第2話 悪役令嬢への依頼

 私は、今さっき、中庭で婚約者のセネシオ・スターチス王太子に婚約破棄された。そう、彼は、この国、スターチス国の王太子だ。そして、ここは、スターチス国で唯一の王族、貴族の通う学校、私立貴族学院だ。


 今は、ちょうど昼休みの時間。何もこんな時間にそれも中庭で、婚約破棄することないのにね・・・・。中庭は、多くの教室、食堂、図書室、職員室などに面している。それに、中庭は噴水もあり、ベンチや芝生もある。つまり、多くの職員や生徒たちが、この婚約破棄の現場を目にしてしまったのだ。



 私が、教室に入ると、私を見て、クラスメイトは、冷たい視線を送る。殿下が、私に婚約破棄をしたからだろう。いつも私の側にいた3人のとりまき達も私のところには、来ない。睨んでるような、冷たい視線を送る。もう、彼女たちにとって私は、利がないということだろう。はぁ、この国の人たちは、当然、殿下の味方だものね。しょうがないわよね。


 私は、ため息をつき、ひとり席に座る。少しすると、殿下が入ってきた。目が合わないよう顔を下に向ける。殿下とは、同じクラスなのだ。


 教師も入ってきた。教師が私のところへ来る。

「理事長が呼んでいる。授業が終わったら、理事長室に行くように」

 と小さい声で言う。

「えっ、理事長って? 」

「理事長は、学院長より偉い。この学院で一番偉い人だ」

 私は、学院長は、見たことがある。学院長より偉い人がいるなんて知らなかった。理事長なんて見たことないわ。どんな人なのかしら・・・・。でも、なんで、お呼び出しされるの。


 どうしましょう・・・・。

 まさか、さっきの婚約破棄の私の態度で、退学なんてことないわよね。殿下に反発したからかしら。いいえ、反発はしてないわ。殿下の言葉を言い換えただけだわ。もしかして、スキップしたからかしら・・・・。

 私の顔は、真っ青になり、冷汗がでてくる。



 ーーー



 私は、今、理事長室にいる。理事長室にあるソファに座っている。ソファの前にあるローテーブルには、お茶が用意されている。あぁ、この理事長室からも中庭がよく見えるわ。


 そして、私の目の前には、白髪の優しい顔をした品のあるお婆さんがいる。

「はじめまして。私は、この学院の理事長をしているロベリアよ。ロベリアお婆さんとでも呼んでください」

 と品のある笑顔で言う。


 年をだいぶ召しているように見えるけど、なんかとても上品な方だわ。さすが、学院で一番偉い人ね。本当に、お婆さんと呼んでもいいのかしら。真に受けて、お婆さんと呼んで、退学ってことにならないかしら。でも呼んでくださいと言ってるのだから呼ばないと失礼よね。


 う~ん、私が、悩んでいると、

「うふふ、お昼の殿下との婚約破棄を見させてもらったわ」

 ギクッ。やっぱり、婚約破棄を見られてたのね。やはり、退学かしら・・・・。私は、顔を下に向ける。お婆さんは、話を続ける。


「あなた、殿下から、婚約破棄された時、とても上手な受け答えだったわよ。感心したわ。それで、とてもあなたを気に入ったの。それでね、ねぇ、私の依頼を受けてくれないかしら? 」

 へぇ、依頼? 私は、顔を上げる。良かったわ~ 退学の話ではなくて。


「うふふ、依頼というのはね。この学院の生徒たちのお悩みを聴いてあげてほしいの。報酬は、お悩みを1回聴くごとに銀貨1枚。どう? 」

 この国の平民の1カ月の平均報酬は、金貨3枚だ。金貨1枚は銀貨10枚に相当する。


 1回お悩みを聴くだけで、銀貨1枚の報酬ってとても高いわよね。私は、考える。今日、婚約破棄された。これから、新しい出会いがあり、新しい婚約者ができるかもしれない。私は、できれば、それを望んでいる。しかし、できないかもしれない。そしたら、1人で生きていかなきゃいけない。私には、兄がいる。兄が公爵家を継ぐからだ。1人で生きていくには、お金は、必要だ。これは、お金を貯めるチャンスになるわ。


 私は、

「ロベリアお婆さん、ご依頼、お受けさせていただきます」

 とお婆さんに向かって言う。

 お婆さんは、

「ありがとう。では、お願いね」

 と言って微笑んだ。良かったわ、ロべリアお婆さんと呼んでも大丈夫そうね。



「ロベリアお婆さん、私は、ただお悩みを聴くだけでいいのですか? 」

「ええ、そうよ。あなたの好きな聴き方で話を聴いてあげてちょうだい。必要であれば、もちろん助言をしてもかまわないわ。それに、無理にお悩みを解決する必要はないのよ。今、この学院の生徒たちは、お悩みを抱えてる人が多いのよ。そうそう、お悩みを聴いてるのが、あなただって事は、内緒にしておいてちょうだいね」

 とお茶を飲みながら、お婆さんは言う。


 そりゃそうよね。殿下から婚約破棄された元婚約者がお悩みを聴いてるなんて知ったら、誰も来ないわよね。私もお茶を飲みながら、頷いた。




 お悩みの聴き方は私の好きでいいと言っていたわ。

 それに、無理にお悩みを解決する必要はないとも言っていたわ。


 うふふ、せっかくだから、悪役令嬢としてお悩みを聴きましょう。



 そうそう、私がお悩みを聴いてることは内緒なのよね。

 では、変装しないといけないわね。

 わ~、ワクワクしちゃう。楽しみだわ!






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