第163話 神様の前で愛を誓う。
伊勢神宮の外宮を参拝した僕と天野さんは、周遊バスで内宮へ向かう手前のバス停で降りた。
目的地は内宮なのにナゼと思う僕へ
「帰りにお払い町とおかげ横丁で食べ歩きしたいから、その下見よ」
人気の観光地で若い女性を中心に
その予習を兼ねてで
後々気付くがこの下見が僕に取って試練の始まりだった。
神社仏閣の参拝は信心深い老人のイメージが有った、しかし古来より一生に一度はお伊勢参りと言われた様に現代でも老若男女、熟年カップルから小さい子供を連れた若夫婦や両親と成人した兄弟姉妹の家族旅行と想像できるほど多くの人出に、内宮に続く参道のお払い町は賑わっていた。
「ソレとコレと、あ、アレも外せない・・・」
アレもコレもと欲張っても、そんなには食べられないでしょう・・・
歩く事、およそ十分で始めての景色に、あれは毎年秋の大学駅伝のゴールで見た大鳥居に僕の気持ちが高ぶる。
大鳥居の先は五十鈴川にかかる宇治橋は、日常の世界から神聖な世界を結ぶ架け橋と言われているらしい。
ここから先は神域だろう、正に身も心も引き締まる思い。
「裕人君、鳥居の前で一礼して、ここからは右側通行よ」
天野さんに言われなくても多くの参拝者は鳥居の前で一礼して、宇治橋の右側を歩いているし、橋の中央には分離帯みたいな10cm程度の段差が有る、そこを好んで歩く幼い子供が居ても注意する保護者は居たり居なかったり。
宇治橋を渡り長い参道の玉砂利を踏み、凛とした静寂の中に杉桧の大木に圧倒されながら、目的の正宮へ向かう。
これより撮影禁止の建て看板に、三十段ほどの石階段の上に建つ鳥居と『
一段の踏み幅が50cmは有る石段を一歩づつ、足を滑らせない様慎重に登る。
前を進む参拝者に続いて拝殿へ近づき、僕の横に立つ
「私、○○県○○市に住む天野サヤカと申します、天照大御神様の前で槇原裕人を永遠に愛すと誓います」
「え~」
驚く僕と周囲の参拝者を気にもせず、大きな声で誓いを経てた。
勿論、天野さんの氏名を聞いてザワツク若い女性も居て、当然のように取り出した
石段の手前から撮影禁止の神前、制服の守衛さんが『撮影禁止』の手板を上げて阻止してくれた。
「裕人君の順番よ」
これが『神様の前で愛を誓う』ってやつか、今の僕は顔から火が出るくらいに赤面しているだろう、それでも神様の前で愛を誓わないと天野さんの望みが叶わないなら、
「僕、槇原裕人は天野サヤカさんを永遠に愛します、と神様に誓います」
大きな身体の僕は天野さんの半分位、小さな声で愛を誓った。
携帯撮影を遮られた女性達は歓声を上げて拍手してくれるが、それはそれで恥かしい。
そこから僕の記憶が怪しくなり、正気に戻ったのは宇治橋を渡り、神域から日常の世界に戻ってからだった。
「まさか、人前で神様に誓うって、僕は死ぬほど恥かしかった」
大袈裟でなく本心の言葉に、
「恥かしいくらいで死ぬなら、私は撮影で千回以上死んでいるけど」
幼い頃から雑誌モデルを経験して場数を踏んでいる天野さんと、素人の僕では経験値が違う・・・
天野さんは往路で下見した参道グルメから揚げたてコロッケとミンチカツを購入して、その場で一口パクリの後に、
「裕人君、これ食べて」
え、天野さんが一口だけ食べたコロッケとミンチカツの八割は残っていて、
「僕が?」
「うん、沢山の種類を食べたいから、残りは裕人君が片付けて」
小食の
「お願いだから、手加減してよ」
「分かっているって」
「もう本当にギブアップだから」
「流石に辛そうね、最後はフレッシュジュースにしましょう」
生フルーツの果肉を絞り、太いストローをさした『丸ごとジュース』を購入して一口飲み、
「裕人君の口直しにどう?」
「無理っす」
「じゃあ、御土産に餡子餅と栗外郎を買いましょうね」
御土産に『伊勢の名物~』の購入なら大丈夫と油断した僕へ、
「ねえ裕人君、ここの名物はお茶と餡子餅のセットよ」
同じ店先で御土産のテイクアウト販売と、イートインの縁台に座り甘い餡子餅とほうじ茶を楽しむ参拝者を見た天野さんは、
「歩いて疲れたから、座って休憩しましょう」
参拝で歩いた距離より、食べ歩きで疲れたんじゃないのか・・・
縁台に座り少しだけ気が緩んだ僕は目的を思い出して、
「あ、御土産のお守りを忘れた」
「ちゃんと授かったわよ、裕人君、忘れたの?」
正宮で愛を誓い、宇治橋を渡るまで記憶を無くしていた間に、僕はお授け所で頂いたらしく、ポケットの中に『神宮』と書かれた小さい白袋が有った。
日本中の神社では『〇〇神社』とその名がお守り、お札に記されているが、本家の伊勢神宮ではお守りに『神宮』の二文字だけが記されている。
ほうじ茶と餡子餅を堪能する天野さんと一口だけ頂く僕を見ていた二人組の女性客らしき声が、
「ねぇ、あの子ってCMの天野サヤカちゃんじゃない?」
「似ているけど大人っぽい雰囲気よ、それより隣の大きな男性は彼氏かな?」
「え~彼氏じゃないよ、本当にサヤカちゃんなら十五歳でしょう、大人の付き人かボディガードじゃないの?」
「そうね、男性の見た目とは年齢差も有りそうだし」
若い女性二人は小声で話している積りだが、若い声の高さから全てが聞こえている。
まあ、そう思うよな、友達の少ない僕と国民的美少女の
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