13 ロディ橋
見えてきたチェックポイントは、少し入り組んだ先にあった。
まるで本当に狼がいそうな森である。
怖気づいた図書局一行が戸惑っているうちに、先に向かっていたらしいグループが森から出てきた。
がっしりとした体格の集団だ。揃いのキャップから察するに、彼らは野球部なのだろう。見知らぬ僕らにも元気な挨拶をした彼らは、親切にもこの先に目的地があることを保障してくれた。
「ここまで来たならば、進むしかあるまい」
南方が決意を口にする。
果敢にも先頭を歩く彼の後ろを伊達と城之が続く。
「なんか、野球部の人たち、濡れてなかった?」
桶田が不安げに囁き、僕も気になっていたのだと頷く。しかし、駆け足で去って行く集団はあっという間にゴールの方向に消えていってしまった。
僕らの疑問は、すぐ解決することになった。
辛うじて整備されている狭い下り坂を抜けると、小さな滝が見えてきた。
そびえたつ岸壁から、雪解け水が零れているらしい。草木に覆われて薄暗い空間は陰気に湿り、道は雨上がりのようにぬかるんでいる。
崖の下には濁った池が広がり、滝のしぶきを受け止めている。
明らかに水で削られたような地形だ。池の真ん中に小島のようなものが確認できるのも、自然に生まれた光景なのかもしれない。
その小島に、学校で使っている机がぽつりと置かれている。自然と人工物がマッチしない光景に、まるで夢でも見ているかのような気分になった。
双方を結ぶのは、人が渡るのには少々心もとない丸太の橋だけ。
その橋の前に、見知った顔がむすりとした顔で座っている。彼を見つけた南方が声をあげ、後ろから続く皆が首を伸ばす。
「鈴鹿ではないか」
遠足の入口で受付をしていた男だ。今度は問題を出すために待機をしているようだ。
目印を首から下げていた鈴鹿は、現れた集団を見ると、陰気な瞳を更にしかめた。
「図書局か。案外、早かったな」
陰気でじめじめとした場所に相応しいぶっきらぼうな声だ。
立ち上がった彼は、南方が差し出したチェックシートを奪い取るように受け取った。
さいころの目とマス目を照らし合わせ、不正が行われていないことを確認する。手慣れた仕草は、彼が今日何度も同じことを繰り返してきたことを想像させた。
「生徒会も大変であるな。あちこちに駆り出されて」
「余計な労いはいい」
南方の言葉を撥ねのけた男は、僕たちが持つ地図を見て溜息をつく。
通ってきたルートが推測できたのだろう。彼が時計を確認するのを見て、僕も腕時計を確認する。
一つ前のポイントで、三年の局員である安藤と出くわした。
遠足が三回目である彼は、僕らが正規ルートと隘路を行ったり来たりしていることを知ると、穏やかな顔に同情を浮かべた。
僕は先輩のその表情で、僕らの行程がかなり無理のあるものであることを知ったのである。
更に聞いた話によると、昨年、エントリー問題対策のために図書局と合流した馬場と佐羽は、南方の提案で本隊と別行動をしている。
それが理由で彼らは道に迷い、三人は仲良く補習を受けることになったという。
「南方くん、地図読むのはうまくないよね」
あっさりと衝撃の真実を告げるが先輩が優しいだけはないことは、僕もいい加減気づき始めている。
南方至上主義の佐羽が不参加な理由に会得がいく。共に話を聞いていた桶田がわかりやすく青ざめ、時計を不安げに見下ろす。
無垢な一年を勇気づけてくれた安藤は、先のルートを教えてくれた。
安藤が地図につけてくれた印は二つあった。
ひとつは安全だが距離のある道。もう一つは危険だが、ゴールまで近い道。詳細までは教えてくれなかったが、危険というのは、おそらく目の前に広がる光景のことを言っているのだろう。
鈴鹿が不適な笑みを見せる。
「あの橋を渡れ、先に問題がある」
迷わずこちらの道を選んだ南方が、さすがの笑みを曇らせた。
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