第137話 幾つかの驚き。

僕が志望する県立青竹高校は県下一のバスケ強豪校、年間の公式戦ではインターハイ、国体少年の部、ウインターカップでは過去に何度も全国大会に出場するが、初戦に勝利しても二回戦敗退がいつもの事。


高校野球より注目度が低い高校バスケ、全国大会出場の代表校を新聞記事の片隅で眼にするだけ、それが今年は私立美加茂高校が県代表でウインターカップに出場する。


先輩後輩も実力主義でメンバーを組む私立美加茂高校と違い、『校内の部活動も教育の一環』的な、上級生を主とした年功序列な青竹高校の安田先生の指導を、高校見学で知った僕はガッカリしたあの日を忘れてない。


それでも私立美加茂高校が初戦や二回戦敗退なら、何処の高校が出てもこの地区のレベルが低いと立証される。

十二月、クリスマスが近づく頃に、東京体育館を会場に高校バスケ全国大会、通称ウインタ-カップが開催される。


北海道、東京、愛知、大阪、福岡の大都市から出場を勝ち取った強豪校が毎年の優勝候補であり、携帯スマホは無いがサポーツ終了した林檎タブレットのサファリで試合のリザルトを確認できる。


え、え、え、良くて二回戦敗退と想像していた私立美加茂高校が強豪校との激戦を制して三回戦突破ベスト8に進んだ、これは歴史的快挙と呼ぶに相応しい。


公立と私立高校を併願する僕は自宅からJR通学できる美加茂高校を私立の志望校に決めた。


年末に開催される高校バスケ全国大会、ウインターカップは男女ともに決勝戦のみ地上波で全国放送される、僕は毎年レコーダー録画して正月休みに視聴する。

それより二週前、橘家のクリスマス&お誕生日会の翌週。

月曜の放課後に僕は美術部室に引籠る、もとい、創作活動中の橘葵君を訪ねた。

「葵君の次作、女神のアフロディーテは?」

「未だモデルのお願いしてない」


僕が想像するあの女子生徒にモデルを依頼するのは、公立高校の受験が終わってからと橘君の気配りからだろう。


「それより、槇原君は蘭姉さんに何か言ったの?」

「え、なんで?」

葵君から急な質問に戸惑った僕は、逆に質問で返した。


「あの日から、蘭姉さんが槇原君は学校でどんな生徒って僕に訊くんだ」

「別に普通だろ」


「うん、そう答えたけど、小さな噂でも良いからって言うから」

「言うから?」


「都市伝説的な噂だけど、オッパイが好きとか、丁寧なエッチでバージンの女子でも痛くしないとか、女性より先に絶頂しないとか、でもこれは噂だよね」

「あぁ、根拠の無い噂だね、まさか蘭さんに言ってないよね葵君」


「ゴメン、僕も真相を分からないから、取捨選択しなくて全部報告した」

「それだと誤解されるね」


「大丈夫、二十歳の蘭姉さんは大人だよ、でもね、背が高いのがコンプレックスだから『可愛い』に弱いから禁句だよ」

「え・・・」


「槇原君、蘭姉さんに『可愛い』って言っちゃったの?」

「うん、僕の冗談に赤面するから、つい『可愛い』って弄った」


「僕から、あれは槇原君の冗談だよって誤魔化しておくよ」

「葵君頼むよ、僕の代わりに謝っておいて」

この後、暫くは何も起きなく、年末に向っていく。


僕の家にはノートパソコンが一台有る。

それは数年前のモデルでOSもメーカーサポートが終了したウインドウズ7、主な使い道は父が店主の『槇原ベーカリー』の収支経理と電子申告のEタックスだが、最近は献立に苦労する母が『コックパッド』を閲覧して、その日のメニューを選択している。


電源スイッチを押してパソコンを立ち上げるが、起動するまでに一分以上待たされる母はその間にトイレに行き、PCの前に戻った時には用件を忘れて自分にイライラする。


「あ~新しいパソコンが有れば快適なのに、きっと高いよね」

母は大きな独り言で父と僕へ希望をアピールする。


少しだけ呆れた僕は、

「ネットで早くて安い中古パソコンが有るよ」

慰めの気持ちも含めて母へ提案した。

「裕人、中古って直ぐに壊れるジャンク品でしょ」

それは昔の考えで、今は中古専門のネットショップも数多くあるから、良い意味で凌ぎを削っているとPCに詳しい同級生が言っていた。


「三年落ちのワークステーションが諸々インストールされて御値打ちだって」

「本当に心配ないの?」

我が家の遅いノートPCからネットショップのページを開き、

「これはどう?」

母へお勧めPCのスペックを見せた。


中古 デスクトップパソコン、 Windows11 、Office2021 22型液晶セット 第6世代 Corei5 メモリ8GB SSD512G


「これは持ち運べない卓上デスクトップタイプでしょう?」

「逆に訊くけど、母さんはノートパソコンを移動して使った事有るの?」


「無いけど、画面は別売りでしょ」

「それも付属で、消費税も送料も込み、何よりSSDドライブだからHDDより起動が早い、きっと不満は無いと思う」


「善く分からないけど、裕人がそう言うなら買おうかしら、どうすれば善いの?」

「父さんのクレジットナンバーを入れてポチだよ」


「詐欺で騙されないか心配だわ」

そんな母の不安は二日後に解消された。


丁寧な梱包された箱から僕が取り出してPCの簡単な配線を繋ぎ、母が電源スイッチを入れた、その3秒後に起動画面が表示されて、以前使用していたノートPCのIPアドレスを設定から無事にメール受信可能になり、8Gメモリスティックで過去のデータも移行した。


「さすが学校でパソコンの授業を経験した裕人ね」

母は感心するが、中学の授業では親世代が想像するワープロや表計算より、技術家庭科の情報科目でプログラミングを学んでいた。


スイッチ一つで起動もシャットダウンも早いSDDパソコンに満足する母だった。


今は言えないが、22型液晶モニターのPC購入は僕にも好都合だった。

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