第155話 卒業式の後に。

今回のエピソードも中学の卒業式後に過去の伏線回収が続きます。


もう通うことの無い灰原中学校、三年四組の教室から北玄関下駄箱の前で、

「槇原君、一緒に記念写真とってよ」

隣の隣のクラス、自分の四組以外の女子から声をかけられた僕へ、


照れる事も無く『俺は槇原マッキーの親友だ』と言える橋本ハッシーは、

槇原マッキー、将来のファンサービスだと思って応じろよ、勿論俺も一緒に写るし」

数人の女子と一緒にスマホ写真を撮られ、次に現れたチビッ子から、

「槇原先輩、私に約束のボタンを下さい。あ、一個も取られてないなんて、やっぱりモテないんですね」


胸がサイズアップしたと言う、一年生の浅川ユイは憎まれ口を言いながら僕へ右手を差し出す。

「いいか、これからは女性の清潔感と恥じらいを忘れるなよ、浅川ユイ」

これで会えるのも最期だと思い、一年のチビッ子をフルネームで呼んだ。


「もう先輩、私に告白したいなら、素直に好きって言ってください」

この減らず口は生まれ持っての性分だろう・・・


ひと通りの用件が終わった僕へ、記憶に有る一人の女子生徒が、

「槇原君、私の事を覚えている?」


彼女の名は確か佐藤さん、僕が学習や性教育を学んだ人生の師匠、看護師の奈央ねえさんの妹で、二年生のハイキングで足を挫き僕がふもとまで背負ったアイナさんだった。


「槇原君って、お姉ちゃんと面識有るよね、そのお姉ちゃんの異動願いが通って転勤するの、私も受験が終わるまで言えなかった」


奈央ねえさんの転勤は初耳で、合格発表で桜が咲いたら僕から連絡しようと思っていた。

「佐藤さんのお姉さんはどこに転勤するの?」

「うん、それなら直接お姉ちゃんに訊いたら善いよ、ハイ」


佐藤アイさんは自分のスマホから奈央さんをコールして、それを僕にを差し出し渡す。

数回の呼び出し音から、

「アイナ、何の用?」

「僕、槇原です、アイナさんからお姉さんの転勤を聞きました」

少しの沈黙から

「裕人君の発表まで言わない積もりだったのに。仕方無いね」

奈央ねえさんの説明では、

回復が望めない大病を患う高齢の入院患者は、誰もが自宅で最期を迎えたいと願う、それでも不安な家族は入院を望むが、実際に入院していたら一ヶ月で亡くなると思われる患者も自宅で家族と暮らしたら三ヶ月、半年以上生存できて最後は笑顔で旅立ち、遺族も訪問医に感謝の気持ちを伝える。

『なんとメデタイご臨終』の著者で医師が勧める自宅介護の訪問診療に同行するナースを希望し、専門科の有る県北部の神山総合病院へ転勤すると言う。


「そう言う事だから、もし裕人君が私に会いたくなったらイツでも遊びに来てよね」

「あ、あ、はい、分かりました」

妹のスマホを借りた目の前で、奈央さんに元農林高校の青竹高校から進学校の白梅高校に出願変更したと、僕は言えなかった。


それ以上に何も言えなくて、妹の佐藤アイナさんへスマホを返した。

卒業式と同じ日に奈央ねえさんとの別れが来るとは、一生忘れられない日に成るだろう。


感傷に浸る時間も無い僕へ、

「あの、槇原君、ちょっと良いかな?」

見覚えはあるが出身の小学校も違い、同じクラスに成った事も無い名前を知らない女子が、僕を呼び止めた。


「君は?」

「元陸上部で1組の安田、安田秀美です」

あ~、名前を聞いて思い出した、夏の中体連で80mか100mハードルで県大会入賞した女子だったが、なぜ今ぼくに?・・・


「安田さんの用件は何?」

回りの目を気にしながら少し小さな声で囁くように、

「あの、私、部活で虐められていて、吉田さゆりさんと天野サヤカさんに助けてもらいました」


陸上部の虐めを何でバスケ部マネの吉田さゆりさんと天野サヤカさんが、僕の疑問は深まるばかり・・・


「もう少し詳しく」

僕の問いに安田さんは躊躇ためらいながら、


陸上部の部長、後藤真理さんは走り高跳びで最期の中体連に挑み敗退し、安田秀美さんは県大会で5位入賞した。

部活引退後から後藤真理こと『ゴマリ』から安田秀美さんへ虐めが始まった理由は、県大会の成績で私立清美高校へ陸上推薦を獲得した安田さんへのヤッカミと妬みだと言う。


「それで安田さんは吉田さゆりさんに相談したの?」

「はい、吉田さゆりちゃんは小学校からの友達で、それに私の他にも救われた女子が居て」


同学年で男子の虐めを聞いた事は有るが、女子は虐められない為に其々のグループを作り、同じ部活動で助け合う仲間のはずだが、バスケの様な団体種目でない個人種目の陸上部で女子の虐めを始めて聞いて驚き、それを助けた吉田さゆりさんの手段に好奇心が湧く。


「どんな風に?」

後先を考えない僕の質問に安田さんは、

「えっと、流石に吉田さゆりちゃん一人だと心配だから天野さんも一緒に居てくれて」

たしかに吉田さんの見た目は老舗旅館の女将さん風でショートヘアとキリリとした顔立ちで気が強そうに見える、いや気が強い。


「それで?」

その時の後藤さんは同じ陸上の女子二人を連れて居て、吉田さんが『虐めなんて格好悪いから止めなよ』って言ったけど、後藤さんは『バスケ部には関係無いから黙って』と言い返し、睨みあう二人へ天野さんが『私、小学生の頃から雑誌モデルしてて、学校でクラスの女子に虐められてたの、虐めた方は忘れても虐めらた私は今も忘れてない、きっと将来も忘れない、もしも私を虐めた女子が不幸な事件の被害者に成っても同情しない、むしろザマぁ見ろと思うから、人から一生恨まれて生きるなんて悲しいよ・・・的な言葉に後藤さんと仲間の二人も黙り、『ゴメンなさい』と頭を下げた。


「吉田さんと天野さんのお陰で、私は人を恨まない人生を歩けると思う、有難う」

え、なんで僕に礼を言う?


「僕に有難うと言われても困るな」


「感謝したい吉田さんと天野さんには『そんな前の事は忘れた』と言われて、誰かにお礼を言いたい私の自己満足です」


「だから何で僕に、吉田さんに感謝なら橋本に言えば?」

「橋本君は口が軽いから関係ない他の人にも言うでしょ、口の固い槇原君なら私の気持ちを汲み取って」

つまり橋本より僕へ謝意を伝えて安田さんは自己完結したいらしい・・・当たり前だけどこんな事を僕は誰にも言わない。


そう言えば放課後に『今日は吉田さゆりさんと用事が有る』と天野サヤカさんが言っていた事を思い出した。

これも僕が知らないだけで伏線だったのか・・・

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