13 椿斗真
椿斗真という人間について、今更ながら語らせてもらう。
僕は平凡な人生を歩む、平凡な男子高校生だ。
前述のとおり、中学校では部活選びに失敗をした。
元々、野球はお遊びでやっていた。小学校にチームがなく、野球をやりたい少年は市のチームに入っていた。僕がチームに参加できたのは高学年からで、それまでは親の了承が得られなかったのだ。
中学からは本格的に野球を始めた。
もちろん軟式野球の部活動ではあったが、大会に出れば先輩が強打を出して盛り上がることもあった。
様子が変わったのは中学二年の時。
それまで優しく部を引っ張ってくれた先輩たちが引退をほのめかし、二年の優秀な生徒から部長候補が選出された。皆から好かれ、ムードメーカーのような存在だった。
だが、僕は彼のことがどうしても好きになれなかった。
そして、相手も僕のことを敵視している部分があった。
細かな話は主旨にそぐわない為、割愛する。
いろいろあって僕は野球部から爪弾きに合い、野球を辞めることになった。代わりに受験勉強に精を出し、親が反対する私立高校の授業料免除を勝ち取った。誰にも文句を言わせない形で新しい制服に袖を通すことができた僕は、また新たなスタートを夢に見た。
しかし、現実は非道で、残酷だ。
過去の栄光に縋ることもできなかった僕は、門外漢ともいえる場所の扉を潜った。
読書は元々好きで、図書委員も進んで立候補していた。縁が全くない場所とは言わないが、まさか自分が学校でも地味で目立たない図書局に入ることになるとは思わなかった。
それも全て、南方の存在があってのことだ。
彼からの期待の言葉に、頬が緩む。
まだ彼を認めたわけではない。彼の欠点はすでに羅列できるほど把握しているし、今回のことも予想ができなかったのかと責める思いはある。
なのに、彼の期待には応えようとしてしまう僕がいる。
不思議な感覚のまま、指定されたスタート位置に着く。
コースに立つと、観覧席の全校生徒がよく見えた。
あちらから見て、学ランがどれくらい目立つのかはわからない。しかし、南方が持ってきた鉢巻はよく目立っていることだろう。「図書局」と書かれた鉢巻を結びなおして、僕はスタートの姿勢をとる。
思えば、先輩と協力して何かを成し遂げようとするのは、久しぶりだ。しかも、これまでのように誰かに指示されたポジションに立つのではなく、自分自身で決めた位置で自らの意思で走る。
ピストルが鳴る。
歓声があがる。
前に向かって飛び出した僕は、その瞬間、何かから解放されたような気分がした。
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