第129話 十五の誕生日。

担任教師のコケシちゃんとクラスの女子に好評だった焼き芋親睦会から数日後、

「ねぇ、少し太った気がするけど」

「私も同じみたい」

女子同士の会話で聞こえてくるが、一人で焼き芋を三個以上を食べてお土産の焼き芋を自宅で幾つ食べたのか知らないが、普通なら太って当たり前だろうと思うが言わない。


「私のママも焼き芋は好きだけど、パパは胸がムカムカするって食べないから、私が片付けたのよ」

なるほど、君の父は焼き芋で胸焼けか、と納得するがそれで太る理由とは違うだろう。

人は食べた分のエネルギーを消費しないと身体に蓄積されて肥満体型になるが、飢餓の際にはそのエネルギーで痩せた人より生き延びるらしい。


同じように思うのは女子生徒だけじゃなく、担任のコケシちゃんも『太った』と独り言を漏らした。


それでも食物繊維のお陰か、女子の顔色と機嫌が良いのは朝のお通じが良いからだと想像できる。


僕の地元に金色こんじきの鳥居が建つ『黄金こがね神社』が有り、この季節は七五三の晴着を来た子供と和装の母親を目撃する。


女子は三歳と七歳、男子は五歳の七五三、五歳の僕はどんな衣装だったのか憶えて無いけど、同じ頃のお稚児行列で着物を着て化粧されたのが凄く嫌だったのは覚えている。


天野サヤカさんが言う『運命の日』も僕が幼稚園児の五歳らしいが憶えていない。

午睡が好きな僕はその日に有った嫌な出来事を忘却するから、当時から時間経過も有って記憶の復活は難しいと思う。

中学卒業の日までに『運命の日』を思い出さないと、取り返しが無いことに成りそうだが、僕は正直『記憶に有りません』しかない。


あの焼き芋親睦会から二週間が経ち、霜月十一月の晦日みそか、明日から師走の十二月に入る。

小学生の頃は『師走』と言うのは『先生が忙しく走る』と思っていた。『師走』の師はお坊さんの事で、冬の寒さが厳しくなると亡くなるお年寄りが増えてお坊さんが忙しく走るのが語源と何かで聞いたが、これが本当なのか僕は真実を知らない。


十二月に入ると直ぐに後期年末テストが有り、この結果で最終的な志望校を決定する。

これまでと変わりなく朝はチャリで天野サヤカさんを迎えに好き、帰りは一緒に送り届ける。


そんな二人での帰り道、

「明日は裕人君のお誕生日でしょ、欲しい物が有ったらプレゼントするよ」

そうか、明日の十二月一日は十五歳の誕生日だと気付いた僕に、


「民法では誕生日の前日に満年齢が上がるから、裕人君は今日で十五歳になったの」

そうなんだ、民法を理解している天野サヤカさんの知識に感心する。


「特に欲しい物は無いし、僕は天野サヤカさんのお誕生日にプレゼントしてないし」

「今は無理してプレゼントを考えなくていいよ、それより裕人君は自分の誕生日にお母さんへ『僕を産んでくれて有難う』って言うでしょう?」

それが子供から母へ感謝の『贈る言葉』なのか、顔にこそ出さないが僕は驚いた。


「え、それを言わなきゃ駄目なの?」

「そんなの当たり前でしょ、昔の男子なら十五歳で元服して一人前の侍よ」

イヤイヤ、僕の父はパン職人でさむらいでも無いし、十五歳で元服の時代がいつなのか、大河ドラマが好きな僕でも知らない。


「うん、お母さんに『産んでくれて有難う』って言うよ、教えてくれて有難う」

「そうよ、母親は命がけで子供を産んで育ててくれるから感謝を言葉にしなきゃね」

天野さんの家まで送り、いつもなら一緒に宿題や受験対策するが、この日は落ち着かなくて自宅に急いだ。


「ただいま」

「おかえり裕人、今日はいつもより早かったのね」

いつも帰りが遅い僕より先に夕食と入浴を済ます父と母の就寝前に間に合った。


「お母さん、十五年前の明日、僕を産んでくれて有難う」

「裕人、急に何を言うの、母さんを驚かせないでよ」


「うん、大事な事だから忘れないうちに言わなきゃって」

「なんか嬉しいけど恥かしいね、裕人は未だ子供だと思っていたのに、でも誰に教えられたの?」


「あ、うん、それは秘密だよ、自分の部屋で着替えてから御飯を食べるから」

母の問いに恥ずかしさが出て、僕は逃げるように自室へ向った。


翌日の十二月一日金曜日、特別な御馳走やケーキも無い僕の誕生日が過ぎた翌十二月二日は中学が休みの土曜日。

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