第158話 まだお婆ちゃんに成りたくない。
約束した三月九日の朝、僕は
いつもの様に玄関のインターフォンを押し、いつもの様にママのエミリさんが僕を出迎えてくれる。
「裕人君、おはよう、サヤカが無理を言って御免ね」
「全然大丈夫です、伊勢の美味しいグルメに僕も期待してます」
知的清楚美人のエミリさんと会話するだけで僕は幸せな気持ちに成るのは、きっと初恋の人だから、と思う。
「裕人君 ちょっと待ってね」
家の奥からサヤカさんの声を聞こえる、きっと僕の母みたいなお出かけ前に念入りの
「裕人君、サヤカの誘惑に負けないでね、もしも時はこれを使って」
エミリさんが僕に手渡した『ゴク薄0.01㎜』の赤い
「え、どうしてこれを?」
僕の疑問に、
「若い男女が同じ部屋に泊まるって、何か有っても不思議じゃないでしょ、私的には裕人君の理性に期待するけど、もしもサヤカが泣き脅しで迫ったら優しい裕人君は断れないでしょう、その時はこれを使ってね」
そうじゃなくて僕が訊きたいのは、
「どうして、僕がLサイズなんですか?」
「あら、裕人君が受験合宿でこの家に泊まった日、私が寝ている裕人君のアレをアレしたでしょう、その時に多分裕人君はLサイズと思ったのよ」
爆睡中の僕が夢精して、それをエミリさんが始末してくれた、それも毎晩三回らしい、今思い出しても顔から火が出るくらい恥かしい。
「寝ている事とは言え、お世話に成りました」
「若い男子なんだから気にしなくて良いのよ、でもこんな事を言うのも変だけど、私未だお婆ちゃんに成りたくないから、ね!」
初恋の人に避妊具を渡されて『ね!』とか言われても、恥かし過ぎて僕の思考が停止する。エミリさんには『頑張ります』と告げた直後に、
「裕人君、お待たせ、え、ママと何を話してたのっつかあ、その紙袋は何?」
二泊三日の旅行ならシャツとボクサーブリーフ、靴下を其々二枚を小さなエコバックに入れて来たが、天野さんの質問に答えるよりサヤカさんの大きな
「え、これは三日分の下着だけど」
「嘘でしょ、裕人君は同じ服を三日も着るの?」
「毎日お風呂に入るし、食べ溢したり海に落ちたりしなきゃ、大丈夫だよ」
「え~マジ?もしも時は私が買うけど、ショップに裕人君のサイズが有るの?」
現在の推定身長193cm、体重75kgの僕は海外サイズのLからLLを着用するが、ユニケロやワークワンの既製服でも少し小さいが気にしてない。
「所で、サヤカさんはナニが?」
男性と違って女性の旅は何かと必要だと思うが、国際空港から二週間の海外バカンスに行く若い女性みたい\な大容量のキャリーバッグを二泊三日の国内旅行に僕は謎
不用だと思う。
「いってらっしゃい」
ママのエミリさん見送られて天野さんちを出発するけど、
「私のキャリーケースが重たい」
正確なサイズは分からないが、凡そ九十センチ近いキャリーは手荷物として航空機に持ち込めないと思う。
「僕が持つよ」
朝からこんな調子では先が思いやられる。
路線バスで3区、最寄の私鉄駅から名駅まで、そこで近鉄に乗換え三重伊勢へ、大阪方面の電車と間違えない様に行き先を確認して、天井まで窓が続く1列2列の予約席に座った。
「これってテレビで見た事が有る『しおかぜ』か『うみかぜ』だよね」
頼りない記憶から知った様な僕へ、
「ちょっと違うけど、何となく似ているけど」
正解は『しまかぜ』らしい、四日市を超えて白子くらいから海が見える景色に変わると天野さんに説明されたが、その手前の木曽川を渡り桑名で寝落ちした僕は車窓からの展望を見る事は出来なかった。
「裕人君、到着したわよ」
「もう伊勢に着いたの?」
「そうよ、ここから車で移動だから急いで」
寝惚け
「サヤカちゃん、こっちよ」
見知らぬ女性がこちらに手を振り、
「彼が裕人君ね、想像どおり大きいわね、あ、始めましてサヤカちゃんのメイク担当だった
珍しい苗字と思う僕へ、智美さんは三重県の津市に多い姓と言う。
「始めまして、槇原裕人です」
「裕人君の事は毎日の様にサヤカちゃんから聞かされた私には始めましてじゃないけど」
小学二年生からチャイルドモデルを始めたサヤカさんを担当したヘアメイクの智美さんがサヤカさんをからかう様に言うから、
「お姉さん、裕人君には言わないでよ」
頬を赤らめるサヤカさんと智美さんは仲の良い姉妹のようにも見えた。
駅まで迎えに来てくれた智美さんが運転するオレンジ色の軽自動車で最初の目的地に、大きな岩と少し小さな岩は僕でも知っている夫婦岩、その二つに掛かる綱を交換するニュースを見て、大きな波が打ちつける神事に命がけで危険だと感じた。
夫婦岩の近くに二見輿珠神社が有り、それが伊勢参りの正式な参拝順路と智美さんから聞かされ、
「神様に願いを求めるより、常日頃の無事に感謝とお礼を告げるのが大事よ」
初詣で少しの小銭を御賽銭で大きな願いを望み、叶えたまえと願っていた僕の無知は恥かしい限りだ。
後日談と言うより後時間談は、
次の参拝は何処だろう、そう思う僕へ
「裕人君、近くの
僕の苦手な野生動物の匂いに、先手を打つサヤカさんは、
「アザラシやカワウソ、セイウチにもタッチ出来るのよ」
来場経験が有るらしく、僕の手を引いて先へと進む。
因みに大きなキャリーケースは智美さんの軽自動車に積んだまま、今夜の宿まで送ってくれるらしい。
ペンギンやイルカ、オットセイかアシカの区別が出来ない僕でもカワウソとゴマフアザラシに触れて嫌な匂いがないと知ったけど、推定体重900kgのメスでも長い牙が生えているセイウチにタッチするには少し躊躇った。
他の来場者の子供に並び触れてみる、それは油の入った風船みたいなタポタポもしくはポチャポチャの柔らかい手触りだった。
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