第152話 男子を持つ母の務め。

「本当の息子に言われたみたいで、とても嬉しいわ裕人君、もう一つだけ良いかしら?」

『有難う』の言葉だけじゃなく一つでも二つでもエミリさんが望むなら、

「勿論です、どうぞ」


娘のサヤカさんと違って、ママのエミリさんは無茶振りはしないだろうと安易に答えた僕へ、


「裕人君、そのまま立ち上がって私をハグして」

え・・・ハグって・・・

「やっぱりハグは駄目なの?サヤカの為に?それとも私がオバサンだから?」


実齢より若く見えるエミリさんは、幼い頃の僕に取って初恋の人だったが、

「エミリさんは女優さんみたいに今も綺麗で若くて全然オバサンじゃないです、でも何でハグですか?」


「今から説明するからハグして、早く」

エミリさんに理由が有るならハグして聞こうと立ち上がり、僕は腕でエミリさんの細い身体を抱きしめた。


推定160cmの娘、サヤカさんより少し背が低く、155cmのスリムなママのエミリさんはシャンプーリンスか化粧品の甘い『くちなしの香り』がして、僕が手を回した背中から腰まで全てが柔らかいと感じながら、エミリさんの説明を待った。


「私の高校時代に初恋の人が居て・・・」

エミリさんが入学した高校の同学年に、当時人気だったバスケ漫画のスーパールーキーに似た名前の男子生徒が居て、男子バスケ部の彼は『古川君』、高身長で無口のイケメン、同級生の女子が誰も憧れて個人応援団が出来るほど、抜け駆けは禁止されたが一人二人と彼に告白するも全ての女子にゴメンなさい。


『もしも、彼と交際できて、それから結婚したら彼ソックリの大きな男子を産んで、自分が産んだ息子にハグされて・・・』

人気の古川君に告白する勇気が無いエミリさんは将来を妄想するだけで満足していたらしい。


実年齢三十五歳のエミリさん、今も心は乙女のまま、それに共感するけどエミリさんの甘い香りに僕の一部が反応して、


「あのエミリさん、もうハグを止めていいですか?」

「もう少しだけハグして、お願い裕人君」

エミリさんに回した手を緩めて、二人の間に隙間を作る僕に身体を寄せて密着させるエミリさんへ、

「済みません、この状態はちょっと恥かしいです」


「私みたいなオバサンに裕人君のアソコは反応してくれるの?」

これは思春期男子の生理現象だからと言い訳しながら、それでも赤面していると分かる。


「大丈夫よ、合宿初日に私が裕人君の夢精を処理してから・・・」

一度眠れば朝まで爆睡する僕の夢精をエミリさんが処理してくれたなんて、聞かされた僕は只ただ恥かしいし、それに『から』って?


「エミリさん、それは本当ですか?」

「そうよ、思春期の息子の為なら母は平気だけど、裕人君のアソコを蒸しタオルで綺麗にしてたら大きくなるから驚いて、それを拭いていると次も出て拭いて出してを三回は繰り返したわよ」


激安スーパーで三枚入り七百五十円の黒ボクサーブリーフを五パック以上まとめ買いする母のお陰で、僕が睡眠中に同じ柄の下着をエミリさんに交換されていたとは知らなかった。


入試までの合宿中は午前零時まで受験勉強して、一時間は入浴するサヤカさんを見送った僕はトイレで自慰して、先に布団へ入り朝まで爆睡する僕がエミリさんのお世話になっていたなんて、道理で心身ともに爽快な朝を迎えられたはずだ。


「母親が男子の世話をするのが当たり前でしょ、裕人君のお母さんは違うの?」

とか訊かれても僕の母は、僕が小学校に入学する前に『裕人、これからは自分の事は自分でするのよ、もしお漏らししたらパンツは自分の手で洗いなさい』と言われて、『僕はオネショやお漏らしなんてしない』と言い返したが、放課後に校庭で遊んだ帰り、水道の水を飲みすぎ、猛烈な尿意に家のトイレに間に合った安堵から少しだけ漏らした。お腹が緩い時にオナラの最期にオマケが出た時も自分でパンツを洗い、人生初の夢精した朝もパンツを手洗いした。


母親に夢精を始末される男子は居ないと思うが、もし居たとすれば間違いなくマザコンだろう・・・

「夢精の後始末で母の世話に成るのは違うと思います」

僕からエミリさんへ精一杯の言い訳に、


「あらそうなの、でもね裕人君の大きさと硬さも立派だから、恥かしがらなくて大丈夫よ」

改めてエミリさんに感謝するが、今は恥かしくて何も言えない、それでもエミリさんはハグから僕を解放してくれない。


大人の女性の色香にクラクラする思春期の十五歳、僕が全力の戦闘形態に成る頃に玄関チャイムが鳴ると同時に、娘のサヤカさんが帰ってきたらしいが、それに気付かない僕とエミリさんを見て、


「なんでママと裕人君が抱き合っているの?娘の彼氏と禁断の恋なの?」

その声に驚き、エミリさんから離れた僕と、


「サヤカ、違うわよ、裕人君に私の恋バナを聞いて貰っていただけよ」

元々はそう言う話からの流れだった。


「裕人君とママは怪しい、え、裕人君の顔が真っ赤よ、ママが初恋の人だから裕人君を誘惑しないでよ、母娘ははこどんぶりなんてキモイ」

それは怒りに任せたサヤカさんの言葉に違いないが、


「サヤカ、そんな言い方すると真面目な裕人君に嫌われちゃうよ」

「え~、なんで?」

きっと人生経験の差だろう、母の一言で娘のサヤカさんは怒りのほこを納めた。


それから十数分後、受験ご苦労様会が始まり、エミリさんが用意した僕とサヤカさんの好物を美味しく頂いた。


「ねえママの恋バナって落ちは?」

そこは僕も気に成っていたが訊けず、代わりに娘のサヤカさんから母が問われた。


「裕人君に雰囲気が似た古川君は大学でもバスケを続けて卒業後に就職したけど、私は二十歳で学生結婚したから、古川君のその後は知らない」

以前に聞いた、サヤカさんのパパは童顔中年の光一さんは東京本社に単身赴任、エミリさんより十歳近く年上で四十代後半との事。


「なんでママは小柄なパパを選んだの?」

「背の高い男性より可愛いパパみたいな男性がタイプなの」


幼い頃に憧れた僕の初恋が散った、そんな気がする。

「そうね、私もママよりパパに似ているよね」


美人の母より父似の美少女サヤカさん、パパは永遠の美少年なのか・・・


後日談的に、

パパさんの写真を見せてもらった僕は、『ガラスの』を歌う王子様に似ているパパを見て納得した。




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