第143話 玉金神社は女性に人気。
半分のカップ麺とお餅一個のお雑煮を食べて、
普段着の僕は防寒重視でフリースの上にダウンパーカーを、ボトムスはロングタイツと防風チノパンの重ね着に冷えないソックスと、最近小さく感じるワークワンの防寒スニーカーを履いた。
「急いで準備するから、裕人君ちょっと待ってね」
僕の母もそうだが、女性が出かける前に時間が掛かるのは仕方が事で、それに文句を言わないのも男の
かれこれ五分、いや十分が経つ頃に、
「お待たせしました」
と玄関で待つ僕の前に天野さんが登場する。
普段のノーメイクでも人より白い肌に今日は化粧したピンクの頬と大きな眼元、艶々の唇はリップの効果で色っぽく見えるそれは渾身のメイクと言えるだろう。
「
「だって、
約一年、学業専念を理由にモデル業を休養している
「大きなお世話かもしれないけど、神社に多くの参拝客が人気モデルの
一般人の僕が心配しても、当の
「大丈夫だって、休業している私の事に気付く人は居ないし、業界でそこまで人気じゃ無いし」
心配性な僕の不安が杞憂になれば幸いだ・・・
そんなやり取りの後に自宅を出発した
「始めて行く
僕の質問に、
「駅まで歩いて、赤い私鉄で
住宅街から最寄駅に続く大通りへ出て、片側二車線の車道横の歩道を歩く、同じ様に初詣へ行くのか、帰る人たちが並んで歩く僕と
以前なら人気美少女モデルの肩書きを持つ
「やっぱり
そんな不安を口にする僕へ、
「え、私は人に見られても気にしないから、裕人君も気にしなくて善いわよ」
モデルの経験からメンタルが強い
もしも僕と歩く
「ママ、あのお兄ちゃん、凄く大きいね」
推定三歳前後の幼い女児が一緒に歩く若いママに僕の感想を素直に言う、それに気付いた
「ほら、回りから目立つのは私じゃなくて、身体が大きな裕人君でしょう?」
普通の人より大きいのは認めるが、本当の所はどうなんだろう・・・
「ふっふん、私と裕人君は『少女と魔人』ね、なんか楽しい、二人で出かけるのは初めてかな?」
初めてのお出かけか・・・え?
「違うよ、夏祭りに行ったし、花火大会も行ったよ」
「なんだ、憶えているんだ、忘れっぽい裕人君は忘れていると思ったわ」
確かに午睡が好きな僕は記憶の整理から、嫌な想い出は消去するがそこを指摘されて《さやか》も、あ、そうだこの機会にあれを・・・
「勿論憶えているよ、僕と天野さん記念日だって忘れてないよ」
「え、本当に思い出してくれたの嬉しいわ、じゃあ、あの日の出来事を言葉にして」
思い出した振りで天野さんを誘導尋問で聞きだそうと策略したが、上手く行かないのか、
「ええっと、五歳のバレンタインでチョコを貰った僕が、
半分は捏造の回答に、
「その婚約までの過程が大切よ、ねえ裕人君、本当に憶えているの?インチキしてない?」
インチキと言われればそうだが、これ以上思い出せないものは答え様が無い。
「部分的に怪しい記憶で自信がないけど、正解で良いでしょう?」
「一番大事な事が抜けているから、卒業式までに思い出して」
世間的に美人は気が強いと言われるが、
乗車券を購入して赤い私鉄電車に乗る僕達の話題は運命の記念日から、これから参拝する玉金神社の参道屋台に変わり、
「私、小さい頃から林檎飴に憧れているの、他にも食べ歩きとか」
祭りや縁日の屋台なら、ソースが漕げる焼きそばやたこ焼き、醤油の匂いが誘うイカ焼き、女子は甘い鯛焼きに焼きカステラと小さい子供なら綿菓子も人気だろう・・・
「うーん、
「前に縁日で買ったことが有って食べようとしたら、私の口じゃ林檎飴が大きすぎて齧れなくて、だから裕人君が大きくガブリして、そこから私が食べるの」
天野さんの歯が起たない林檎飴を僕が齧って起点を作るのか、その理由は分からなくも無いが、
「人前で
今更だが一応訊いておく。
「全然、裕人君が気にするなら公衆の面前で直接キスしてから林檎飴を食べても良いわよ」
「あ、ごめん」
訊いた僕が馬鹿だった。
「それとね、私の両親が食べ歩きはお行儀が悪いって言うから、家に持ち帰った鯛焼きは美味しくないでしょう?」
縁日のグルメは熱々だから美味しい、冷めた鯛焼きやたこ焼は美味しくない、天野さんが言いたい事は尤もだと感じる。
「そうだね、お参りした帰りに買い食いしようか」
「うん、行きに見てから帰りに買って食べ歩きね、楽しみ楽しみ」
楽しみを二度言う、それほど喜ぶ女子の心理を男子の僕は不思議だと思う。
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