第128話 焼き芋親睦会。

「なぁ、槇原マッキー、何か楽しい事は無いかな?」

給食後の昼休みに、いつと同じ橋本ハッシーの台詞が聞こえてきた。


橋本ハッシーの楽しい事って、例えばどんな?」

余り気が乗らない僕の問いに、

「そうだな、お菓子を持って遠足とか、秋の遠足みたいな行楽とか」

秋と言えばの運動会は春に開催されて、秋の文化祭も作品展示だけで終了した。


中三の受験生にとって残る学校行事と言えば後期中間テストと三者懇談しかない。橋本ハッシーが希望する遠足は小学校までで、中学に入ってからお菓子の無い社会見学に代わっていた。

受験勉強のプレッシャーから橋本ハッシーと遊んでくれる友人が居なくなったとのは同情するが、その愚痴を聞かされる僕も其れほど心に余裕は無い。


「だから橋本ハッシーは何がしたいのか、明日までに考えてみろよ」

多分だが、橋本がどんなアイディアを出しても僕は却下するだろう。


「来年の春には別々の高校に別れる槇原マッキーと遊びたいだけだから、これが最期のチャンスだよ」

「ふっ」

今生の別れみたいな橋本の言いぐさに少しだけ笑いが出た。


ただ、以前に母が言っていた『偏差値で仕分けされた高校に入ると中学の友達と遊ばなくなって、大学に入ると高校時代の友達と会わなくなって、大人に成ると地方から来ていた大学の友達も会えなくて、結局中学時代の思い出が一番懐かしい』を思い出した。


「なぁ槇原マッキー、明日までイベントを考えてくるから頼むよ」

そこで昼休みの会話は終わり、午後からの授業が始まる。

翌朝の始業前、嬉しそうに微笑む橋本は、

「グッドなアイディアが浮かんだ、昼休みを楽しみにしてくれ」

今日の昼休みも不毛な時間に成るのか、そんなイメージしかない。


四時限終了から給食、掃除の後に昼の休憩時間が始まる。


槇原マッキー、こんなのはどうだ?」

「何が?」


「ジャーン、秋の味覚と言えば栗芋カボチャだろ、俺の爺さんが趣味の畑でサツマイモ芋を作っていて、最近は年で体力が落ちて『代わりに芋ほりをして欲しい』って言うから『掘ったサツマ芋を焼き芋で食べるけど良いの?』の返事に『好きなだけ食べろ』になって、俺と焼き芋パーティーをしようぜ」

焼き芋と言われて、天野サヤカさんとスーパー・カメスエで焼き芋を買った記憶が蘇った。

「僕と橋本ハッシーの二人だけでか?」


「だから、そこは他の誰かを誘って、だよ」

「彼女の吉田サユリさん以外の女子か?」


「別にそう言う意味じゃなくて、そうだ、三年四組の親睦会レクレーションで焼き芋会を開催しよう」

誰が焼き芋に釣られて参加するのか、焼き芋を好きで無い僕は理解に苦しむが、背中に熱い視線を感じて振り返った。


「ねえ槇原君、その焼き芋会って、私も参加出来るの?」

いつも僕と橋本の馬鹿話を聞いて笑うクラスの女子が、今日は積極的に話掛けてきた。

「ほら槇原マッキー、青木 のぞみさんが参加希望者第一号だよ、強制しない自由参加で女子全員に声を掛けよう」


「それは橋本ハッシーの担当だな、と言うより全てが橋本ハッシーの責任なら僕も参加するけど手伝わないよ」


「勿論だ、ただ芋畑に熊や猪が出たら槇原マッキーが退治してくれよな」

「その芋畑に熊や猪が出るのか?」

これは橋本ハッシーのボケかギャグなのか、どちらにしても笑えない。


「いや、今まで熊や猪が出た事は無いが、万が一の用心だよ」

やっぱり、そんな事だろうな・・・

橋本ハッシーがクラスの女子に声を掛けるより早く青木希さんからグループラインが回った、らしい。


そんな光景を何処からか見ていた、担任教師の小池詩織ことコケシちゃんは両手を合わせて僕と橋本を見つめて。

「槇原君、橋本君、私も参加して駄目かな?」

いつもと同じ小動物の様な顔で尋ねてくるから橋本は、

「勿論、コケシちゃんの参加を大歓迎します」

「やったぁ」

生徒にコケシちゃんと呼ばれても『やったぁ』と喜ぶ担任を不思議に思う。



四組限定の親睦会レクレーションイベントは、三組の吉田サユリさんと天野サヤカさんに口外禁止と、主催者の橋本と僕は気遣われたが、共犯者にされたのではと気にする。


その週末、土曜の午前十時、橋本のお爺さんが所有する畑に四組の女子全員と参加希望した男子の一部が集合した。

勿論、担任のコケシちゃんも居た。


前もって橋本から説明で『服装は体育のジョージと各個人で作業軍手と移植シャベル、持ち帰り用のエコバッグを持参して』と聞いた。


田舎の中学生なら家業の手伝いで芋掘りを経験しているが、僕もそうだが街育ちの子供に芋掘りは初めての経験で難しそうだった。


橋本のお爺さんから説明は、芋の葉からツルをたどりシャベルで回りの土を掘ってから、さつま芋の近くは手で土を取り除く為に作業用軍手が必要だと知った。


大きなサツマ芋からツルが伸びて中くらいのサツマ芋が繋がり、さらに小さいサツマ芋が続いて収穫できる。

これを見た女子生徒は口々に『本当に芋づる式ね』と満面の笑顔を見せる。


手押し式のポンプで井戸水を汲み上げたタライで収穫したサツマ芋を洗い、爺さんが軽トラで運んできた陶器のかめを僕と橋本が下ろして、中に火を着けた炭を入れて置き火に成るのを待つ。

直火でサツマ芋を焼くと表面の皮から焦げたり、燃えて炭に成るらしい。


ピザ窯と同じ様に陶器の瓶で焼き芋を完成させるらしい。

これも爺さんのレクチャーで学んだ。

中学三年生の僕は先人の知恵に『これはテレビでは学べない』と感心した。


陶器窯の輻射熱と遠赤外線のお陰でサツマ芋は中まで熱が届き、トロトロに甘い焼き芋が完成した。

勿論、僕の想像どおり、『甘くて凄く美味しいね』コケシちゃんと女子生徒達は男子の眼を気にせず焼き芋に夢中で食していた。


「あれ、槇原マッキーは焼き芋が苦手なのか?」

僕が焼き芋を食べてない事に気付いた橋本ハッシーが訊いてきた。


「出来るなら、ホクホクした種類の焼き芋を頂きたい」

紅はるかや安納芋が柔らかく甘い種類と知っているが、僕が知る昔の焼き芋は焼き栗のようにホクホクしていて、それの方が僕の好みだから食が進まない。


それでも少し焼き足りないサツマ芋がホクホクして美味しいと感じる。


後日談と言うか、数時間後談。


芋掘りから焼き芋を作り、食べきれない焼き芋をコケシちゃんと女子生徒が中心でお土産に持ち帰った。

僕も焼き芋を土産を持たされたが、もしも天野サヤカさんに見つかり『これはどうしたの?』と訊かれる不安で母へ贈ろうと家路を急いだ。


「ただいま」

「お帰り」

僕の声に母の返事が聞こえる、靴を脱いだ玄関からリビングへ向い、

「母さん、お土産だよ」

エコバッグの焼き芋を差し出すと同時に来客が振り返り、

「あ、裕人君、お土産って私に?」


僕の留守に天野サヤカさんが訪ねて来て、母とお茶して僕を待っていたらしい。


「あ、うん、丁度好いタイミングだったね」

運が良いのかお土産の焼き芋が美味しかったのか、母の前で天野サヤカさんから事情聴取されずに済んだ。

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