第147話 進路を迷います。
一月下旬に私立高校の合格発表が有り、私立単願の級友は全員が合格して安堵の表情を見せるが、これから公立受験を向かえる併願の生徒にそんな余裕は無い、クラスには進学先が決定し受験から解放された生徒は春の桜色と、これから公立を受験する生徒の雰囲気は冬の雪空を思わせるダークグレイに別れている。
授業の間の休み時間で個別に学習する生徒を避けるように、進路が決定した生徒達は放課後のカラオケやファミレスに誘い、更には卒業旅行の計画も囁き始めた。
それはそれで仕方無いと思うが、それを気にする級友が居ないわけが無い。
高校受験から解放された私立進学の生徒は早々に下校して、公立受験を受ける生徒は、コケシちゃんの指導で公立の出願書に中学名と氏名を記入して提出した。
「槇原君が青竹高校を志望ならスポーツ推薦を考えてみた?」
担任のコケシちゃんが言う推薦入試の内容が気になる僕は、
「その推薦なら安心して受験できますか?」
と尋ねてコケシちゃんから『そう、面接で失敗しなければ大丈夫』を期待した。
「ただし推薦合格したら絶対に入学してよ、万が一でも入学辞退は出来ないよ」
つまり推薦で青竹高校に合格したら、全国大会ベスト8の私立美加茂高校を選択から外す事になる。
公立合格発表の日まで熟慮して、どちらか進路を決めたい僕は、
「一般入試で県立青竹高校を受けて、私立美加茂高校のどちらか最期まで熟慮します」
「いつも冷静な槇原君でも迷う事が有るんだ」
コケシちゃんの冗談とも取れる言葉に僕は、
「人生の選択に迷わない人間は居ないです」
と担任に答えて帰宅した。
◇
中学毎に集められた願書を志望校へ提出して、これから数日後に各自の生徒へ受験票が手渡される。
「みんな、高校名と受験番号と氏名を確認してね、これから先の一週間に出願変更できるから、地元のテレビニュースで志望倍率に注意して出願変更するなら成るべく早く言ってね」
志望校の志願者が多くて心配なら、偏差値レベルを一段階下げてでも確実に合格したい生徒へのアドバイスに、自分には関係ない話と聞いていた。
その日の仕事を終えた両親へ『父さんの母校、県立青竹高校と私立美加茂で迷っています』と報告した。
「裕人が選んだ高校に進学すれば良い、それでも迷う理由を教えてくれ」
高校時代はバスケット選手だった父さんの疑問に僕は、
「全国常連校の青竹は三年生中心メンバーで毎年二回戦止まり、今回県代表の美加茂高校は一年二年も出場して三回戦を勝利の全国ベスト8、顧問の指導で年功序列より実力主義の違いじゃないかな?」
父へ本当の気持ちを伝えた。
「確かにそうだな、ただ何処の私立もそうだけど、全国各地から優秀な中学生をスカウトして全国大会優勝を目指すチームを作るから地元出身の生徒が居ない、裕人は美加茂から声が掛かって無いだろう?」
それは父が言うとおりで、愛知名邦の選抜を受けた僕でも否定できない。
「うん、そうだけど?」
「もしネットでウインターカップ・ベスト8の美加茂出場メンバーを見れば分かると思うが、地元出身選手が居ても精々一人、センターかパワーフォワードの裕人とポジションには2M越えの留学生が居るはず、私立と公立の違いが分かるか」
父の言葉で結果を求める私立と上下関係を重んじる県立の違いを気付かされた。
「父さん、青竹高校を受験して、合格発表の日まで迷います」
「裕人、頑張ってね」
母の言う頑張っては文武両道、バスケと学習面も含めての意味だろう、そして父から、
「俺もそうだったが、青竹のバスケは二年間の努力から三年生で全国出場を目指す、顧問の安田先生は厳しいが間違った事は言わないからな」
高校見学で感じた安田先生の『部活動も教育の一環』上級生を中心にチームを作る年功序列に疑問を感じていた僕は、それでも父の言葉を肝に銘じた。
願書提出から数日、ローカルテレビの出願速報から青竹高校の定員割れを見て、元県立農林高校の青竹高校は県立商業高校、県立工業高校より受験生に人気が無いと知った。
それでも定員割れなら不合格の心配は無いだろう・・・
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