品も売っている。既に、市井に来る前に植木職人のボブに鼻をつまむクリップは依頼済みだ。後は、仮面と黒いマント、黒のベールを買うだけだ。このお店凄いわね。全部、売ってるわ。私は、仮面と体を覆えるほどの大きな黒のマント、黒のベールを買った。仮面は、目の周りと鼻を隠せる銀色の仮面にした。鼻をクリップでつまむため、鼻で息が吸えない。そのため、口は、隠さないことにした。仮面の上から黒のベールをするのだから、口元は、はっきりと見えないものね。
私は、まだお店の中を見て回る。他に何か必要なものないかしら。お悩みを聴いている自分を想像する。服装が真っ黒ね。アクセサリーをつけましょう。派手目がいいわよね。イミテーションの宝石のついた3重のネックレスも買った。
見た目は、これでいいわね。そういえば、机には何もないのよね。何かものを置きたいわ。お悩みを聴く部屋は、理事長室の隣の小さな部屋だ。倉庫だった場所だそうだ。そのため、部屋は、少し暗い。小さな窓がひとつしかない。私は、可愛らしいステンドグラスのランプを買った。それから、犬のぬいぐるみを買った。私は、犬が好きなのだ。これを私のアシスタントとして机に置いておきましょう。そうね、名前は、アクターDにしましょう。犬は、ドックでしょう。だからDよ。
あと、一応、使わないけど、水晶もなんとなく買っておこう。
あれ?水晶に私の服装、よく考えたら、私、占い師?
私は、首を横に振る。
いいえ、悪役令嬢よ!
さぁ、これで、お悩み相談の悪役令嬢の準備は、ばっちりね。
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