10 情報収集
図書局一行は、ひとまず先を急ぐことになった。
目的が済んでしまえば、隘路は大幅な時間のロスである。
南方が急かし必死に足を動かしたが、最初の目的地に着く頃には他のグループに追いつかれている有様であった。
最初の試験は英語だった。
外国語を得意とする伊達があっさり回答し、女性陣の喝采を浴びる。
サイコロの運には恵まれず、次は三マス先のチェックポイントに移動する。
そこでは一年が覚えたばかりの古文暗唱をさせられ、なんとか時間内にクリアすることができた。
城之が勢いよく振ったサイコロは二の目を出し、息をつく間もなく次の教師の元に着く。
数学の問題は大学入試レベルと脅されたが、ここで理系の南方が思わぬ特技を見せた。公式の応用だとすぐに見抜いた彼は計算式を導きだし、短時間でクリアとなった。
四の目で向かうポイントは坂道の先にあった。
出だしが好調なだけに、ここで一行にはやくも疲れが見え始める。ほとんど休憩なしで歩いてきたおかげで前半の遅れは取り戻したが、運動不足の文化部にはきつい行程である。
疲労困憊で中学理科の応用のような問題を全員が解き、次のサイコロが五を出す。
次の升目まではまたしばらく歩くということだ。
坂下が距離を計算する。
最短ルートを導き出した彼は南方に褒められ、得意な顔を隠さなかった。
実際、彼は効率や優先順位をよくわかっているらしい。根が器用なのだろう。瀬成があの自慢話さえなければマシなのにとぼやき、横で聞いていた伊達が思わずといった調子で笑う。
十分ほど進んだ先で、開けた場所についた。
広い土地は駐車場らしい。今日は二河原高校が借りているという空間は、最初の休憩所となっているようだ。
ひとまず足を休めることになった一行は、時間を決めて一時散会となった。
サイクリングロードの駐車場を利用した休憩所は、例の最低ラインも兼ねている。
ここを通過した生徒は、出席扱いで単位がもらえるようだ。
体力に自信がない者、長く歩けない事情を持つ者などはここで脱落することも可能なようで、冷房が効いたバスが一台待機してあった。
休憩所で待機している教師に出欠を確認され、栄養補助食品を渡される。
何も聞かされていなかった一年も、この辺りですごろくの全貌を知る仕組みになっているらしい。
教師の説明によると、生徒の大半が通過した時点でバスは動き、その後、ゆっくりとコースを走る。バスに追いつかれた時点で生徒は強制的に脱落だ。
つまり、ここから先は時間との闘いでもあるらしい。
休憩がてらクラスメートたちの間を回ってきた桶田は、一行に合流すると、他生徒の状況を南方に話した。
「吹奏楽部の生徒に出されたエントリー課題は『墓場にいたるまで謎として残るスフィンクスに捧げものをせよ』だそうです。吹奏楽部は人数も多いので、あちこちで情報収集をしているようでした」
「ほう。今年の問題はどこも随分文学的だな」
南方は、礼儀正しい桶田がすぐに気に入ったようだ。
褒美を渡すように自分の分の補助食品を桶田に進呈する。素直に喜ぶ友人は、南方がぱさぱさするそれを苦手としていることを知らない。
「『失われた碧眼の血の味を答えよ』なんて課題もあると聞きました。ちょっと不気味ですよね」
「どれもなんか陰湿っていうか、答えさせる気あります? って感じ」
話を聞いていたらしい瀬成が批判の声をあげる。
桶田は途端に口ごもり、僕の背後にもぞもぞと隠れてしまった。
首を傾げる彼女に彼はシャイなのだと説明し、僕は教師の目を盗んで携帯端末を確認した。
時刻はすでに昼に近い。昼食は次の休憩所で取ることになるだろう。
「局長、馬場先輩から連絡が来ているようです」
「うむ。じゃあ、そろそろ出発がてら偵察結果を聞こうではないか。幸い、この先にもショートカットコースはある」
局長の決定に流川は不満の声をあげたが、伊達が大人しく従うため一年は強く出られない。
再び集まった図書局は、賑やかな理科部に見送られて駐車場を出発した。
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