第133話 土曜は友の家で。

天野サヤカさんに自転車を置き忘れて帰った日から数日後、年内最期の定期テストが始まった。


公立高校と私立高校を併願する生徒、実業系高校ならば運動部の推薦入試で合格し易い、都会の有名私立高校みたいに難関大学へ合格したなんて地元の私立高校では聞いた事が無い。

それでも生徒の御行儀が良い私立高校の推薦入試一本の単願する生徒も少なくない。

公立商業、工業高校の生徒全員が素行不良と言う訳じゃないが、ヤンキーと呼ばれる生徒が一割二割も居れば、そんなイメージが先行する。

それならばイッソの事、校則に厳しい安全安心な私立高校へ子供を預けようと思うのも親心。


そして前回の懇談は、担任教師と生徒に親を含めた三者懇談で志望する高校を漠然と決めたが、今回の年末テスト結果次第でより上位偏差値の高校へチャレンジするか、確実な合格を望んで高校のランクを下げるか、高校の先に大学受験を考えたならレベルの高い高校へ進みたい気持ちも分からなくない。

過去の卒業生達が東大京大などの難関大学へ進学した県内トップレベルの黒松高校で落ちこぼれるか、ワンランク下の白鳥高校、白梅高校で学年上位を目指すのか、それは生徒も含めた保護者の思いが有るだろう。


と言う僕はバスケ部を重視で県内一の強豪、元県立農林の青竹高校を志望した、370点が合格ラインの青竹高校に、それまでの定期テストで400点の僕はモチベーションが上がらないのか、今回の定期テストは同じ様な結果に成った。


本当にこのまま青竹高校で良いのか、ベストな志望校は何なのかと悩み、気分の晴れない日が続いていた。


「定期テストの成績で志望高校が変わらないなら、三者懇談は希望者だけにします」

担任のコケシちゃんこと、小池詩織先生がホームルームの時間に生徒へ告げた。


過去の定期テストと年四回の校外模擬試験から青竹高校の合格ラインをクリアしていた僕は、コケシちゃんが言うように三者懇談をスルーした。


年内最期のテストが終わり、それまで控えていた美術部室の橘葵君を訪ねた。

久しぶりに会う橘君の顔は美少女みたいで、本当に僕と同じ男性器が付いているのか確認したくなるけど、それを言ったら『セクハラだよ』と友人の縁を切られそうで口に出せない。

きっと橋本ハッシーなら平気でそんな冗談を言えそうだと思う。


「もし槇原君の都合が良ければ、今度の土曜に僕の家に来てくれない?」

再会の喜びもない橘君から突然の誘いに驚いたが、用事もなく断る理由も無いので、

「うん土曜だね、良いよ」

と返事した僕はその理由を疑う事が無かったと言えば嘘に成る。


「でも、何で?」

僕の質問に、

「家族が僕に友達が出来たのを信じないんだ、『AIでしょ』とか『妄想空想友達』とか、『CG、アバター』なんて、だから槇原君を招待して、両親と姉をギャフンって言わせたいんだ」


なるほど、元々友達が少ないのは僕も同じだが、それほど家族に交友関係を疑われる橘君には同情する。


次の土曜は、十二月十六日、特に用事は無いが出来る事なら早めに済ましたい。


「橘君の都合が良い時間は?」

「うん、十時なら槇原君は大丈夫?」

朝十時なら九時まで寝ていられるし、お昼ご飯までには帰宅できるだろう。

「全然、大丈夫」


橘君の部屋はどんなに可愛いだろう、女装男子の誘いに少しだけドキドキした。

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