第139話 大晦日の訪問者。

十二月三十一日、正午を過ぎて午後三時、円城寺商店街は午後四時出発の年末旅行へ出かける為に各店が営業終了する。


五十軒の内、子供が幼い若夫婦とか、親戚身内が集まる実家に帰省する、温暖な南国で年を越すなどの辞退する店主を除いた、約三十組の中年夫婦が予約したバスに乗り込み、歴史ある某温泉地へと出発した。


そんな両親を見送った僕は速攻でスーパーカメスエに出向き、母の小言が煩いから普段は控えているカップ麺の醤油味、シーフード味、カレー味にプラスして、元日の為に鴨葱そば味を購入、未成年の僕が正月気分を味わうアイテムで『ウィルシンソン』のプレーンとレモン風味を二本づつ、甘いお節は食べないが、そのまま食べられる一人分の数の子も購入して帰宅した。


忘れないうちに母に頼まれた白赤歌合戦と翌晩に放送される一流芸能人チェックのバラエティを録画予約して、少し早いが今年の汚れは今年の内に落とすと、毎年の大晦日は母が新しい下着を用意してくれる、そして今年は午後五時に入浴して出た。


母の希望でネット購入した高速パソコンの二十二型モニターで、無料エロ動画をオカズに自慰行為オナニーふけろうと画策している。

この時の為にチョイスしたセクシー女優は岩田あゆみさん、年齢は推定で二十代後半から三十代前半、バストは大きくも小さくもなく標準サイズで、何より肌が綺麗で下の毛は小さく揃えられて、眉間にシワを寄せて悶絶する表情が思春期の男心を擽る。


今までは8インチのタブレットで見難かったが、年末年始は無料エロ動画を楽しむ計画の僕だ。

もちろん、大きな画面でNBAアメリカバスケのネット配信も見るつもりだが、睡眠時間を確保したいから視聴予定は未定。

そんな妄想する洗面所で髪を乾かす僕の耳に、玄関からのインターフォンが小さく聞こえる。

この家は留守ですよ~、誰も出ませんよ~と無視していたが『ピンポン。ピンポン、ピンポン』の連打が止まらない。

これは警察に通報モノの違法営業だよ、110番する前にカメラ付きインターフォンでそのつらを見てやろうと5インチモニターを見た。


止まらないピンポン嵐の犯人は、幼馴染の天野サヤカさんだった。

「今開けるから待ってよ」

インターフォン越しに答える僕より先に、開錠した玄関扉を天野サヤカさんは開いた。



「寒い寒い、裕人君が早く開けてくれないから凍えて死んじゃうよ」

白いダウンコートの天野サヤカさんは大袈裟に言うけど、モデル特有の余計な脂肪の無いスリムな体型は冬の寒気に弱いのだろう。


「ごめん、今風呂に入ってたからインターフォンの音に気付かなかったよ」

「ファンヒーターは何処?え、寒いのに点いてないの?」

だから風呂上りだと言っているでしょう、まったく僕の話を聞けよ・・・


運よく秒速点火のスイッチが入っていたから、数秒後には『ボワッと』温風が出始めた。

「改めて天野サヤカさんに聞くけど、今日はどうしたの?」

「うん、裕人君が独りで年越しするって聞いたから、私が御手伝いに来たのよ」


今日から三日間、僕は自由に孤独を愛する予定が、それでも不思議なのは。

「僕が独りって誰から聞いたの?」

単純な疑問から解いていかないと話は先に進めない。


「えっと、私のママが裕人君のお母さんから聞いて、それを私に教えてくれたの」

「じゃあ、サヤカさんのママは一人?」

僕の家に来たという事はサヤカさんのママは家で独りボッチなのか、


「ううん、今ごろママはパパとハワイで年越しの飛行機に乗っているから心配しないで」

「え、どうしてサヤカさんは一緒にハワイに行かなかったの?」

僕の質問は当たり前だと思うが、

「一応私も受験生でしょ、それにハワイって何度も行っているし、お正月は日本人だらけで退屈だし、片道八時間も飛行機に乗るなんて我慢できない」


ハワイどころか、海外旅行の経験が無い僕はパスポートを見た事も無いし、そうじゃないよ、まさかの?

「ひょっとしてこの家で年越しする積りなの?」

「そうよ、裕人君と二人きりで新年をお祝いする予定よ」


「そんな事、僕は聞いて無いよ」

「うん、私から裕人君に言ってないし、その方がサプライズって感じでしょ」


「僕一人だけから食事の用意も出来てない」

「心配ないわ、裕人君のお母さんに習った好物を用意してきたから」


天野さんは手に提げた風呂敷から三段重を見せて、誰にでも分かるドヤ顔を僕に見せた。

そして今気付いた、天野サヤカさんが引いているキャリーバッグには、三日分の着替えが入っていると想像できる。


「私、お雑煮作りも練習してきたわよ、いっぱい食べてね」

焼餅よりお雑煮の餅はお腹に溜まる、いっぱい食べたら正月に予定したカップ麺食生活が阻止されてしまうし、さらに無料エロ動画視聴で自慰行為が出来ないだろ、なんてこった・・・


「詰まらない質問をするけど、天野サヤカさんは毎日通うの?それとも僕の家に泊まるの?」

答えは見えていたが、僅かな希望を乗せて訊いた僕へ、

「本当に詰まらない質問ね、折角裕人君と二人きりだから正月の三日まで宿泊するわ、でも裕人君が一人エッチしたい時は言ってね」


あぁ、思ったより気使いしてくれるんだ、その時は自室に篭って自慰に、あ、パソコンは居間に有る。

「ウン、したい時は天野サヤカさんに言うよ」

「今日は素直ね、裕人君の一人エッチをスマホで撮影して将来の役に立てるから、そうだ、私は未来の婚約者だから、裕人君の一人エッチを手伝うわ」


例え天野サヤカさんが僕の婚約者だとしても、一人エッチを手伝われたら、それは性的マッサージで、もうそれは自慰行為オナニーじゃないでしょう・・・

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